福永博之先生に聞く信用取引入門

【信用取引入門】第14回:決済方法の具体例(現渡し、または品渡し)

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【福永博之先生に聞く信用取引入門】
前回記事はこちら 第13回:決済方法の具体例(現引きまたは品受け)

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今回は、信用取引の売り建ての決済方法である「現渡し(ゲンワタシ)、また品渡し(シナワタシ)」について詳しく解説します。言葉の意味は前回の「現引き(ゲンビキ)と品受け(シナウケ)」で解説しましたので、何となくイメージができているのではないかと思いますが、聞きなれない言葉ですのであらためて簡単に説明します。

現渡しの現(ゲン)や品渡しの品(シナ)は、現物株のことを指します。信用取引の売り建ての返済のため、借りていた現物株を市場で買い戻して返済する方法(買戻し)がありましたが、買戻しとは異なり借りていた株券の返済にすでに保有している株を充当することが「現渡しや品渡し」の意味になります。

さらに、現渡しや品渡しによる決済が終了すると、売り建てた際の価格で決済された売却代金から貸し株料などのコストが差し引かれて口座に入金されます。

したがって、現渡し決済を行った日の価格で決済されるわけではありませんので、間違わないようにしましょう。

では、仕組みが分かったところで具体的な例を見ていきたいと思います。今回の現(品)渡しですが、現物株を持っていることが前提条件となります。では、実際の事例を見ていきましょう。

2024年8月に入り、東京市場は大荒れになりました。日銀金融政策決定会合で利上げが発表された一方で、経済指標が予想に届かず、アメリカの景気後退懸念が強まったことから為替市場でドルが下落し、一日でおよそ5円も円高に振れる場面がありました。
この時、東京市場では円高を嫌気して多くの銘柄が売られ、8月5日には過去最大の下げ幅を記録。一方で翌6日には過去最大の上げ幅となりました。

こうした場面で保有している株が値下がりすると考え、保有株と同銘柄で信用取引の売り建てを行ったとします。例に取り上げるのはサンリオ(8136)です。

サンリオを200株保有しているとき、8月2日の取引終了後に通期業績の上方修正を発表しました。そのため翌営業日の5日は買い優勢で始まりましたが、市場の不安心理が大きくなっていたため、この銘柄も下落に巻き込まれる格好となり、午前中の終値でマイナスに沈んでいたことから、午後の取引開始時の値段2,821円で100株売り建てを行いました。この時の保証金は現金30万円+保有株(サンリオ200株)とします。

その後、予想通り下げ幅を拡大し、5日当日の終値は2,701円となりました。この時点で、売り建て価格から値下がりしており、含み益が発生している状態です。

含み益は(2,821円-2,701円)×100株=12,000円(含み益)
※手数料などのコストを除く

ところが、翌営業日には前述のように市場が大きく反発したことを受け、この銘柄も買いが優勢となって上昇して始まり、取引終了にかけて上げ幅を広げ3,185円で取引を終えました。このように予想に反して翌日大幅高となり、売り建てた価格を上回ってしまったことから、信用取引の売り建てに含み益がある状態から含み損が発生することになってしまいました。

具体的には・・・

(2,821円-3,185円)×100=-36,400円

になります。

こうした状況のなか、買い戻すと36,400円超の損失になってしまうことや、下がるのを待つと金利などのコストが膨らむことになるため8月7日に現渡しを選択しました。

現渡しを選択して注文すると、売り建てた価格である2,821円×100株=282,100円から売り建てで発生した金利などのコストが差し引かれ、信用取引口座に入金されることになります。今回たまたま大幅安と大幅高が連日発生したために、信用取引の売り建てで危うく大きなマイナスになるところでしたが、信用取引で売り建てたのが保有している株であったおかげで現渡し決済を使うことができました。

もう1つ例を紹介します。株主優待が魅力の一つとなっているオリエンタルランド(4661)です。

オリエンタルランドは500株保有すると3月末を基準に株主優待※がもらえるため、2024年1月の大発会に終値5,152円で500株を購入しました。

その後値上がりして5,765円の高値をつけましたが、徐々に上値が重たくなると、2月6日には終値で買値を下回ってしまいました。ただ、3月末まで保有しないと株主優待がもらえないことから保有を続けることにしましたが、5,500円に達したあと再び上値が重たくなってきたため、3月1日の終値5,389円で500株売り建て、値下リスクを回避することにしました。

その後株価の下落が続き、3月8日にはついに現物株の買値を下回ってしまいました。ただ、信用取引の売り建ての含み益で現物株の含み損が相殺されているため、株主優待の受け取りが確定する基準日まで値下がりリスクを回避しつつ現物株を保有し続けることができます。

そうしたなか、株主優待が確定したあとも株価の下落が続いて買値を上回ることが無かったため、現渡しを選択することにしました。

すると結果は・・・

現渡しによる決済代金=5,389円×500株=2,694,500円-金利などのコスト

となります。

このように現渡し決済が使えることから、現物株を保有したままで売り建てを行い、値下がりリスクを回避した上で株主優待を受け取ることも可能になりますので、是非覚えておきたい決済方法と言えます。

※オリエンタルランドの株主優待の詳細は、同社のホームページでご確認ください。

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著者/ライター
福永 博之
国際テクニカルアナリスト連盟 国際検定テクニカルアナリスト
日本テクニカルアナリスト協会・前副理事長

勧角証券(現みずほ証券)を経て、DLJdirectSFG証券(現楽天証券)に入社。同社経済研究所チーフストラテジストを経て、現在、投資教育サイト「itrust(アイトラスト) by インベストラスト」を運営し、セミナー講師を務めるほか、ホームページで毎日マーケットコメントを発信。テレビ、ラジオでは、テレビ東京「モーニングサテライト」(不定期)、日経CNBC「昼エクスプレス」(月:隔週担当)、Tokyo MX「東京マーケットワイド」(火:午後担当)、ラジオ日経「ウイークエンド株」(有料番組)、「マーケットプレス」(金:午後隔週担当)、「スマートトレーダーPLUS」(木:16時~16時30分放送)などにレギュラー出演中。また、四季報オンラインやダイヤモンドZAIなどのマネー雑誌にも連載を持つ。著書には「テクニカル分析 最強の組み合わせ術」2018年6月発売(日本経済新聞出版社)、「ど素人が読める株価チャートの本」(翔泳社)などがあり、それぞれ台湾で翻訳出版され大好評。テクニカル指標の特許「注意喚起シグナル」を取得、オリジナルで開発した投資&ビジネスメモツールi-tool(アイツール)を提供中。
著者サイト:https://www.itrust.co.jp/
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