スチュワードシップ担当者から見た日本企業の働き方改革

伊藤忠商事に見る働き方改革への取り組み

提供元:三井住友トラスト・アセットマネジメント

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はじめに

日本の働き方における変革は、この10年で顕著に見られました。古くからの考え方や体制が見直され、新しい働き方の導入が進む中で、多くの職場では大きな転換期を迎えることとなりました。特に、30代やそれ以上の世代の方々は、自らのキャリアを通じてこれらの変化について身をもって経験しているのではないでしょうか。

資産運用会社に勤務する私たちも、これらの変化を日々感じているところです。ここでは、働き方に関連する日本の課題と、それに対する日本企業における取り組みを特に伊藤忠商事のケースに注目して解説します。

我が国の課題

日本の少子化問題は長年にわたって国内外から注目され続けてきました。2024年6月の厚生労働省の発表によると、前年の合計特殊出生率が1.20に達し、これは統計史上最低の数値となりました(図表1)。この少子化の背景としては、経済的な不安や仕事と子育ての両立の難しさがよく指摘されます。

さらに、女性活躍の観点から見ても課題は多く、同年6月に公表された世界経済フォーラムによるジェンダー・ギャップ指数(図表2)では、日本は146カ国中118位という結果でした。過去最低だった前年(125位)よりは改善したものの、依然低い水準にあることに変わりありません。これらの指標からも、日本が直面している課題の深刻さが伺えます。

伊藤忠商事の取り組み紹介

長年にわたって深刻な問題となっている少子化問題ですが、この問題に立ち向かう日本企業を紹介します。2010年、伊藤忠商事は労働生産性向上という目標を掲げて、働き方改革に着手、「人材戦略」を重要な経営戦略の一つとして打ち出し、フレックスタイム制をはじめ企業内での働き方を根本から見直し始めました。

その主な取り組みとしては、図表3にあるように、「朝型勤務制度」をはじめとした数々の革新的なチャレンジを、スピード感をもって導入しました。

この取り組みはメディアでも紹介され多くの反響を呼びました。20時以降の残業を原則禁止とし、残業する場合には、翌朝の5時から8時までの早朝勤務を推奨するもので、朝8時以前に業務を開始した社員には、インセンティブとして割増賃金の支給や無料で軽食を配布するなど、社員の行動変容を促しました。

その後、同社従業員の間で定着した朝型勤務は、社員の時間に対する意識の変化をもたらしただけではなく、子育て、介護、傷病等、勤務時間に制約のある社員の活躍を後押しすると共に、家族との時間や自己啓発等、社員の働きがい向上にも貢献することとなりました。

最後にこのような取り組みにより労働生産性はどのように変化したのか見てみましょう。図表4は、2010年に同社が働き方改革に着手してから10年超が経過し、その間における同社における出生率、男女間の賃金格差、そして従業員数と連結純利益に関するチャートとなります。

いずれも着実に改善している様子が理解できますが、特に最後のチャートでは連単の差はありますが、従業員数がほぼ横ばいであるにも関わらず、連結純利益は右肩上がりとなっており、同社が目指していた労働生産性の向上が達成されていることが確認できます。

このように考えると同社の働き方改革は、単に仕事のやり方を変えるだけにとどまらず、企業文化、企業の価値観の大きな転換をもたらしたと考えられ、中長期的な視点から見れば、持続可能な企業成長に不可欠な要素といえます。そして、このような働き方改革を通じて、社員一人ひとりが満足度の高い働き方を実現し、結果として企業全体の労働生産性向上、さらに企業の競争力強化とも繋がるものと考えられます。

さいごに:三井住友トラスト・アセットマネジメントの活動

働き方改革は企業にとっても社会にとっても多大な利益をもたらします。それは、社員の幸福度を高めるだけではなく、社会全体の問題解決に寄与し、持続可能な発展を促すための重要なステップとも考えられます。今回取り上げた伊藤忠商事の取り組みは、他の多くの企業にとって学び、そして参考となる事例であり、その実践は今後も注目されるでしょう。

私たち三井住友トラスト・アセットマネジメント(以後、「SMTAM」)は、責任ある機関投資家としてこうした企業の取り組みをサポートしていきたいと考えています。ESG(環境、社会、企業統治)課題に注意を払いながら、12項目の「ESGマテリアリティ」(図表5)に基づきエンゲージメント活動や議決権行使活動などを行い、投資先の企業価値向上を目指しています。

今回取り上げた人的資本に関する取り組みやジェンダー格差の是正についても投資先企業との間で議論を重ねています。伊藤忠商事のような好事例を他の会社にも紹介しながら、日本市場全体の企業価値向上に向け、中長期的な持続的成長を促すエンゲージメント活動を積極的に推進し、皆様からお預かりした資産の価値向上に向けて活動してまいります。

※上記は特定の有価証券への投資を推奨しているものではありません。

(提供元:三井住友トラスト・アセットマネジメント)

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