本から開く金融入門

【三宅香帆の本から開く金融入門】

親子で読むべき金融入門『お父さんが教える 13歳からの金融入門』

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13歳から「金融」?

「13歳から、金融だなんて……」

と、本書のタイトルを見た方は思われるかもしれない。

デヴィット・ビアンキ『お父さんが教える 13歳からの金融入門』日本経済新聞出版社

小学生のうちから金融リテラシーを高めた方がいい、と言われるとぎょっとする人もいるのではないだろうか。たしかに2022年度以降、高校の「家庭科」において資産形成についてのカリキュラムが組み込まれるなど、学習指導要領の改訂のタイミングで金融教育が強化されている昨今だ。しかしそれでも、大人ですらどういう金融知識を知っておけば安心なのか、よくわからないというのが正直なところではないだろうか。ましてや、小学生や中学生がどの程度金融の情報について知っておくべきなのか、なんて「わからない!」と叫んでしまいそうになるのが本音である。

そんな方々にこそ、本書『お父さんが教える 13歳からの金融入門』はおすすめしたい一冊である。

なぜなら本書は、アメリカのベテラン弁護士である著者デヴィッド・ビアンキが、13歳の息子に「これだけは今のうちから知っておくといい」と伝えたい金融知識について執筆した本だからである。挿絵も多く、用語もわかりやすく、とても読みやすい。しかし内容は本格的な金融教育の本。

親子で読むべき金融入門、と言える本となっている。

アメリカの弁護士が息子に伝える金融

著者デヴィッド・ビアンキは、「アメリカでは生きていくのに必要な金融の知識がなかなか学校でしっかりと教えられていない」と嘆いている。仮想通貨も含めた、お金にはさまざまな種類があること。なぜクレジットカードを使えば、カードで物が買えるようになるのか、という疑問への答え。金利の高低によって、お金が増えたり減ったりするように見える理由。そして株式市場の仕組み、株式チャートの見方、株式市場を利用したお金の増やし方……。それらを13歳の息子に向けて説明したノートがもとになって、本書が生まれたのだという。

アメリカの弁護士が伝える本なので、当然、アメリカの金融知識が多め。たとえば「オプション」「ミューチュアル・ファンド」「プライベート・エクイティ」「ベーシスポイント」といった、日本人の大人でも説明してくれと言われたらしどろもどろになってしまいそうな語彙も丁寧に説明されているのが本書の魅力のひとつだろう。

そして私が本書を読んでいいなと感じた点は、著者が繰り返し「お金を増やすこと」とセットで「お金を使うこと」について語っているところだ。

収入の範囲で生活しよう

金融というと、お金の増やし方について語っているのだと思う人は多いのではないだろうか。たとえば投資について、金利について、そのよりよい利用方法を知りたいと思うのは当然のことだ。

一方で、とくに10代の子に伝える金融教育という意味では、本書が伝えるメッセージはとても有効ではないだろうか。

それは、「収入の範囲で生活しよう」ということである。

当たり前だろう、と思われるかもしれないが、このメッセージを繰り返し伝えることは、私はとても大切なことだと感じている。投資という言葉を使い、高リスクな商品を売りつけられてしまうこともあるからだ。収入を超えた支出を望んでしまうがあまり、高リスクな投資に手を出してしまう人もいるかもしれない。そう考えると、まずは収入の範囲内で生活する、ということの重要性を伝えることもまた、大切な金融教育なのだろう。

若い世代に伝えたいこと

本書のあとがきで、著者はこう綴る。

すごく多くの若い人たちが、学費ローンに足を引っ張られて夢を叶えられなくなっている。教育債務の支払いは増えて、老人が受け取る年金はこのところずっと少なくなっている。おカネをどう運用して投資するかについても、借金をしすぎることの負担についても、いますぐみんなに教える必要がある。子を持つ親として、ぼくたちは行動を起こさなくちゃならないし、この本はぼくができる行動の始まりだ。
(『お父さんが教える 13歳からの金融入門』)

アメリカだけでなく、日本でも大学進学の際に借りた奨学金の支払いが、大人になってからも負担になっている人は多いだろう。もちろん奨学金を借りないといけない状況は存在するし、奨学金が悪だなどと言いたいわけではない。そうではなく、奨学金を借りなければならない状況のなかで、株式投資して運用することは不可能なのか、その元手となる資金はどうやってつくればいいのか、そしてむやみにローンを組むべきではないといった知識はもっと伝えられる必要があるのではないか、ということを本書は書いているのだ。

お金について苦しむ若い世代に対して、お金の知識がもっと伝えられるべきではないのか。アメリカに住む著者はそう訴える。

日本の若い世代もそのメッセージを受け取るべき存在として、例外ではないはずだ。奨学金や税金といった、目の前の負担に精いっぱいになってしまうかもしれない。しかし、それでも若いうちからしかるべき金融資産を少額でも運用していれば、ちゃんとお金が増える可能性が高い。そしてそれが可能になるような元手をつくれるよう、支出は収入に合わせた額にすべきだ。――そういうことを教えるのが、本当の金融教育なのかもしれない。と、本書を読むと思う。

親子で読むべき金融入門の一冊。ぜひおすすめしたい。

著者/ライター
三宅 香帆
京都大学大学院人間・環境学研究科卒。会社員生活を経て、現在は文筆家・書評家として活動中。 著書に『人生を狂わす名著50』『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』などがある。フリーランスになったことをきっかけに、お金の勉強を始めている。
用語解説

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