年金額が倍になると税金・社会保険料も倍…ではない?
年金月額「10万円」と「20万円」で税金・社会保険料の負担はいくら違うのか
提供元:Mocha(モカ)
年金の受給額が月10万円の場合と月20万円の場合では、天引きされる税金と社会保険料はどれくらい違うのでしょうか?今回は東京都世田谷区を例に、所得税と住民税、国民健康保険料、介護保険料、後期高齢者医療保険料の違いを、65歳~74歳と75歳以上の場合に分けて試算してみました。
年金から何が天引きされるの?
年金は、原則偶数月に2ヵ月分ずつ受け取ることができます。多くの人は指定する口座へ振り込まれることになると思いますが、その際、年金から税金や社会保険料が天引きされます。
年金から天引きされるものは以下の通りです。
・所得税
・住民税
・国民健康保険料(74歳まで)
・後期高齢者医療保険料(75歳以上)
・介護保険料
●所得税
公的年金は雑所得となり、所得税の対象となります。ただ、公的年金等控除や基礎控除などの所得控除を受けることで、所得税が非課税になったり、税額を抑えたりすることができます。65歳以上で単身・年金収入のみの場合、目安として年金収入が158万円以下のときは所得税が非課税になります。
●住民税
公的年金など収入がある場合、住民税の対象となります。また、住民税は所得割と均等割から成り立っています。ただ、収入が一定以下の場合は非課税になります。非課税になる基準額は住んでいる自治体により異なりますが、65歳以上で単身・年金収入のみの場合、東京23区内では目安として、年金収入が155万円以下の場合、住民税の所得割と均等割が非課税になります。
●国民健康保険料
会社を退職し、これまで加入していた健康保険を抜けると、74歳までは国民健康保険に加入します。国民健康保険料は基礎分・後期高齢者支援金分・介護分(40歳以上64歳まで)の3区分の保険料を合計したものです。ただ、65歳から74歳の人が支払う保険料は、基礎分と後期高齢者支援金分の2区分の合計額となります。
基礎分、後期高齢者支援金分はそれぞれ、所得割と均等割から成り立ち、保険料は世帯単位で納付します。また自治体によっては、所得が一定額以下の場合、均等割額の軽減を受けられる場合があります。
●後期高齢者医療保険料
75歳になると、これまでの国民健康保険から後期高齢者医療制度に移行します。保険料は均等割と所得割から成り立ちます。自治体によっては均等割額の軽減を受けられる場合があります。
●介護保険料
40歳から徴収される介護保険料ですが、65歳以上は年金からの天引きになります。保険料額は3年ごとに行われる介護保険制度改正にあわせて見直されます。また介護保険料は、住民税の課税状況や公的年金収入、その他の合計所得金額などにより18段階(東京都世田谷区の場合。自治体によって段階の数は異なります)に区分されています。
以上を踏まえて、年金が月10万円の場合と月20万円の場合に天引きされる税金と社会保険料の額を試算してみます。
年金が月10万円の人はどれくらい天引きされるの?
月10万円の年金をもらっている人は、天引きされる税金や社会保険料はどれくらいになるのか、東京都世田谷区を例に、65歳~74歳と75歳以上に分けて試算してみます。
<試算の条件>
・年金:月10万円、年額120万円
・公的年金等控除(110万円)を控除後、雑所得は10万円
・東京都世田谷区在住
・単身者
・年金収入のみ
●65歳~74歳の場合
〇国民健康保険料
国民健康保険料を計算するうえで、もととなる賦課基準額は以下のように計算します。
賦課基準額=前年の所得額-43万円
今回は雑所得10万円で、10万円<43万円になるので、賦課基準額は0円です。
<基礎分>
基礎分の所得割額=賦課基準額×8.69%
所得割額の賦課基準額は0円なので、所得割額は0円です。
均等割額=4万9100円×被保険者数
合計所得金額は雑所得の10万円のみなので、均等割額の軽減を受けられます。
今回の事例では7割軽減となります。
4万9100円-3万4370円(7割軽減の額)=1万4730円
<支援金分>
支援金分の所得割額=賦課基準額×2.80%
今回、賦課基準額が0円なので、所得割額は0円です。
均等割額=1万6500円×被保険者数
今回の事例では7割控除を受けられます。
1万6500円-1万1550円(7割軽減の額)=4,950円
国民健康保険料⇒基礎分1万4730円+支援金分4,950円=1万9680円
〇介護保険料
今回の試算では雑所得が10万円なので住民税は非課税です。
よって、保険料段階は下記に該当します。
第2段階:保険料額3万6550円
本人および世帯全員が住民税非課税で、本人の公的年金等収入金額と合計所得金額(公的年金等に係る雑所得金額を除く)の合計が80万円を超え120万円以下
介護保険料⇒3万6550円
〇所得税
今回、所得税の計算で差し引く所得控除は、基礎控除と社会保険料控除のみとします。
・基礎控除:48万円
・社会保険料控除(国民健康保険料+介護保険料):5万6230円
雑所得10万円-48万円-5万6230円≒0円
課税所得は0円なので、所得税は0円です。
〇住民税
差し引く所得控除
・基礎控除:43万円
・社会保険料控除(国民健康保険料+介護保険料):5万6230円
雑所得10万円-43万円-5万6230円≒0円
課税所得は0円なので、住民税は0円です。
試算の結果、65歳~74歳で年金が月10万円の場合、税金0円、社会保険料5万6230円となりました。
●75歳以上の場合
75歳からは国民健康保険が後期高齢者医療制度へ移行するので、後期高齢者医療保険料を試算します。
〇後期高齢者医療保険料
均等割額:4万7300円
所得割額:賦課のもととなる所得金額×8.78%または9.69%
賦課のもととなる所得金額は、「前年の総所得額-43万円」で計算します。
今回の試算では、雑所得10万円-43万円≒0円 となるため、所得割額は0円です。
雑所得が10万円なので、均等割額の軽減を受けられます。今回は7割軽減となります。
4万7300円-3万3110円(7割軽減の額)=1万4190円
所得割額0円+均等割額1万4190円=1万4190円
後期高齢者医療保険料⇒1万4190
75歳以上の社会保険料は、
介護保険料3万6550円+後期高齢者医療保険料1万4190円=5万740円
試算の結果、75歳以上で年金が月10万円の場合、年金から税金0円、社会保険料5万740円が天引きされることがわかりました。
年金月20万円の人はどれくらい天引きされるの?
ここでは、年金が月20万円の場合、65歳~74歳と75歳以上では税金と社会保険料がどれくらい天引きされるのか試算してみます。
<試算の条件>
・年金:月20万円、年額240万円
・公的年金等控除(110万円)を控除後、雑所得は130万円
・東京都世田谷区在住
・単身者
・年金収入のみ
●65歳~74歳の場合
〇国民健康保険料
賦課基準額=前年の所得額-43万円
今回の試算による賦課基準額は、雑所得130万円-43万円=87万円です。
<基礎分>
基礎分の所得割額=賦課基準額×8.69%=87万円×8.69%=7万5603円
均等割額:4万9100円×被保険者数
基礎分の合計は、12万4703円です。
<支援金分>
所得割額:賦課基準額×2.80%=87万円×2.80%=2万4360円
均等割額:1万6500円×被保険者数
支援金分の合計は、4万860円
国民健康保険料⇒基礎分12万4703円+支援金分4万860円=16万5563円
〇介護保険料
今回の試算では雑所得が130万円になるので、保険料段階は下記に該当します。
第7段階:保険料額9万4200円
本人が住民税課税で、合計所得金額が120万円以上210万円未満
介護保険料⇒9万4200円
〇所得税
差し引く所得控除
・基礎控除:48万円
・社会保険料控除(国民健康保険料+介護保険料):25万9763円
雑所得130万円-48万円-25万9763円=56万237円
所得税率は5%なので、56万237円×5%=2万8011円
所得税⇒2万8011円
〇住民税
差し引く所得控除
・基礎控除:43万円
・社会保険料控除(国民健康保険料+介護保険料):25万9763円
雑所得130万円-43万円-25万9763円=61万237円
住民税税率10%+均等割5,000円
61万237円×10%+5,000円=6万6023円
住民税⇒6万6023円
試算の結果、65歳~74歳で年金が月20万円の場合、年金から天引きされるのは、税金9万4034円、社会保険料25万9763円となりました。
●75歳以上の場合
75歳以上になると後期高齢者医療制度へ移行します。それにより社会保険料控除の額も変わるので、税金も改めて試算します。介護保険料のみ65歳~74歳の保険料と変わりません。
〇後期高齢者医療保険料
均等割額:4万7300円
所得割額:賦課のもととなる所得金額×8.78%または9.69%
賦課のもととなる所得金額が58万円以下の場合は8.78%を、58万円超の場合は9.67%を掛けます。
賦課のもととなる所得金額は、以下のようになります。
前年の総所得額-43万円=130万円-43万円=87万円
よって所得割額の計算では9.67%を掛けます。
87万円×9.67%=8万4129円
後期高齢者医療保険料⇒所得割額8万4129円+均等割額4万7300円=13万1429円
〇所得税
差し引く所得控除
・基礎控除:48万円
・社会保険料控除(後期高齢者医療保険料+介護保険料):22万5629円
雑所得130万円-48万円-22万5629円=59万4371円
所得税率は5%なので、59万4371円×5%=2万9718円
所得税⇒2万9718円
〇住民税
差し引く所得控除
・基礎控除:43万円
・社会保険料控除(国民健康保険料+介護保険料):22万5629円
雑所得130万円-43万円-22万5629円=64万4371円
住民税税率10%+均等割5,000円
64万4371円×10%+5,000円=6万9437円
住民税⇒6万9437円
75歳以上の税金は、所得税2万9718円+住民税6万9437円=9万9155円
社会保険料は、介護保険料9万4200円+後期高齢者医療保険料13万1429円=22万5629円
試算の結果、75歳以上で年金が月20万円の場合、年金から税金9万9155円、社会保険料22万5629円が天引きされることがわかりました。
年金受給額が増えると税金・社会保険料も増えていく
ここで、年金が月10万円と20万円の場合、天引きされる税金と社会保険料がどれくらい変わるのか比較してみましょう。
<65歳~74歳の税金・社会保険料(年額)>
<75歳以上の税金・社会保険料(年額)>
年金が月10万円と20万円では、天引きされる税金と社会保険料がかなり異なることがわかりました。65歳〜74歳では約30万円、75歳以上では約27万円の差ですから、大きいですよね。
国民健康保険料と後期高齢者医療保険料には所得割があり、所得が多くなると保険料額も増えていきます。また、収入が少ないと所得税と住民税が非課税になったり、国民健康保険料や後期高齢者医療保険料では均等割額の軽減が受けられたりする場合があります。
今回は年金収入のみ単身者の場合で試算しましたが、年金以外にも収入を得ていたり、扶養家族が増えたりすると、税金や社会保険料の金額が変わります。iDeCoや企業年金、個人年金などを受け取ると収入が増えて、税金や社会保険料が増える場合があることを頭に入れておきましょう。
(執筆:ファイナンシャルプランナー 前佛朋子)
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