福永博之先生に聞く信用取引入門

【信用取引入門】第15回:リスク管理の具体例1(株価下落と追証への備え)

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【福永博之先生に聞く信用取引入門】
前回記事はこちら 第14回:決済方法の具体例(現渡し、または品渡し)

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2024年8月は歴史に残る記録的な値動きの月となりました。日経平均株価は月初から下落が始まると、8月5日にはブラックマンデーを上回って過去最大の下げ幅となる4,451円安(下落率12.40%)となりました。

一方で、翌6日には3,217円高(上昇率10.23%)と、過去最大の上げ幅を記録するなど、上下の値動きが激しく、変動率の大きな月となったことが分かります。

こうした値動きが発生すると、信用取引で注意しなければならないのは建玉の値下がりです。また、値下がりしたときに注意が必要なのは追加で保証金を差し入れなければならなくなることです。

信用取引は現金や株券などを担保にして購入代金や株券を借りて行う取引ですが、建玉に評価損が発生してしまうと委託保証金から評価損が差し引かれます。

委託保証金から評価損分の金額が差し引かれて委託保証金維持率である20%を下回ると、20%を上回る資金を信用取引口座に入金しなければなりません。これが追証(オイショウ)です。

信用取引の建玉がどのように変化すると追証が発生するのか、具体的な例で解説します。

今回の例では、歴史的な下落局面で円高に振れたことから輸出関連株が大きく下落しましたので、そのなかでも比較的下落率が大きかった自動車株の中のトヨタ自動車(7203)を例に取り上げます。

トヨタ自動車は7月5日に3,399円の高値をつけたあと上値が重たくなり下落に転じましたが、日銀の金融政策発表後に株価が下げ止まったことから、上昇を期待して発表当日の7月31日の終値2,949円で300株購入しました。この時の約定代金は2,949円✕300株=884,700円、必要な委託保証金は884,700円✕30%=265,410円になりますが、最低委託保証金が30万円ですので30万円とします。

そうしたなか、米国の景気後退懸念から円高が進行したことなどによって東京市場は前述のように大荒れの展開となってしまいました。

また、トヨタ自動車の株価も翌営業日の8月1日には2,699円(終値)まで下落し、評価損が(2,699円-2,949円)×300株=-75,000円となりました。

この時点で委託保証金の300,000円から75,000円が差し引かれ、300,000円-75,000円=225,000円となりました。また委託保証金の約定代金に対する割合は、225,000円(委託保証金)÷884,700円(約定代金)✕100=25.43%となり、委託保証金維持率の20%に接近しているのが分かります。

ところが、2日も2,585円(終値)まで下落する結果となり、この時点の評価損は(2,585円-2,949円)×300株=-109,200円となり、委託保証金からこの金額が差し引かれます。

実際には300,000円-109,200円=190,800円になります。この時点での委託保証金の約定代金に対する割合は、190,800円(委託保証金)÷884,700円(約定代金)✕100=21.56%となり、この時点で委託保証金維持率ぎりぎりになってしまっており、翌営業日以降、下落幅次第では追証が発生してしまう可能性がある水準です。

では、休み明けの5日になるとどうなったのでしょうか。

終値は2,232円と、さらに下落してしまったため評価損が(2,232円―2,949円)×300株=-215,100円となり、委託保証金の30万円からこの金額を差し引くと…

300,000円-215,100円=84,900円となり、約定代金の20%にあたる176,940円を大きく下回ってしまうことになりましたので、冒頭に書いたように、定められた期日までに20%を上回る金額になるまで追加で保証金に差し入れなければなりません。

これが追証発生の流れになりますが、建玉が下落して評価損が膨らんでいる状況のなか、ただ漠然と大丈夫だろうと静観していてはリスク管理にはなりません。そこでみなさんに是非、試してみてほしいことがあります。

それは、株価がいくら下がったら追証が発生するのかをあらかじめシミュレーションしておくことです。

例えば、今回紹介したケースでは、2,949円で300株を信用取引で買い建てし、委託保証金を30万円としましたが、この時点で株価がいくらまで下落すると追証が発生するのかをシミュレーションしておくのです。

ちなみに、委託保証金から評価損分が差し引かれて委託保証金維持率の20%を下回る株価は、以下のように計算できます。

・884,700円(約定代金)✕20%(委託保証金維持率)=176,940円
・300,000円(委託保証金)-176,940円=123,060円
・123,060円÷300株(購入株数)=410円20銭(下落幅)

となり、建値(タテネ)から410円20銭超下落すると、追証が発生することになりますが、株価に置き換えると、2,949円-410円20銭=2,538円80銭となり、この価格未満になると、委託保証金維持率である20%の金額を下回ることが事前に分かります。

実際トヨタ自動車のケースでは、8月2日の終値が2,585円と、2,538円80銭を下回るまであと46円20銭になっており、追証に対する備えを準備することができたのではないかと思われます。

例えば、建玉を減らして追証を回避したり、事前に追証のための資金を用意しておくことなどもできますので、買ったまま放置せず、万が一の時に対応できるように、こうしたリスクの管理も忘れず行うようにしてほしいと思います。

そうすれば、リスクをコントロールしながら信用取引を上手く活用できるようになります。

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著者/ライター
福永 博之
国際テクニカルアナリスト連盟 国際検定テクニカルアナリスト
日本テクニカルアナリスト協会・前副理事長

勧角証券(現みずほ証券)を経て、DLJdirectSFG証券(現楽天証券)に入社。同社経済研究所チーフストラテジストを経て、現在、投資教育サイト「itrust(アイトラスト) by インベストラスト」を運営し、セミナー講師を務めるほか、ホームページで毎日マーケットコメントを発信。テレビ、ラジオでは、テレビ東京「モーニングサテライト」(不定期)、日経CNBC「昼エクスプレス」(月:隔週担当)、Tokyo MX「東京マーケットワイド」(火:午後担当)、ラジオ日経「ウイークエンド株」(有料番組)、「マーケットプレス」(金:午後隔週担当)、「スマートトレーダーPLUS」(木:16時~16時30分放送)などにレギュラー出演中。また、四季報オンラインやダイヤモンドZAIなどのマネー雑誌にも連載を持つ。著書には「テクニカル分析 最強の組み合わせ術」2018年6月発売(日本経済新聞出版社)、「ど素人が読める株価チャートの本」(翔泳社)などがあり、それぞれ台湾で翻訳出版され大好評。テクニカル指標の特許「注意喚起シグナル」を取得、オリジナルで開発した投資&ビジネスメモツールi-tool(アイツール)を提供中。
著者サイト:https://www.itrust.co.jp/
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