「大谷翔平選手」に学ぶ見えざる資本

日経記事で学ぶ ~幸福寿命を延ばす投資術2

提供元:日本経済新聞社

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本コラムは東証マネ部!で連載した「日経記事でマネートレーニング」の続編で、投資や資産形成の幅広いスキルや基礎的なノウハウの習熟を目的としています。拙著「幸福寿命を延ばすマネーの新常識」(日本経済新聞出版刊)を大幅に再構成・加筆し、日経電子版の注目記事なども織り交ぜつつ、総合的な金融リテラシーの底上げを目指します。

大リーガー大谷翔平選手の異次元の活躍が日本中を熱狂させました。彼の凄みは米国で空想上の動物「ユニコーン」と評されるように「投げる」「打つ」「走る」の野球3要素をすべて高いレベルでこなせる点にあります。しかし、私は今年の大活躍にもうひとつ大事な要素を考えなければならないとみています。それは「健康」です。

通訳の不祥事に絡むゴタゴタで不穏なスタートとなりましたが、彼は精神面でぐらつくこともなく、またシーズン中ケガや病気もなく心身とも健全な状態を保ち続けました。結果的にこれがほぼ全試合出場につながり、数々の大記録樹立の原動力になったと思えます。実際、彼は食事の栄養バランスにも気を遣い、寝具にもこだわって飲みにいくぐらいなら寝ているというエピソードもあるほど睡眠を大切にします。大谷選手の価値の源泉は「見える野球の技術」だけではなく「健康」の維持にもあるように思います。

さらに大谷選手はドジャース球団と10年約1000億円の契約(後払い)を結んでいますが、別途CMなどのスポンサー契約が年間100億円はくだらないとされています。職人気質なのに外見は爽やかで好感度抜群。マーケティングにぴったりということのようです。つまり、彼の「人がら・性格」もまた金銭的価値を増やしているわけですね。

「飲み代」は費用? いえ、投資です

あれ?投資のコラムじゃなかったの?と突っ込まれそうですが、もう投資の話題に入っていますよ(笑)
まず今回もクイズを1問やってみましょう。肩の力を抜いて回答してください。

100万円をどう使うかという問いですが、お金を増やすという目的ならシンプルに1と答える方がほとんどでしょう。ビジネスや自分磨きを重視する場合は2も大切な解になります。この場合、語学の上達や資格の取得がビジネスで役に立ち、昇進・昇格につながることがじゅうぶん予想できます。

給与や報酬が上がれば1を超える金銭資産を生み出します。その意味で2は間接的ですが資力を生むという観点で「投資」に該当しそうです。余談ですが私の弟は、大手石油会社を早期退職して現在、外務省の関連団体で働いています。原油取引交渉などで培った高い語学力が評価され、あっという間に転職先が見つかったそうです。

さて、3を選んだ方はいますか?ありていに言えば「飲み代」なので、さすがにこれは無駄遣いだという声が飛びそうです。では、友人がたくさんできた結果、老後は退屈せず毎日を過ごせるとしたらどうでしょうか?

よく耳にする話ですが、老後の大敵は貧乏、ボケ、ぼっち――。頭文字をとって3Bと言われます。このうち、ぼっちとボケは因果関係にあり、孤独による引きこもりが認知症リスクをぐんと高めます。老後はサークルやコミュニティへの参加が推奨され、趣味を多くもつことが望まれるのもそれが理由です。心身が健康であれば高齢でもシルバー人材として働くことも可能になってきます。友人と交流を温め、つき合いを深めることは健康とお金の双方にプラスなのです。そう考えると、遊興費=コストではなく健康という資本を得るための投資=インベストメント、と言えなくもありません。そもそも、男女間の交際が実って結婚に至れば様々な幸せを得られますから、やはり交際費は投資だと考えてもおかしくはありません。

ゲームが人生を変え、「時は金なり」を実践

一般に投資といえばNISA(少額投資非課税制度)に代表されるように株式や投信、あるいは不動産を買って金融資産を増やしていくイメージが先行しがちです。しかし、見える投資ばかりではありません。大谷選手を引き合いに出しましたが、一見無関係に見えて最終的には金融資産を増やす資本に化ける、いわゆる「見えざる投資」が数多く存在します。

若い世代は知らないと思いますが、35年以上前に任天堂から「松本亨の株式必勝学」というゲームソフトが発売されました。ある著名な「億り人」はこのゲームを機に高校生から投資を始め、結局生保のトレーダーなどを経由して巨万の金融資産を築きました。そういう私も学生時代にこのゲームをクリアし、マーケットと投資に大いに関心を持ちました。結局、幸か不幸かいまの会社に就職してしまいました。「ゲームばかりして馬鹿になるぞ」と叱られますが、人生の肥やしになるパターンもあるのですよ。

図表は「見えざる投資」のサンプルです。いくつか紹介しましょう。住まいに関する投資としてはリフォームやリノベーションが考えられます。気密性や断熱性を高めることで室内を熱さ、寒さから守ってくれるので、収支でいえば光熱費削減に貢献してくれます。夏は熱中症、冬はヒートショックのリスクを軽減してくれる健康上の利点もあります。太陽光発電と蓄電池を設置すれば災害時の安心と安全を得られます。

「家事代行」は少し変わり種でしょう。家政婦さんを雇うと1日1万~2万円程度の費用が発生します。たとえば週2回、月額12万円を支払うとします。その代わり、老後も含めて夫婦がそろってフルタイム就業が可能になり、30万~40万円の収入を確保できるとしたらどうでしょう。採算はじゅうぶん合うといえますよね。これってなんの投資でしょう?答えは時間です。就業時間の購入です。「時は金なり」の格言そのままです。健康投資も厳密にいうと、健康寿命という時間拡大への投資です。

「若いうちから資産形成を」の前に熟慮を

ちなみに私が実践している「見えざる投資」の1つは料理です。週1回は妻の代わりに私がキッチンにたちます。十八番はロールキャベツにポトフ、スープカレーなど。味はともかく(笑)1つめの総菜を煮込んでいる間に次の料理の仕込みをするというように時間の効率的なマネジメントを要求されるため、調理中はアタマをフル回転しています。手先を使うので脳に刺激を与えます。ショッピングで食材を選ぶ楽しさが増し、食材の価格に敏感になって「街角景気」「街角物価」がわかるようになります。

最近、コンビニでお弁当を買うときに「成分表」をみるクセがついてしまったのですが、料理を手掛けると栄養に偏りがないか、バランス感覚が磨かれて健康な食事を手に入れられるようになります。料理やレシピは世界共通の話題。最善のコミュニケーション・カタライザーです。老々介護にも役立ちます。
調理ノウハウと料理のスキル、いかがでしょう。生活と人生を支える「見えざる資本」だと思うのですが。

なぜ、こんなテーマを取り上げたかというと投資や資産形成に絡むPR文句にいささか警戒感を抱いているからです。

「時間を味方につけよう」「少しでも若い間から資産形成を」――業者や評論家が若い世代の味方であるかのように放つこのメッセージ。もちろん間違ってはいませんが、銀行や証券会社は慈善事業をやっているのではありません。手数料を得るビジネスを展開していることを忘れてはいけません。私には人生100年時代にかこつけて、資産形成をしないことへの危機感をいたずらにあおって口座開設を急がせているように聞こえます。若いうちはNISAよりはるかに大切な「見えざる投資」の機会が転がっています。将来、自分にとって幸せを紡ぎだす資本が何かをじっくり考えて選択してください。

言われてみればたしかに……本コーナーではマネーに関する気づきや新しい常識を解説していきます。拙著(下記リンク)を副教材として併読していただけるとさらにリテラシーが身につきます。日経電子版のおすすめ記事も紹介しておきます。

(日本経済新聞社コンテンツプロデューサー兼日経CNBC解説委員 田中彰一)

【参考記事】
リスキリング、広がる公的支援 10月給付拡充・転職特化(日経電子版2024年6月3日)
パワーファミリー家計のぞき見「月収110万円で4割貯蓄」(日経電子版2024年8月13日)

著者/ライター
田中 彰一
日本経済新聞社コンテンツプロデューサー兼日経CNBC解説委員。マーケット・企業取材歴35年と現役最古参。日経電子版の開発、ニュースレター連載、テレビ解説と「創る・書く・話す」の三刀流をこなす。CFP認定者、シニア・プライベートバンカー、宅建士。東証マネ部!の長寿コラム「日経記事でマネートレーニング」はデジタル小冊子に(無料ダウンロード可)
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