世界共通語「ESG/SDGs」

「SMTAMのESG」

現役アナリストが紹介する日本の半導体戦略

提供元:三井住友トラスト・アセットマネジメント

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日本の半導体産業凋落への危機感が原動力

2021年3月に経済産業省(以下、経産省)が公表した「半導体戦略(骨子)」では、日本の半導体産業の現状を「凋落」と表現しました。無理もありません。世界の売上高に占める日本のシェアは、1988年50.3%から2019年10.0%まで大きく低下しました。このまま静観を続ければ、将来的に日本の地位はほぼ0%になるとの危機感を率直に表しています。

半導体の復活は、経済安全保障の観点で重要ですが、ESGの「E(環境)」の文脈でも無視できません。デジタル化で増大する電力消費量の省エネにとって、半導体が果たす役割は非常に大きいからです。ここで巻き返しを図らなければ、脱炭素の競争でも世界に遅れを取ることになりかねません。

本稿では、日本の半導体戦略の概要と直近の動向を簡単にご紹介します。

日本の半導体産業復活への3つのステップ

日本の半導体復活に向けて、経産省は3つのステップを計画しています。まずは国内に半導体工場を呼び込んで、当面の需要拡大に対応する(ステップ1)。2025年から2030年にかけて最先端半導体の国産化を実現する(ステップ2)。そして、2030年以降は半導体の将来技術で世界をリードする(ステップ3)。これにより、半導体の国内売上高を2020年5兆円から2030年15兆円超に引き上げ、世界シェアも約15%へ回復させることを目標としています。

2024年はステップ1の推進に加えて、ステップ2の準備の年。中心的な役割を演じる地域は、ステップ1が九州、そしてステップ2が北海道になると考えられます。

ステップ1:台湾の巨人が九州の地に降り立つ

国内で半導体を確保するための助成金は、2021年度から2023年度の累計で約1兆7,000億円。このうち、TSMC(台湾積体電路製造)の熊本工場への支援が1兆2,000億円で全体の7割を占めます。TSMCは世界最大級の台湾半導体メーカー。日本のトヨタ自動車やソニーグループにとって、TSMCから半導体を安定調達できるかが今後の成長を左右すると言っても過言ではありません。その意味で、熊本県への誘致は極めて正しい戦略と考えられます。

TSMCの進出をきっかけに、日本の半導体関連企業が九州地域への投資に乗り出しています。例えば、三菱電機やローム。両社が製造するパワー半導体は、自動車の電動化や家電の省エネ化に欠かすことができません。脱炭素技術で日本が優位を確保するためにも重要な投資と言えます。また、熊本県では今年4月までに56社が拠点新設や設備拡張を公表しました。主な企業として、東京エレクトロンや荏原製作所、東京応化工業などが挙げられます。

九州経済調査会の予測によれば、2021年から2030年までの10年間に九州で予定されている半導体関連投資は6.1兆円、経済波及効果は20.1兆円と試算されています。

ステップ2:北海道の大地に国産半導体が萌芽する

半導体の国産化を担うのは「Rapidus(ラピダス)」です。ラテン語で「速い」を意味する同社は、トヨタ自動車やソニーグループなど8社の出資で2022年に設立されました。

Rapidusは北海道千歳市で2023年から工場を建設中です。発表されている投資額は5兆円。これに対して、経産省による支援は9,200億円がすでに決定しています。工事が順調に進めば、2027年に最先端半導体が量産される予定です。研究開発を担うLSTC(技術研究組合最先端半導体技術センター)と共に、「世界から10年遅れている」日本の半導体復活の両輪と位置づけられます。

もともと北海道には半導体関連企業が数多く拠点を構えています。冷涼な気候と豊富な水資源が北海道の魅力。特に、千歳市には新千歳空港があるのでアクセス性も良い。同市に拠点を構える主な企業として、SUMCOやデンソーなどが挙げられます。Rapidusの量産開始は、周辺企業にとっても大きな収益機会となるでしょう。

実際、北海道新産業創造機構による試算のひとつによれば、Rapidus進出が北海道にもたらす経済波及効果は、2023年度から2036年度までの14年間で最大18兆8,000億円に達する見通しです。

半導体産業の復活に向けて克服すべき課題も少なくない

日本の半導体復活に向けて、克服すべき課題の一つに人材不足があります。経産省の資料によれば、今後10年間で必要な半導体人材は4万人となる見通しです。もちろん、経産省も黙って見ているわけではありません。産学官連携の半導体人材育成等コンソーシアムが、九州を先駆けに全国6地域で立ち上がり、半導体の設計・製造を担う人材の育成を進めています。

半導体の国産化に挑戦するRapidusについては顧客獲得も課題と思われます。将来の成長が見込まれるAI(人工知能)の半導体需要を、社名の通りいかに速く取り込めるかがポイントとなるでしょう。

※上記は特定の有価証券への投資を推奨しているものではありません。

(提供元:三井住友トラスト・アセットマネジメント)

著者/ライター
関口 雄一
現在、三井住友トラスト・アセットマネジメントにて環境に関わるテーマリサーチに従事。アナリストとして電機・精密セクターを過去に担当。法人事業でM&Aや事業コンサル業務も経験
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