重要なのは「年齢」「ライフスタイル」の変化に合わせた見直し
正直FPが正直に語る「NISAでのリバランスは必要ない」
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運用して得た利益が非課税になる「NISA」。投資信託や株式、ETFなど、さまざまな商品に投資できるところも魅力だ。NISAの活用に際して、「国内株式を30%、外国株式を20%…」など、保有する割合を考えたという人もいるだろう。
運用を継続していくと、当初決めた割合からズレてしまうことがある。そのような場合に、ズレを修正する「リバランス」は行うべきだろうか。“正直FP”ことファイナンシャルプランナーの菱田雅生さんに聞いた。
NISAにおいて「リバランス」は考えなくてOK
「保有資産の割合は『ポートフォリオ』や『アセット・アロケーション』という言葉で表現されますが、実は異なる意味の言葉です。『ポートフォリオ』は、具体的な商品や銘柄の組み合わせのことを指します。一方、『アセット・アロケーション』は、カテゴリー別の配分を意味します。『国内株式を30%、外国株式を20%…』といった配分はカテゴリー別なので、『アセット・アロケーション』となります」(菱田さん・以下同)
「アセット・アロケーション」は、投資においてかなり重要なものなのだそう。
「アメリカのある研究では、運用成果の約9割は『アセット・アロケーション』で決定付けられるという結果が出ています。投資を始めるとき、どの銘柄に投資するか、どのタイミングで買うかなどを考える人は多いと思いますが、実はそれよりもどの資産にどのくらい配分するかを考えることが重要なのです」
「アセット・アロケーション」は、定額での積立投資を進めていくと、当初決めた配分からズレてしまうことがある。例えば、国内株式の価格が上がったときは、全資産に占める国内株式の割合が増えることになる。
「結論からいうと、『アセット・アロケーション』のズレに対してリバランスを行う必要はあまりないと考えています。リバランスとは、割合が多くなった商品を売り、割合が少なくなった商品を買ってバランスを元に戻すことです。つまり、商品の売買を行うことになります。できれば高値で売って安値で買いたいものですが、そのタイミングを測るのは投資のプロでも難しいことです。だからといって、リバランスのためにむやみに売買するのもおすすめできません。なので、リバランスはしなくてもいいという考えです」
リバランスを行うことで、当初設定した「アセット・アロケーション」から逸脱せず、想定していたリスクのまま運用できるというメリットがある。ただし、それ以上のデメリットも考えられるというわけだ。
「売買のタイミングは、その後の運用にも影響します。例えば、国内株式の割合が多くなったから国内株式の一部を売却するとします。その後、国内株式の価格が上がった場合、売らずに保有しておけば利益はもっと大きかったかもしれません。また、『NISA』での積立投資であれば、リスクを取りすぎる可能性も低いので、リバランスを気にしすぎる必要はないと思います。値動きは読めないので、とにかく続けることを重視しましょう」
「ライフスタイルの変化」に応じた見直しは重要
「アセット・アロケーション」のズレに対するリバランスは必要性が高くないとのことだが、年齢やライフスタイルの変化に応じて「アセット・アロケーション」を見直すことは大切だという。
「20~30代の単身者や子どものいない共働き世帯は、投資を長期間継続できる可能性が高いですし、子どもの教育費なども発生しないため、資産全体の80%以上を株式に配分するなど、リスクを取った投資も可能だといえます。一方、子どもができた場合は、教育費を備える必要があるため、株式の比率を60%以下に減らしてリスクを下げるといった対応も必要になるでしょう」
40~50代で子どもが独立した後は、子どものいない共働き世帯に戻るイメージで、再び株式の割合を増やすのもありだという。ただし、60代に入ったら、再び見直しの時期になる。
「60代でも保有している資産が潤沢にある場合は、リスクを取ってもいいといえます。しかし、運用してきた資産を取り崩しながら生活する場合は、売却するタイミングで値下がりしてしまうリスクを避けるため、株式の割合を減らし、比較的安定感のある債券などの割合を増やすといった対処が無難です。また、海外株式や海外債券のほうがリスクが高いので、国内の資産に変えておくほうが安心でしょう」
保有資産全体で「アセット・アロケーション」を考える
年齢やライフスタイルによる「アセット・アロケーション」の考え方を教えてもらったが、実は「投資以外に保有している資産」もポイントになるそう。
「資産全体の『アセット・アロケーション』を考えることも大切です。仮に老後の生活を不自由なく送れるだけの貯金があるのであれば、60代に入ってからも株式の割合を下げず、ある程度リスクを取った投資を続けてもいいかもしれません。片や20~30代でも、資産がまったくない状態で株式比率の高い投資を行うのはリスクが高すぎるといえます。年齢、ライフスタイル、資産の状況などを総合的に見て、どのくらいリスクを取れるか考えてみましょう」
投資を始めたいものの、資産をあまり持ち合わせていないという場合は、どのように考えるといいだろうか。
「20代の新入社員で貯金が少ないといった場合は、貯金もしつつ、まずは生活に支障をきたさない程度の金額で投資を始めてみるといいと思います。NISAであれば、月々100円から投資が可能な金融機関もあります。少額投資で値動きに慣れながら、ある程度貯金が増えてきたら、投資に回すお金も増やしていくという進め方も可能です。投資はリスクを伴うものでお金が増減する可能性があること、そして、長く続けることに意味があることを覚えておきましょう」
投資において重要な「アセット・アロケーション」。ライフスタイルが変化するときに見直し、自分や家族の将来にマッチする形で運用していこう。
(取材・文/有竹亮介 撮影/森カズシゲ)