基本は現状維持! 株式は「売却」の選択もあり!?
正直FPが考える「停滞局面でのNISAとの向き合い方」
2024年に入ってからの約9カ月間、国内・海外ともに株価が大きく動いた。「新NISA」のスタートとともに投資を始めた人のなかには、株価が上がっているうちは投資の成果が気にならなかったものの、価格が下がったり停滞したりすると「もっと下がる前に売却して、投資はやめようかな…」と思った人もいるのではないだろうか。
もし、保有している株式や投資信託の価格が下落または停滞したら、売ったほうがいいのだろうか。はたまた保有したまま運用を継続したほうがいいのだろうか。“正直FP”ことファイナンシャルプランナーの菱田雅生さんに、停滞時のNISAとの向き合い方を教えてもらった。
押さえておくべき「投資信託」と「株式」の個性
「新NISA」には「つみたて投資枠」と「成長投資枠」という2つの枠があり、それぞれ投資できる商品が異なる。
●つみたて投資枠の投資対象商品
長期の積立・分散投資に適した一定の投資信託(金融庁の基準を満たした投資信託に限定)
●成長投資枠の投資対象商品
上場株式・投資信託等(①整理・監理銘柄 ②信託期間20年未満、毎月分配型の投資信託およびデリバティブ取引を用いた一定の投資信託等を除外)
「新NISA」では、株式にも投資信託にも投資できるというわけだ(ともに一定の基準を満たしたもの)。株式とは、株式会社が資金を調達するために発行する有価証券のこと。投資信託とは、複数の株式や債券などに分散投資する商品を指す。
「投資を始める際に知っておきたいことですが、株式と投資信託は個性の異なる商品です。株式(個別株)はひとつの会社に対して投資するものなので、その会社の業績がいいか悪いかで値動きは大きく異なります。一方、投資信託は複数の銘柄に分散投資をしているので、業績のいい銘柄と悪い銘柄の値動きが平均化されて、個別株に比べると値動きは緩やかになりやすいといえます」(菱田さん・以下同)
つまり、個別株はリスクが高く、投資信託は個別株よりはリスクが低いといえる。
「2010年、日本航空(JAL)は経営破綻に陥りました。このときに日本航空の株式を持っていた場合、その株式は無価値になったのです。当時、国内株式に投資する投資信託を保有している方から『JALのせいで大きく損をするのではないか』という心配の声が上がりましたが、投資信託は少なくとも数十~数百の銘柄に分散投資をしているので、JAL1社が倒産しても、その影響は非常に小さいのです」
分散投資は、投資信託の魅力のひとつ。「すべての卵をひとつのカゴに盛るな」というイギリスの格言があるように、複数のカゴに分けておくことで、ひとつのカゴがひっくり返ったとしてもすべての卵を失うことはないのだ。
「ただし、個別株投資がダメというわけではありません。仮に20~30年前にAppleやAmazonの株式を買っていたら、100倍以上に増えているのです。大きく値下がりする可能性もありますが、大きく値上がりする可能性も秘めているのです。これこそ個別株投資の魅力であり、醍醐味といえます」
「新NISA」においても、投資信託と株式をうまく組み合わせて投資をすることで、投資の醍醐味を味わいながら利益も期待できるという。
「新NISAでも、コア・サテライト戦略が有効です。投資信託を運用のベース(コア)として長期・分散・積立投資を実践し、堅実な資産形成を行いつつ、成長が期待できそうな個別株を少し組み合わせる(サテライト)ことで、世界経済の成長の流れをつかみつつ、個別企業の飛躍の恩恵を受けるというスタンスを取ることができます」
投資信託は「保有を継続」がベター
ここからが本題、価格が下がったり停滞したりしてしまった場合、保有している投資信託や株式はどのようにすればいいだろうか。
「投資信託と株式で、若干考え方が変わります。投資信託の場合は、たとえ価格が急落したとしても、売却しないことが重要です。なぜかというと、保有している商品が値下がりしている状態は、単なる『含み損』の状態。いま売却したらこの価格になるという数字に過ぎません。そこで実際に売却すると含み損が『実現損』となり、損が確定してしまいます」
売却してしまうと、たとえその翌日に価格が急回復したとしても取り返すことができない。しかし、売らずに保有し続けていれば、回復してさらに上昇していくことも期待できるのだ。
「リーマン・ショックなどの過去の金融ショックを振り返っても、急落した相場はおおよそ5年で元の水準に戻っているというデータがあります。保有している投資信託が値下がりしたとしても、持ち続けていれば、いずれ価格は元に戻る可能性が高いのです。金融庁が、積立投資の期間が5年だと運用成績は-8~+14%の間で散らばる一方、積立投資の期間が20年だと+2~+8%とプラスで終わるという過去の実績を公表しているように、運用期間を長く取ることも重要です。投資信託の価格が停滞または下落したとしても、そのまま保有し続けることをおすすめします」
株式は保有している会社の「業績」「将来」をチェック
「個別株に関しても、投資信託と同様に基本は『保有し続ける』ことが大切」と菱田さんは話すが、株式ならではの注意点があるとのこと。
「個別株は特定の会社に投資するものなので、その会社が倒産し、資産価値がゼロになってしまう可能性があることを覚えておきましょう。そのため、長期的に保有する前提で買ったとしても、そのまま放置せず、その会社の業績をきちんとチェックして、投資を継続するべきかを判断していく必要があります」
特に、株価が下落または停滞している場合は、その会社の状況をしっかり確認する必要がある。
「長期で保有する前提であっても、その会社の業績はもちろん、将来的な見通しも重要なポイントです。将来性があると思って買った銘柄でも、時代の変化とともに経営方針が変わり、想定していた方向性と変わってしまうということがあります。その結果、見通しが悪くなるようであれば、注意すべきでしょう」
なかには、経営方針や推進する事業を変えたことによって、伸びてくる会社もあるという。
「例えば、カネボウはもともと紡績会社として創業しましたが、現在は業態の異なる化粧品事業だけが残っています。DHCも創業当初は翻訳事業の会社でしたが、現在は化粧品や健康食品が有名ですよね。思いがけない分野への挑戦によって業績が大きく伸びる可能性があるので、投資している会社がどのような方向に進んでいるのか、その分野に将来性はあるのか、しっかり見極めることが大切です。そこがあまり期待できないようであれば、売却するのもひとつの方法といえます」
価格が下落または停滞した場合、「そのまま保有する」が基本となりそうだが、株式に関しては業績や将来性も重要になる。改めて、株式を保有している会社の情報を見直してみよう。
(取材・文/有竹亮介 撮影/森カズシゲ)