マネ部的トレンドワード

議事録の要約や企画書の翻訳、問い合わせ対応をAIに一任!

ウェブアプリ「Notion」がAIを組み込んで進める“考える時間の創出”

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市場で注目を浴びているトレンドを深掘りする連載「マネ部的トレンドワード」。今回のテーマは、「現代用語の基礎知識選 2023ユーキャン新語・流行語大賞」のトップ10に入った「生成AI」。

生成AIを日々の業務に取り入れる企業が出てきているが、具体的にはどのように活用されているのだろうか。そのヒントを探るべく、経済誌『フォーブス』が選ぶ「2024年の注目すべきAI企業50」に選ばれたNotion(ノーション)に伺った。

「Notion」は、ドキュメント管理やプロジェクト管理を一括で行えるウェブアプリ。そのなかにAIが組み込まれ、さらに効率的に活用できるようになっているという。Notion Labs Japanゼネラルマネージャーの西勝清さんに、Notionでできることや活用事例を聞いた。

「Notion」の3つの機能を支える「Notion AI」

「Notion」は2016年にリリースされ、2020年にユーザーが100万人を突破。現在のユーザー数は1億人を超えている。

「『Notion』は、さまざまなツールに分散している社内情報やナレッジを1カ所にまとめ、みんながアクセスできる環境をつくるためのアプリです。かつて多くの会社では、ひとつの業務を行うために複数のツールを用いて作業を行っていました。また、部門によって用いるツールも異なっていたため、情報が分散して共有できず、コラボが起こりにくい状況にありました。その課題を解消するのが『Notion』です」(西さん・以下同)

画像提供/Notion Labs Japan

「Notion」には大きく3つの機能がある。議事録や企画書、レポートなどをまとめる「ドキュメント管理」、プロジェクトの進捗やタスクなどを整理する「プロジェクト管理」、社内情報を一元化する「Wiki」だ。

「アプリを開くと、所属している会社のトップページに飛びます。このトップページから全社メッセージやOKR(目標と成果指標)、社内の各種規定、新入社員の情報などを見ることができます。『Notion』はノーコードツールなので、プログラミングやコーディングができない人でも自社のニーズに合ったカスタマイズを行えるところが特徴です」

「Notion」の3つの機能を横断的に支えるものとして、「Notion AI」が組み込まれた。AIが機能として独立しているわけではなく、もともとある機能をさらに使いやすくするという位置付けだ。ちなみに、Notionが独自のAIを開発したわけではないという。

画像提供/Notion Labs Japan

「世のなかのAIをテストして、優れたものを採用しています。現在はOpenAIとAnthropicが開発したAIを組み込んでいて、私たちはそのAIをより使いやすくするためのUI・UXの開発に注力しています。Notion創業者の言葉ですが、『AIを電気にたとえると、供給された電気をうまく活用する電化製品をつくるのが我々の仕事』です」

過去の実績も踏まえた企画書を生成する「AIライター」

各機能でAIがどのように業務をアシストするのか、教えてもらった。

まずは「ドキュメント管理」。「AIライター」という機能で、文章の要約や翻訳、ネクストアクションの決定などを任せることができる。

「重要なのは、『Notion』に自社の過去の実績などの情報が蓄積されていることです。例えば、自動車会社に向けて製品を提案する場合、かつては膨大な自社情報のなかから自動車業界に関する実績を探し、ときには担当していた同僚に話を聞き、世のなかの一般的な情報もリサーチしたうえで提案書を作成しました。『AIライター』を使えば、『過去の自動車業界向けの提案内容をもとに、この製品の提案書をまとめて』と打ち込むだけで、AIが自社情報に基づいてまとめてくれます。リサーチや作成の時間を削減できます」

「Notion」には議事録や企画書などのドキュメントも保存されているため、外国語に翻訳する際もわざわざ翻訳ツールにコピー&ペーストする手間がないという。翻訳したい文章のページでAIを呼び出し、「英語に翻訳して下に追加して」と打ち込むと、ドキュメント内に翻訳された文章が自動的に入力される。

「ビジネス教育会社のグロービスでは、海外メンバーに会議資料を共有することが多く、『AIライター』の翻訳機能を用いることで品質向上したという実績があります。法律関係のソフトウェア開発を行うリーガルオンテクノロジーズでは、新たな用語に関するヘルプページを作成する際のドラフトを『AIライター』で作成し、作業効率化を図っています」

議事録の要約やデータ分析が一括でできる「AI自動入力」

「プロジェクト管理」を支えるのは「AI自動入力」。「Notion」では、会議の議事録やプロジェクトの進捗がデータベース(表)で管理されるが、そのなかに記載する内容をAIが自動入力してくれるという。

「データベースに表示されるAIマークをクリックするだけで、その欄の内容をAIが自動で入力してくれます。例えば、議事録の要約や会議で出たネクストアクションなどをまとめることができます。マネージャー層の方々から『議事録を1個ずつ見る時間がないから、一括でまとめてもらえて助かる』という声をいただいています」

そのほかにも、イベントなどで集めたアンケートの結果をAIに読み込ませ、分析してもらうこともできる。参加者の感情(ポジティブ、ネガティブなど)の分析や要望に対するアクションの提案、そのアクションに関連する部署などをAIがまとめてくれる。

「NTTデータでは、議事録の要約からネクストアクションを抽出し、その提案内容を清書するという作業を『AI自動入力』で行っています。『人がやっていた業務を任せることで生産性が上がった』というフィードバックをいただいています」

外部ツールに保存された情報も検索できる「AIコネクター」

3つ目の「Wiki」を支えるのは、「AI Q&A」「AIコネクター」という機能。AIに質問することで、社内情報から回答を見つけ出してくれるというもの。「AIコネクター」によってNotion内の情報だけでなくGoogle WorkspaceやSlackにある情報も対象になるそう。

「『AIコネクター』によってツール間の横断検索ができるようになったので、AIに『プロジェクトの最新情報を教えて』と質問すると、Googleに保存されたプロジェクト概要の企画書やその後のSlackでのやり取りも見つけ出し、レポートにまとめてくれます。どうしても使用するツールが分散してしまうことはあるので、連携できるとより使いやすくなると考え、今後はJiraやGitHub、Salesforceなどのサポートも予定しています」

ツールを横断しなくても、Notionのなかに保存されたプロジェクトの進捗や社内規定などについて、AIに回答してもらうことも可能だ。

「営業DXサービスを手掛けるSansanでは『AI Q&A』を用い、膨大な製品のフィードバック情報から必要な情報を見つけ出し、企画にまとめるという使い方をされていて、作業時間が平均30%削減されたそうです。大阪ガスでも、AIを用いることで社内のマニュアルやプロジェクトの状況を検索する時間が平均35%短縮したとのこと。JAPEX(石油資源開発)では、情報システム部門に届く社員からの問い合わせに対してAIに回答してもらうようにしたところ、情報システム部門のメンバーは別の業務に専念できるようになり、業務効率が上がったようです」

AI活用を進めるカギは「自然に使えるツール」にすること

業務に生成AIを取り入れる利点は、単純作業のような業務を減らし、考える時間を創出できることにあるという。

「企業の経営層の方々と話していると、『社員がひたすら作業している時間の30%でも、新しい企画を考える時間に割り当てたい』という要望があることがわかります。『Notion』は、まさにそこに貢献したいという思いで開発されたアプリです。特にAIを活用することで、考える時間を生み出しやすくなると考えています」

一方で、生成AIの活用にはまだまだ課題もあるとのこと。

「生成AIを導入したものの、あまり活用されないという課題が見えてきています。その原因のひとつは、ユースケースが不明で使う場面を見出せないこと。もうひとつ考えられるのは、AIが自社情報に特化していないことです。一般に公開されている生成AIは世のなかのあらゆる情報をもとに文章などを生成するので、社内事情に適していない場合も多く、役に立たないと思われてしまうのです」

その点、「Notion」は社内情報をまとめるアプリであるため、自社情報に特化した生成ができる。また、ユーザーが「Notion」の使い方をまとめた書籍や動画などを発信しているため、ユースケースも見つけやすいといえるだろう。

「それでもAIを使うハードルはあると考えています。最近わかったのですが、多くの人はプロンプト(AIに対する指示)を打ち込むことを手間に感じているようです。そのため、『Notion』ではテキストなどを選択した時点で、テキストの量や内容からユーザーが望んでいることを推測し、『文章を改善して』『説明して』といったボタンが出るようにしました。そのボタンを押せば要約や翻訳、解説などができるのですが、その結果AIの利用率が著しく上がったのです。『Notion』ではUI・UXの開発を進め、AIであることを意識せずに自然に使える形に持っていきたいと思います」

さらに、今後は生成AIがエージェントのような存在になる時代が来るといわれているそう。

「人がやっていた作業を代わりに行う、プロジェクトの進展に必要なタスクを割り振るといったことを、AIがサポートする世界になっていくと考えています。そのときに重要になるのが、UI・UXの進化とさまざまなツールに保存されている情報をまとめて使えるように連携することです。AIは、業務に欠かせない頼もしい存在になっていくと思います」

AIを活用することで作業時間が短くなり、新しい企画などを考える時間が増え、ビジネスが活発化していく。さまざまなユースケースを見ながら、自分の仕事ではAIをどう取り入れられるか考えてみよう。

(取材・文/有竹亮介 撮影/森カズシゲ)

著者/ライター
有竹 亮介
音楽にエンタメ、ペット、子育て、ビジネスなど、なんでもこなす雑食ライター。『東証マネ部!』を担当したことでお金や金融に興味が湧き、少しずつ実践しながら学んでいるところ。

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