キャラクターやキャスティングも番組の方向性を決めるカギ!
『突撃!カネオくん』プロデューサーに聞く「お金の情報」を真面目に面白く届ける方法
NHKで2019年からレギュラー放送されている教養バラエティー『有吉のお金発見 突撃!カネオくん』。毎回ひとつのアイテムや業界をテーマとして取り上げ、“お金にまつわるヒミツ”をひもといていく番組だ。家族で見ているという人も多いのではないだろうか。
NHKでここまでお金について踏み込んだ番組も珍しいが、どのような経緯で企画されたのだろうか。番組を立ち上げたプロデューサーの河瀬大作さんに聞いた。
NHKだからこそ挑戦したかった「お金」を扱う番組
『突撃!カネオくん』の企画が立ち上がったのは、特番として第一弾が放送された2018年の前年、2017年のこと。
「当時、NHKが新番組のお題として出していたのが『家族視聴』と『ゴールデンタイム』の2つでした。大型テレビが登場したことでお茶の間に人が戻ってきたといわれていた時期で、NHKには家族で見られる番組をつくりたいという考えがあったんです。そのときに企画案のひとつとして出したのが『突撃!カネオくん』でした」(河瀬さん・以下同)
家族向けの番組のテーマに、あえて「お金」を掲げた。誰もが興味のあるものだが、扱い方を間違えてしまうといやらしく見えてしまう難しいテーマだ。
「日本では、公にお金の話をするのはタブー視されがちですよね。一方で、金融教育の重要性などが議題に上るようになってきた時期でもあったんです。NHKではお金に関するバラエティー番組をつくったことがなかったため、誰もやったことのない新しい番組をつくれば、多くの人に見てもらえるかもしれないという思いもあり、アイデアとして出してみようと。ただ、子どもにも安心して見せられるものでないといけないので、お金を親しみやすいものにできるようにキャラクターが必要だったんです」
そのキャラクターこそ、番組のマスコットであるカネオくんだ。
「『カネオくん』という名前だけを決めて、30を超えるキャラクター案をデザインチームから出してもらい、『あーでもない、こーでもない』とスタッフ全員で検討するなかで、最終的に現在のカネオくんができました。かわいくて陽気なだけでなく、ちょっとシュールさのあるキャラクターとして完成しました」
さらに、キャスティングに関しても、番組の方向性を固めるため、企画段階からある程度明確に考えていたそう。
「NHKがお金の番組を放送することが視聴者の興味を引く一方で、『NHKだから本当の裏側までは見せないだろう』という印象も持たれかねないと思ったんです。なので、歯に衣着せずに本音でしゃべっているイメージが強い有吉弘行さんに出てもらうことはできないかって、ずっと考えていました。有吉さんが出ていると、番組が届けたいことも伝わりやすくなりますよね。また、日直アシスタントとして当時11歳だった田牧そらちゃんを入れることで、制作サイドに『そらちゃんが見ても問題ない内容か』というフィルターを挟むことができます。結果、大人向けになりすぎず、お茶の間の子どもも安心して見られる番組になると考えています」
「家族のコミュニケーション」を生み出す工夫
放送開始から約5年が経ち、家族で楽しめる雰囲気ながら、お金のヒミツを真摯に届ける番組として人気を集めている『突撃!カネオくん』。その制作には、NHKのノウハウが詰まっているという。
「NHKは情報バラエティーがたくさんあるので、この製品がどのようにつくられてきたのかというストーリーを取材するのは得意で、『突撃!カネオくん』も取材内容としては同じなんです。ただ、『だからこれだけ高い』『だからこの値段で販売できる』というように入り口と出口をお金に関する話にすることで、いままでと違った角度から見せています」
番組のつくり方は実はオーソドックスなものだが、毎週異なるテーマに関しては意識していることがあるとのこと。
「狭く深く掘り下げることは意識しています。例えば、『中華料理のヒミツ』とするより『町中華のヒミツ』としたほうが、見る側からすると興味を引かれるんですよね。以前『かまぼこのヒミツ』という企画案が上がり、そのなかにカニカマも含まれていたんですよ。いざ取材をしてみると、本物のカニよりもカニらしいカニカマをつくることに数十年取り組んでいる人や、カニカマの技術を応用してウニやウナギの蒲焼きをイメージしたかまぼこをつくる会社があることがわかり、だったら『カニカマのヒミツ』で思い切って1本つくってみようと」
ひとつのアイテムを深く掘り下げることで、お金のことだけでなく歴史もひもといていくことになり、そのアイテムを多層的に紹介できるようになるそう。
「番組で取り上げたお金のからくりや歴史が、家族で話すきっかけになってほしいなって思っています。ペットボトルを扱う回ではパパやママが『子どもの頃はペットボトルはなかった』って話をするかもしれないし、IT教育を扱う回では子どもが『僕たちもこういう授業を受けてるよ』と話し始めるかもしれません。かつてのように家族全員が同じ番組を見る時間が減っているからこそ、家族で見られる番組が何かのきっかけになったらいいなと考えているところがあります」
より多くの人に情報を届けるための「気軽に見られる番組」
河瀬さんは番組づくりにおいて、「家族全員が同じ番組を見る時間が減っている」という点を意識しているという。
「昔は山口百恵さんの曲を全世代の人が歌えましたが、いまはそういう時代ではないですよね。趣味嗜好が人によって違って、クラスター化しています。だから、同じ内容でも、方法を変えて届けることが大切だと感じています」
最近の『突撃!カネオくん』では、被災地支援やクラウドファンディングを取り上げた。テーマとしては情報番組や報道番組でも扱われるものだが、『突撃!カネオくん』ではあくまでも楽しく学べることを重視している。
「サービスエリアをテーマにした際に、愛知県の刈谷ハイウェイオアシスを取り上げました。実は、しばらくしてからNHKの情報番組『クローズアップ現代』でもあえて同じテーマで、一部素材を共有して番組をつくったのですが、できあがる映像はまったく違うし、届く人も違うんです。ひとつの価値を多くの人に伝えるには、いろんな手立てを用意する必要があります。『クローズアップ現代』で情報感度の高い人に届けつつ、『突撃!カネオくん』で楽しみながら見られる内容にすることで、より多くの人に届けられると思っています」
まずは楽しんでもらうこと。それが情報を届ける近道なのかもしれない。そして、そのためには「長く続けること」も重要だ。
「『突撃!カネオくん』はほかにはないユニークなポジションの番組として認識されつつあるので、長く続けられるように励んでいます。テーマは無限にあるので、時代に合わせて少しずつ変えながらも番組の根幹は変えずに走り続けられれば、新しいこともできていくのかなと。そのために考えていることのひとつが、番組の外側で展開すること。リアルなイベントもできるだろうし、映画化もあるかもしれない。テレビ以外の場でもカネオくんを展開できたら、より多くの人に届きますよね」
『突撃!カネオくん』は、制作陣の「楽しい番組を届けたい」という思いがこもっている。だからこそ、肩の力を抜いて見ることができる番組ながらも、しっかりと情報を得られる内容になっているのだろう。
(取材・文/有竹亮介 撮影/鈴木真弓)