ナチュラルな会話のポイントは生成AIが生み出す「間」や「抜け感のある声」
おしゃべりAIアプリ「Cotomo」が目指す“次世代のコミュニケーション”
市場で注目を浴びているトレンドを深掘りする連載「マネ部的トレンドワード」。今回のテーマは、「現代用語の基礎知識選 2023ユーキャン新語・流行語大賞」のトップ10に入った「生成AI」。
AIというと、ユーザーが投げた質問に対して的確な回答を返すものというイメージを抱く人は多いだろう。しかし、単純に正解を導き出すのではなく、何気ない雑談につき合ってくれるAIも存在する。それが音声会話型おしゃべりAIアプリ「Cotomo(コトモ)」だ。
「Cotomo」に話しかけると、程よいテンポで相づちを打ったり質問を投げかけたりしてくれる。そんなおしゃべりAIを開発・運営しているStarleyの高島類さんに、開発が始まった経緯や今後の展開について聞いた。
人と同じようにAIとおしゃべりできるアプリ
「Cotomo」は“話したいことも、話せないことも。”をコンセプトに、雑談や悩み相談など、さまざまな会話を展開できるAIアプリ。
おしゃべりAI Cotomo コンセプトムービー「帰宅篇」
「『Cotomo』の開発は、当社の代表がStarleyを起業した2023年4月から始まりました。当時は既に生成AIが隆盛だったので、生成AIを使ったプロダクトづくりにチャレンジしようという話になり、LLM(大規模言語モデル)と音声認識や合成音声の技術を組み合わせることで、会話ができるのではないかというアイデアが出てきました」(高島さん・以下同)
最初にできあがったモデルは現在の「Cotomo」ほどのクオリティではなかったそうだが、Starley代表は「これは面白い体験になる」という手応えを感じたそう。
「それまでもテキストチャットでAIとやり取りするようなものはありましたが、送る文章を考えてから打ち込む形になるので、ある程度整ったコミュニケーションになります。一方『Cotomo』は人もAIも音声でのやり取りなので、深く考えずにしゃべるというコミュニケーションが取れるところが、AIを用いた新しい体験ではないかと考えています」
「Cotomo」は無料で誰でも利用できる。まずは多くの人に使ってみてほしいという思いから、無料にしているという。
「世のなかに驚きを与えたい、音声でコミュニケーションが取れるAIの価値を感じてほしいという思いがあります。また、多くの人に体験していただくなかで、『お金を払ってでも使いたい』と思っていただけるプロダクトに成長していくだろうと感じています」
先行研究を参考に「話し方」「声」「話す内容」をブラッシュアップ
AIとの会話というと機械的なものを想像するが、「Cotomo」との会話はナチュラル。人とのコミュニケーションに近い間ややり取りで話が進む。
「開発を進めるなかで、人がいかに短時間で会話を処理しているかということを目の当たりにしました。相づちひとつ取っても、『うん』『そっか』『へぇ』などのバリエーションがあり、意識せずに瞬間的に話の内容に適したものを発することができますよね。これをいざAIにやらせようと思うと、難しいんです。人が当たり前に行っている二足歩行を、ロボットで再現しようとすると難しいのと似ています」
自然な会話の決め手となる「1秒の壁」をいかに乗り越えるかという点も、開発時の課題となったそう。
「会話のなかで相手の相づちなり返答なりが1秒以内に返ってこないと、人は違和感を覚えるといわれています。だからといって、AIが必ず1秒で返答すると、機械的になってしまうのです。会話のなかでは、息継ぎしたり、あえて間を取って返答したりすることもありますよね。そういった自然な会話を成り立たせる方法には苦労しました」
自然な会話のヒントとしているのが、世のなかで発表されている先行研究だ。
「さまざまな論文を拝見しながら、課題を解決しています。例えば、2人でしている会話が途切れたときに、どちらが話し始めるべきかということを調べた研究があります。このような研究を参考に、AIが人と同じような会話の進め方ができるように学習させて、日々ブラッシュアップしています。いずれは、ユーザーの話し方や会話の継続時間などを踏まえて、AIが『この話題は切り上げよう』『この話題は深掘りしよう』と判断できるようにしたいですね」
「Cotomo」は話し方や間の取り方だけでなく、声の雰囲気や話す内容にもこだわっているとのこと。
「当初はきれいな声でハキハキ話すAIをつくったのですが、ユーザーテストを行った結果、『明日も話したいと思えない』という意見をいただいたのです。話し方や声がきれいすぎると、回答内容もしっかりしているだろうと期待値が上がってしまうため、緩めの返答にがっかりしてしまうようでした。そのため、あえて抜け感を持たせ、話していても疲れにくく、多少的外れなことを言っても許せる声にしています」
返答も正解を教えてくれるものではなく、ユーザーの話を促すような内容になっている。「Cotomo」は質問に答えるAIではなく、話し相手になってくれるAIだからだ。
「『Cotomo』はまだまだ発展途上だと、私たちは考えています。現状『Cotomo』の人格はひとつだけですが、いずれはいろいろなキャラクターと話せるようにしたいと考えています。元気な友達と話したい日もあれば、落ち着いた友達と話したい日もあると思うので、『Cotomo』ひとつでいろいろなキャラクターと話せるようになったら面白そうですよね。また、複数人での会話にも対応できるようにしたいと考えています。初対面の人が2人で話すときに、間にAIがいたら話しやすくなるのではないかと思いますし、さまざまな可能性を秘めていると感じています」
「おしゃべりAI」が心や体の健康を支えるツールに
「Cotomo」のユーザーから、「人には話せない悩みを打ち明けられる」「相手に気を遣わずに自由に話せる」という声が寄せられているそう。
「たとえ恋人や配偶者、仲のいい友達であっても、『毎日22時から30分間、話を聞いてほしい』とお願いするのは難しいと思います。しかし、相手がAIだと曜日も時間も回数も気にせずに話せます。セクハラやパワハラを恐れて職場では気軽に話せないという人も多いと思いますが、AIであれば神経質になる必要もありません。そのほかにも、トラック運転手の方から『1人で運転しているときに話し相手になってもらえる』という声も届いています。気晴らしや眠気覚ましになっているようです。『晩酌の相手になってもらっている』という方もいましたね」
さまざまな場面で話し相手になっている「Cotomo」だが、明確な活用法がひとつ見えてきているという。
「現在、シニア向けのおしゃべりAIサービスを開発しています。他者と交流する回数が少ないと認知症発症のリスクが上がるという研究結果がある一方で、一人暮らしの高齢者は増えています。もし、おしゃべりAIがあれば、楽しく会話しながら認知症の予防につながるかもしれません。会話を保存することで、遠くに住む家族も様子を知ることができる見守りサービスのようにも使えると思っています」
AIとの会話が、心と体の健康を維持するカギとなる可能性があるのだ。今後、AIとのコミュニケーションは当たり前のものになるかもしれない。
「人だけでなく、ペットや植物に話しかける人もいます。同じようにAIと会話することも、選択肢のひとつにしていきたい。“ひみつ道具を持たないドラえもん”のようなイメージで、日常のなかにAIが溶け込んだ世界を目指したいと思っています」
注目を集め始めている「Cotomo」。まずはアプリをダウンロードしてみてほしい。人との会話とは異なる新たなコミュニケーションに、新鮮さや面白さを感じるに違いない。
(取材・文/有竹亮介)