福永博之先生に聞く信用取引入門
【信用取引入門】第16回:リスク管理の具体例2(代用有価証券の下落と追証への備え)
【福永博之先生に聞く信用取引入門】
前回記事はこちら 第15回:リスク管理の具体例1(株価下落と追証への備え)
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今回も追証に対する備えについて解説したいと思います。信用取引は、現金に代えて株券や公社債などの有価証券を担保(委託保証金)に利用することができます。またこうした有価証券のことを代用有価証券と呼んでおり、手元に現金が無くても、有価証券を担保にして信用取引を行うことができます。
ただし、有価証券を担保にした場合、時価そのままで評価されるのではなく、代用掛目(ダイヨウカケメ)と言って、一定率をかけた価格で評価されます。
したがって、上場株券の時価が100万円であっても、一定率をかけて評価されるため100%の評価額にはなりません。たとえば、2024年10月15日現在の制度上、上場株券の掛目は80%となっています。
そのため代用有価証券としての評価額は100万円×80%=80万円となります。100万円の評価額であればおよそ333万円までの売買が可能になりますが、80万円の評価額になると、およそ266万円までの売買となり、取引可能額が少なくなってしまうことが分かります。
このように上場株券を代用有価証券とした場合、評価額が80%になることを頭に入れた上で信用取引を行う必要があります。
そこで今回は、建玉に含み益が出ているにもかかわらず代用有価証券が下落して追証が発生してしまう例を解説します。
事例として取り上げるのは、IPO銘柄を長期保有しようと考えている最中、他にも投資したい銘柄が出てきたことから、保有中のIPO銘柄を担保に入れて信用取引を行う場合です。
具体的には、IPO銘柄で初値がついたあとに下落したもののもち直して初値を上回ったタイミー(215A)300株を代用有価証券にします。さらに2024年8月5日の安値から市場全体がもち直していたこともあって、防衛関連とされる川崎重工業(7012)を300株買うことにしました。
川崎重工業の信用取引の買値は、上向きの200日移動平均線上で下げ止まって反発に転じた9月12日の終値4,585円です。またこの時の約定代金は4,585円×300株=1,375,500円となり、実際には必要な委託保証金は1,375,500円×30%=412,650円になります。
一方タイミーの9月12日の終値が1,979円でしたので評価額を計算すると…。
1,979円×300株×80%(代用掛目)=474,960円となりますので、すこし余裕をもって信用取引の買い建てを行うことができたと言えます。
ただ、その後の2銘柄の株価動向を見ますと、川崎重工業は予想通り上昇を続けたことから、10月9日には終値で6,530円をつけ、大きく含み益が膨らみましたが、タイミーは大きく下落してしまい、10月8日には終値で1,144円まで下落していました。
ここで代用有価証券の評価額を再計算してみますと、評価額は1,144円×300株×80%=274,560円まで減少してしまいました。そこで心配になるのが委託保証金維持率である約定代金の20%を下回ってしまっているかどうかです。
実際に計算して見ると、建玉は建値から上昇して含み益が出ているため、委託保証金の現在高から差し引かれる含み損はありません。また、約定代金に委託保証金維持率20%を掛けて計算すると、1,375,500円×20%=275,100円となりました。続いて、代用有価証券の評価額と約定代金の20%を比較すると、274,560円(代用有価証券の評価額)-275,100円(約定代金の20%)=-540円となり、540円の追証が発生してしまいました。
このケースでは、追証の金額はほんのわずかであるとともに建玉に含み益があることから、返済して得た利益を追証に充当することが可能であるため、追証への対応は難しくなさそうです。
ただ、建玉の利益だけに目を奪われてしまい、代用有価証券の評価額の減少を見落としてしまうと、追証が発生してしまった時に慌てて対処しなければならなくなるため要注意です。
特に値動きが激しい上場株券を代用有価証券にした場合、下落幅が大きくなると追証発生の可能性が高まりますので、信用取引の担保はなるべく現金にするか、担保に占める現金の割合を大きくするなど、事前の備えをしっかり行い、安心して取引ができるようにしましょう。
【第17回】はこちら
日本テクニカルアナリスト協会・前副理事長
勧角証券(現みずほ証券)を経て、DLJdirectSFG証券(現楽天証券)に入社。同社経済研究所チーフストラテジストを経て、現在、投資教育サイト「itrust(アイトラスト) by インベストラスト」を運営し、セミナー講師を務めるほか、ホームページで毎日マーケットコメントを発信。テレビ、ラジオでは、テレビ東京「モーニングサテライト」(不定期)、日経CNBC「昼エクスプレス」(月:隔週担当)、Tokyo MX「東京マーケットワイド」(火:午後担当)、ラジオ日経「ウイークエンド株」(有料番組)、「マーケットプレス」(金:午後隔週担当)、「スマートトレーダーPLUS」(木:16時~16時30分放送)などにレギュラー出演中。また、四季報オンラインやダイヤモンドZAIなどのマネー雑誌にも連載を持つ。著書には「テクニカル分析 最強の組み合わせ術」2018年6月発売(日本経済新聞出版社)、「ど素人が読める株価チャートの本」(翔泳社)などがあり、それぞれ台湾で翻訳出版され大好評。テクニカル指標の特許「注意喚起シグナル」を取得、オリジナルで開発した投資&ビジネスメモツールi-tool(アイツール)を提供中。