全部知っていたら年金通?
年金で損しないために押さえておきたい10個の数字
提供元:Mocha(モカ)
老後の暮らしを支えてくれる老齢年金、万が一障害を負ってしまったときにもらえる障害年金、一家の働き手が亡くなったときにもらえる遺族年金。これらの公的年金制度を支えているのが、国民年金や厚生年金です。そして、公的年金には覚えておくと役立つ、いくつかの「数字」があるのをご存じですか?ここでは将来年金の受給で損をしないために、ぜひ知っておきたい10個の数字をご紹介します。
老齢年金の受給額に関する数字
年金について気になるのは、将来どれくらいの年金が受け取れるのかという点かもしれませんね。そこで、老齢年金の受給額に関する、知っておきたい4つの数字をご紹介します。
●(1) 国民年金の満額受給額「月額6万8000円(年額81万6000円)」
20歳になると誰もが国民年金に加入し、60歳になるまで国民年金保険料を払い続けることになっています。そして、保険料を納付した期間が10年以上ある場合に、65歳から老齢基礎年金を受け取る資格が得られます。このとき、20歳から60歳までの全期間(40年)保険料を払い続ければ、満額の老齢基礎年金を受給することができます。
2024年4月からの満額となる老齢基礎年金額は、月額6万8000円(年額81万6000円)となっています。
ただ、すべての人が満額の老齢基礎年金を受け取れるわけではありません。国民年金もしくは厚生年金の加入期間が40年に満たなければ、老齢基礎年金は減額されてしまうのです。(厚生年金保険の加入者は、同時に国民年金にも加入していることになっています。)
たとえば、大学に通う間は国民年金に加入していなかった場合。学生は十分な収入があるわけではないので、国民年金保険料を支払うことができない場合があるのではないでしょうか。そんな学生のために、在学中は保険料の納付が猶予される「学生納付特例制度」があります。これは老齢基礎年金を受給するのに必要な受給資格期間(10年以上)には含まれますが、年金額には反映されません。
また、経済的な理由で国民年金保険料を払っていない期間がある場合。未納期間は受給資格期間には含まれませんし、その期間に相当する分の年金額は減額となります。学生ではない人で保険料が払えないときは、国民年金保険料の「免除制度」もしくは「納付猶予制度」の手続きをしましょう。どちらも手続きをして承認されれば、免除期間・猶予期間は受給資格期間に含めることができます。ただし、免除制度の場合は免除の種類(全額・4分の3・半額・4分の1)に応じて年金額が減額になります。さらに納付猶予制度の場合は、その期間に相当する分は年金額に反映されません。
なお、老齢基礎年金をできるだけ満額に近づけるために、学生納付特例制度・免除制度・納付猶予制度を利用した期間の保険料は追納されることをおすすめします。
●(2) 年金受給月額の平均「5万6428円/14万4982円」
65歳になると国民年金や厚生年金を受給できるようになりますが、どれくらい受け取ることができるのか気になりませんか?そこで、年金受給額の平均額を調べてみました。
厚生労働省が作成した「令和4年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、2022年度での国民年金受給者の平均年金月額は「5万6428円」でした。また、厚生年金保険を受給する人の受給者平均年金月額は「14万4982円」となっています。これを見ると、自助努力で老後資金を貯蓄する必要性を感じるかもしれませんね。
とはいえ、貯蓄以外にもできることがあれば、受け取れる老齢年金を増やすことを考えてみてもいいかもしれません。
老齢年金の月額を増やす方法として検討できるのは、国民年金や厚生年金保険の加入期間を延ばすことです。
●(3) 厚生年金の係数「0.005481」
会社員として企業に勤めると、厚生年金保険に加入することになります。そして、老齢基礎年金の受給要件を満たし、なおかつ厚生年金保険の被保険者期間が1ヶ月以上ある場合、65歳になると老齢厚生年金を受け取れるようになります。その目安となる受取額の試算に使用するのが「係数:0.005481」です。
老齢厚生年金額の目安=平均標準報酬額×0.005481×勤務月数
(※2003年4月以降に入社した場合)
くわしい老齢厚生年金の受給額については、「ねんきん定期便」を参照するか、日本年金機構の「ねんきんネット」で見込額を確認してみましょう。
●(4) 国民年金の納付率「77.6%」
国民年金の加入資格がある人でも、実際には国民年金保険料を納めていない人もいます。そこで、国民年金の納付義務のある人がきちんと保険料を納めているのか、その納付状況を見る指標となっているのが、厚生労働省が示す国民年金の「納付率」です。最新の納付率は、2023年度分保険料の納付状況を現す現年度納付率になりますが、「77.6%」となっています。ちなみに、国民年金の現年度納付率は、2011年から12年連続で上昇を続けています。
将来の年金収入の増減に関する数字
国民年金の加入者になると、60歳になるまで国民年金保険料を納め続けることになります。2024年度の保険料は月々1万6980円となっています。しかし、生活に困窮して保険料が払えず放置していたり、自分の都合で滞納していたりすると、将来の生活を支える老齢年金が受け取れなくなる場合があります。保険料の未納期間があると老齢年金が減額されますが、後から払い込むことで減ってしまった年金を増額することも可能です。ここでは、年金収入の増減に関する数字を6つご紹介します。
●(5) 国民年金保険料の時効「納付期限から2年」
国民年金保険料には納付期限があります。たとえば、4月に納めるべき保険料の納付期限5月末です。この納付期限から2年経過すると時効となって、その後は納付ができなくなり、将来受け取る老齢年金が減ってしまいます。けれども、納付期限を過ぎてから「2年以内」であれば納付が可能です。この場合、日本年金機構から自宅へ届いている納付書を使って納めることができます。もし該当する保険料がある場合は、2年以内に必ず払い込みましょう。
●(6) 国民年金の免除・納付猶予制度を受けた場合の追納できる期間「過去10年以内」
経済的な理由などで国民年金保険料が納付できなくなっても、免除制度や納付猶予制度、学生納付特例制度などを利用すれば、老齢基礎年金の受給資格期間への影響は出ません。ただし、受け取れる老齢基礎年金は減額となってしまいます。そんなとき、追納制度を利用すれば、将来の年金額を増やすことができます。
国民年金保険料の追納制度は、保険料の免除・納付猶予制度、学生納付特例制度を受けている人が利用できる制度で、保険料を納めていない期間の追納が可能です。ただ、追納できる期間は「過去10年以内」となっています。また、2年前までの保険料は当時の保険料をそのまま払い込めばいいのですが、3年以上前の保険料については一定の加算額が上乗せされる点は留意しておきましょう。
追納する際は「国民年金保険料追納申込書」に必要事項を記入し、最寄りの年金事務所へ提出します。郵送による申し込みも可能です。申込書の用紙は日本年金機構のホームページからダウンロードできます。
もし免除制度などを利用した場合は、「過去10年以内」を頭に入れておき、経済的に余裕ができたときに追納することをおすすめします。
●(7) 老齢年金の繰り下げ受給「最大84%増額」
老齢基礎年金と老齢厚生年金は65歳から受給できるようになりますが、受給開始年齢を繰り下げることができます。これを繰り下げ受給といいます。
繰り下げ受給のできる年齢は、66歳から75歳までで、受給開始年齢を繰り下げると、受け取れる年金額を増額することができます。
繰り下げ受給の増額率は、次のように計算します。
◎年金の増額率=65歳に達した月から繰り下げを申し出た月の前月までの月数×0.7%
年金を繰り下げると、1ヶ月につき0.7%増額が可能です。もし70歳まで繰り下げた場合の増額率は42%、75歳まで繰り下げた場合は84%となります。繰り下げは月単位となり、一度繰り下げると、決定した増額率は一生変わりません。
繰り下げ受給をしたい場合は、66歳以降の希望するときに、65歳になる3ヶ月前に日本年金機構から届く「年金請求書」とともに「老齢基礎年金・老齢厚生年金 支給繰下げ申出書」を最寄りの年金事務所または年金相談センターへ提出します。
繰り下げ受給では、老齢基礎年金と老齢厚生年金のどちらか一方を選択して繰り下げることも可能です。一方のみを繰り下げる場合は、65歳になる前に日本年金機構から送られてくる年金請求書とともに、日本年金機構のホームページにある「老齢年金の繰下げ意思についての確認書」を提出しましょう。
なお、繰り下げ受給をして年金額が増えると、その分税金や社会保険料の負担が高くなる場合があります。また、加給年金(※1)や振替加算(※2)を受給できる場合、老齢厚生年金を繰り下げている間は加給年金が、老齢基礎年金を繰り下げている間は振替加算の支給が停止となります。さらに、繰り下げ受給をしても加給年金額や振替加算額は増えないので注意しましょう。
(※1)加給年金
厚生年金保険に20年以上加入した夫が65歳に到達したとき(または定額部分の支給開始年齢に達したとき)、65歳未満の配偶者を扶養している場合に加算される年金。妻が65歳に達するまで受給できる。
(※2)振替加算
加給年金の対象で昭和41年4月1日以前生まれの妻が65歳になり夫の加給年金が打ち切りになったとき、妻の老齢基礎年金に加算されるもの。
●(8) 老齢年金の繰り上げ受給「最大24%減額」
老齢基礎年金と老齢厚生年金は、60歳から64歳の間に繰り上げて受給することができます。これを年金の繰り上げ受給といいます。 通常、65歳から受け取る年金を60歳から64歳の間に請求できるので、収入に不安のある人にとってはよい制度かもしれません。ただ、繰り上げ受給は年金受給額が1ヵ月につき0.4%減額となります。
繰り上げ受給の減額率は、次のように計算します。
◎年金の減額率=0.4%×繰り上げ請求月から65歳に達する日の前日までの月数
たとえば60歳0ヵ月から繰り上げ受給すると、減額率は最大の24%になります。減額された年金額は一生涯変わらず、途中で繰り上げ受給を取り消しすることもできません。また、繰り上げ受給をすると、国民年金の任意加入や保険料の追納もできなくなります。さらに、繰り上げ受給は老齢基礎年金と老齢厚生年金を同時に繰り上げ請求する必要があります。
60歳になった時点で国民年金の加入期間が40年に満たない場合、65歳になるまでの期間は任意加入や保険料の追納で老齢基礎年金を満額に近づけることができます。ただ、繰り上げ受給をすると老齢基礎年金を満額に近づける機会を逃すばかりか、年金の受給額を減らすことにもなります。無収入で生活費を賄いたい人や、早めに年金をもらっておきたいと考える人もいるかもしれません。しかし生涯を通じて、本来受給できるはずの年金を減らすことになるので、老後の生活に影響します。利用する際は十分に検討したうえで請求するようにしましょう。
●(9) 在職老齢年金「50万円」
60歳以降、厚生年金に加入して働きながら受給する年金のことを在職老齢年金といいます。この制度により、年金額と賃金の合計額が50万円を超えると、老齢厚生年金の一部または全部が支給停止になることがあります。
在職老齢年金の支給停止額と支給月額は以下のように計算します。
◎年金の支給停止額=(基本月額+総報酬月額相当額-50万円)×1/2
◎年金の支給月額=基本月額-(基本月額+総報酬月額相当額-50万円)×1/2
※基本月額とは、加給年金を除いた老齢厚生年金(報酬比例部分)の月額のこと。
※総報酬月額相当額とは、その月の標準報酬月額と、その月以前1年間の標準賞与額の合計を12で割った額を足した金額のこと。
年金額(基本月額)と賃金(総報酬月額相当額)の合計額が50万円以下であれば、老齢厚生年金は支給停止にはなりません。しかし50万円を超える場合は、年金が減額または支給停止になります。
厚生年金に加入して働くことで年金が減らされるのなら繰り下げ受給で年金を増やそうと考える人もいるかもしれません。ここで注意したいのは、繰り下げ受給をしても支給停止になった分は増額されず、減額された金額分しか増額対象とならない点です。
最近は物価高などの影響で、もらえる年金よりも生活費にかかる支出の方が多くなる傾向にあるため、65歳以降も厚生年金に加入して年金額を増やす人が増えています。さらに年金を増やすために、厚生年金に加入して働きながら、なおかつ繰り下げ受給を考える人もいるかもしれません。ただ、この場合は在職老齢年金制度によって年金の支給額が調整されて、年金の一部または全部が支給停止になり、繰り下げ受給の効果が発揮できない場合があるので注意が必要です。
とはいえ、厚生年金に加入しない範囲内で働けば、支給停止や繰り下げ受給の制限はありません。また、老齢基礎年金は在職老齢年金の対象ではないので、老齢基礎年金のみを繰り下げ受給すれば、繰り下げ効果が発揮できるでしょう。
(10) iDeCo(イデコ)の毎月の掛金上限額「月額2万円~6.8万円」
老後資金の準備に活用できるiDeCoですが、自営業者やフリーランスのみならず、会社員や主婦も利用できます。ただし、掛金はいくらでもいいわけではなく、国民年金の区分によって、上限額が決まっています。
またiDeCoは2024年12月に改正されて、確定給付企業年金のみに加入する人または企業型確定拠出年金と確定給付企業年金を併用している人は公務員を含み、拠出限度額が12,000円から2万円に引き上げられます。
掛金上限額(月額)は以下の通りです。
【第1号被保険者】
・自営業者:6万8000円/月
【第2号被保険者】
・確定給付企業年金のみに加入している場合:1万2000円⇒2万円/月
・企業型確定拠出年金のみに加入している場合:2万円/月
・企業年金がない会社に勤めている場合:2万3000円/月
・企業型確定拠出年金と確定給付企業年金の両方に加入している場合:1万2000円⇒2万円/月
・公務員、私学共済制度の加入者:1万2000円⇒2万円/月
【第3号被保険者】
・専業主婦(夫):2万3000円/月
iDeCoは老後資金を貯めながら税制優遇も受けられるよい制度です。将来の生活費が気になる人は利用を検討するとよいでしょう。
公的年金を増やすためにできること
今回は公的年金を増やせる方法として繰り下げ受給をご紹介しましたが、他にも増やせる方法はあります。その方法とは「任意加入制度」の利用です。
任意加入制度は、以下の要件を満たすときに利用することができます。
・日本国内に住む60歳以上65歳未満の人
・国民年金保険料の納付月数が480月(40年)に満たないこと
・厚生年金保険に加入していないこと
・老齢基礎年金を繰上げ受給していないこと
60歳~65歳までの間に、任意加入で国民年金の納付月数を480月に近づけるとよいでしょう。
また、自営業者など国民年金の第1号被保険者や任意加入をする人は、国民年金保険料に付加保険料を上乗せして納めると、「付加年金」を受け取ることができます。付加保険料は月額400円で、「200円×付加保険料納付月数」が付加年金額となります。
年金で損しない知識を身につけよう
今回は、年金で損しないために知っておきたい10個の数字をご紹介しました。国民年金の満額受給額はすべての人に関係する数字なので覚えておきましょう。また、会社員の人は、厚生年金の受給額を試算するための係数を覚えておくと便利です。さらに、年金の受給額を増やせる繰り下げ受給のことも知っておくとよいでしょう。
国民年金の未納は年金額に大きな影響を与えます。そのためにも、国民年金保険料の時効は必ず覚えておき、該当する場合は期限を守りましょう。保険料の未納期間がある人は、老齢基礎年金を増やすためにも、10年以内の追納をおすすめします。
(執筆:ファイナンシャルプランナー 前佛朋子)
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