ハリス氏とトランプ氏、どちらが当選すると株式市場は盛り上がる?

元チーフエコノミストFPが考える「米大統領選挙」が資産形成に与える影響

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日本でも連日報道されているアメリカ大統領選挙。民主党からはカマラ・ハリス氏、共和党からはドナルド・トランプ氏が立候補し、2024年11月5日に投開票が行われる。

「なぜ、日本でアメリカの大統領選のゆくえがこんなにも注目されているのだろう?」と、疑問を抱く人もいるのではないだろうか。そこで、かつて三井住友銀行のチーフエコノミストを務め、現在は金融市場の専門家として活動しているファイナンシャルプランナーの山口曜一郎さんに、米大統領選挙が我々の資産形成に与える影響について聞いた。

「アメリカ経済」が世界から注目される理由

「昔から日本とアメリカのつながりは強いといわれてきましたが、貿易の数字などを見ると、ここ20~30年でそのつながりはさらに強くなっているといえます。日本で暮らしているとあまり実感しないかもしれませんが、食料自給率が低い日本ではスーパーなどで売られているものの多くが外国産ですよね。そうなると、当然ながらアメリカをはじめとした海外の影響を大きく受けるといえます」(山口さん・以下同)

食品に限らず、MicrosoftのWindowsが入ったパソコンやAppleのiPhoneを使ったり、Googleで検索したり、Netflixで映画やドラマを見たりするなど、日常生活でアメリカ企業の製品やサービスに触れている人も多いだろう。そう考えると、アメリカ経済の影響を受けることが想像できる。

「アメリカの経済規模が世界一という点もポイントです。アメリカのGDP(国内総生産)は世界全体の4分の1を占めており、経済規模を日本円に換算すると約4000兆円です。日本の経済規模は約600兆円なので、6倍以上。この情報だけでも、アメリカの動向が世界中に影響を与えることがうかがえます」

そして、アメリカのトップを決める大統領選挙は、アメリカの経済に直結しているという。

「アメリカの基盤となる経済の方向性を決めるのが大統領であり、大統領選挙の結果次第で方向性は大きく変わります。ここまで経済の話を中心にしてきましたが、政治や外交に関しても候補者によって考え方は異なります。4年に一度、トップが替わる大統領選挙のインパクトはアメリカ国内でも海外でも大きいのです」

ハリス氏当選で株式市場にはネガティブな影響あり…?

ここからは、2人の候補者それぞれが当選した場合の影響について聞いていこう。まずは民主党のハリス氏が当選した場合。

「現在のバイデン大統領も民主党ですし、ハリス氏は現副大統領なので、それほど大きく変わることはないと考えられます。ハリス氏ならではの部分を挙げるとすると、彼女は中間層を支援する政策を掲げ、法人税の引き上げや富裕層に対する課税を強化すると話しています。この政策が実現すると企業や富裕層の活動が鈍化する可能性があるため、経済、特に株式市場に関しては若干ネガティブな影響が出るかもしれません」

株式市場に対する負の影響は、投資や資産形成においてはうれしくないものだが、過度に心配する必要はなさそうだという。

「大統領選と同時に議会選挙も行われるのですが、上院は共和党が過半数を占めるのではないかと目されています。大統領が属する政党と上院の過半数を占める政党が異なると、大統領が提示した法案が通りにくくなるので、極端な変化は生まれにくいといえます。そのため、株式市場にもそこまで大きな影響は出ないのではないかと考えられます」

もうひとつ注目したいのが、ハリス氏とトランプ氏の考え方が正反対なエネルギー政策。

「ハリス氏が所属する民主党は、気候変動対策について比較的前向きです。太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギーを取り入れる方向で動いているので、ハリス氏が当選した場合はクリーンエネルギー関連の企業が好調に推移するかもしれません」

トランプ氏当選でアメリカ経済は活性化する…?

共和党のトランプ氏が当選した場合は、影響が大きくなる可能性が高いという。

「トランプ氏が当選すると、現在のバイデン大統領から方向性ががらっと変わるので、インパクトが大きいといえます。特に注目するべきは関税の強化です。トランプ氏は他国に対する関税を10~20%、中国に関しては60%に上げることで、アメリカ国内の雇用を守ると発言しています。例えば、100ドルの輸入品と120ドルの国産品であれば輸入品を選ぶ人は多いと思われますが、関税を60%に引き上げると輸入品は160ドルになるので120ドルの国産品を選ぶ人が増え、国内の雇用やビジネスが守られるという見通しです」

国民にとってはプラスの政策のように思えるが、実際はマイナスな見方もあるようだ。

「いままで100ドルで買えていたものが120ドルに値上げすることと同意なので、インフレが加速し、国民の生活が苦しくなって消費が減る可能性を秘めています。トランプ氏は関税の強化に加えて、国民に対しては減税するという発言もしています。減税することで消費を増やし景気を刺激するという見立てのようですが、税収が減って財政赤字が拡大する可能性があり、経済全体にとってはよくない状況になるかもしれません」

長期的に見ると、アメリカ経済が不安定になりかねないという見方もあるのだ。エネルギー政策についてはどのような政策を掲げているのだろう。

「トランプ氏は化石燃料肯定派で、石油の生産量を増やす方向で考えているようなので、クリーンエネルギー関連よりオイルセクターのほうが盛り上がる可能性があります。また、前回大統領になった際にパリ協定(※)から離脱したので、今回も同じように離脱することを想定すると、アメリカの不安定感は高まるといえます」

※2015年の国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)で採択された枠組み。世界の平均気温上昇を産業革命以前と比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃以内に抑える努力をすることが目的として掲げられている。

大統領選挙前後の「株価」もチェック

山口さんは、「米大統領選挙の前後の株価にも注目したほうがいい」と話す。

「米大統領選挙は基本的に2人の候補者が争うので、それぞれの政策がわかりやすく、その後の動きも見えやすいという特徴があります。しかし、今回のように両者が拮抗していてどちらが当選するかわからない状況だと、先行きも不透明。今後の展開が読めないと投資しにくいので、大統領選挙前は株価が下がりやすいといわれています。当選が決まると、新大統領の政策に関連する企業の株式が買われるため、株価も回復する傾向にあります。大統領選挙前後の傾向も押さえておくと、投資や資産形成の判断がしやすくなるでしょう」

米大統領選挙は、経済規模の大きいアメリカ全体の方向性を決める重要なイベントだ。結果だけでなく、候補者それぞれの政策を把握しておくことで、今後の経済状況を予測しやすくなりそうだ。

(取材・文/有竹亮介 撮影/森カズシゲ)

お話を伺った方
山口 曜一郎
ワイズ・アセット・デザイン代表、ファイナンシャルプランナー。三井住友銀行で20年以上エコノミストとして活躍し、2022年に独立。「日本一、経済と金融市場に詳しいFP」として活動し、個別相談や企業研修、金融教育授業、メディアへの出演や執筆などを行う。
著者/ライター
有竹 亮介
音楽にエンタメ、ペット、子育て、ビジネスなど、なんでもこなす雑食ライター。『東証マネ部!』を担当したことでお金や金融に興味が湧き、少しずつ実践しながら学んでいるところ。

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