労働生産性の定義とは?計算式や向上させる方法をわかりやすく解説
労働生産性とは、従業員ひとりあたりでどれくらいの付加価値額を生み出したかなどを示した指標です。向上させると、企業の競争力が高まる、人材不足を解消するなどにもつながるでしょう。
本記事では、労働生産性の計算式や向上させるための具体的な方法について解説します。
労働生産性とは
労働生産性とは、労働者もしくは労働者単位で、どれくらいの成果を生み出したかを示す指標のことです。
例えば、同じ業務量をこなすのにA社は100時間かかるのに対し、B社は90時間でできるのであれば、一般的にB社の方が労働生産性は高いといえます。また、C社が完了できた作業に対して、同じ時間をかけてもD社が80%しか進まなければ、D社の方が労働生産性は低いといえるでしょう。
ここから、労働生産性の種類や日本における労働生産性の平均値について解説します。
労働生産性の種類
労働生産性は、主に以下の2種類に分類できます。
・付加価値労働生産性
・物的労働生産性
付加価値労働生産性とは、企業が新たに生み出した価値(付加価値)を成果として示した指標です。一般的に、付加価値は自社が生産した額(売上高)から外部から調達する際にかかった費用などを除いたものを指します。
一方、物的労働生産性は、生産する物自体の量を成果とする指標です。生産した個数を生産量とすることもあれば、大きさや重さなどで判断することもあります。
なお、付加価値労働生産性や物的労働生産性は、さらに細かく分類可能です。それぞれ、1人あたりの付加価値額(生産量)を算出する場合や、1時間あたりで算出する場合などに分けられます。
日本における労働生産性の平均値
公益財団法人 日本生産性本部は、毎年日本の1人あたりの労働生産性や、1時間あたりの労働生産性を発表しています。
「労働生産性の国際比較2023」によると、2022年における日本の1人あたり労働生産性は85,329ドル(1年間あたり)でした。一方、2022年における1人あたり労働生産性は、52.3ドル(1時間あたり)(2021年比+0.8%*実質ベース)とのことです。
なお、こちらのデータでは「付加価値」を、労働生産性を図る際の指標として用いています。
労働生産性の計算式
生産性を求める際は、生み出すもの(アウトプット)を投入するもの(インプット)で求めることが基本です。労働生産性において、アウトプットは生産量、インプットは労働者数や労働時間などが該当します。
ここから、付加価値労働生産性と物的労働生産性に分けて、労働生産性を求める計算式を確認していきましょう。
付加価値労働生産性を求める場合
1人あたりの付加価値労働生産性を求める計算式は、以下の通りです。
・(1人あたり付加価値)労働生産性(円) = 付加価値額(円) ÷ 労働者数(人)
例えば、付加価値額が5億円で従業員の数(労働者数)が100人の会社(E社)であれば、1人あたりの付加価値労働生産性は500万円です。財務省によると、2018年度の全産業・全規模における(1人あたり付加価値)労働生産性は、730万円でした。
また、1時間あたりの付加価値労働生産性は以下の計算式で求められます。
・(1時間あたり付加価値)労働生産性(円) = 付加価値額(円) ÷ 労働者数(人)÷ 労働時間(時間)
E社の労働時間が1,000時間であれば、(1時間あたり付加価値)労働生産性は5千円です。
物的労働生産性を求める場合
1人あたりの物的労働生産性を求める計算式は、以下の通りです。
・(1人あたり物的)労働生産性(個など) = 生産量(個など) ÷ 労働者数(人)
例えば、先ほどのE社の生産量が250,000個であれば、1人あたりの物的労働生産性は2,500個です(250,000個 ÷ 100人)。
また、1時間あたりの物的労働生産性は以下の計算式で求められます。
・(1時間あたり物的)労働生産性(個など) = 生産量(個など) ÷ 労働者数(人)÷ 労働時間(時間)
そのため、E社の(1時間あたり物的)労働生産性は2.5個です(250,000個 ÷ 100人 ÷ 1,000時間)。
企業において労働生産性の向上がもたらす主なメリット
企業において、労働生産性の向上がもたらす主なメリットは、以下の通りです。
・企業の競争力が高まる
・投資家に魅力的な企業と判断される
・人材不足の解消につながる
・社員のワークライフバランスを実現しやすくなる
各メリットについて、詳しく解説します。
企業の競争力が高まる
企業は労働生産性を向上させることで、競争力を高められる点がメリットです。
労働生産性が上がれば労働時間が減少するため、人件費を抑えられます。削減できた分のコストを新規事業の立ち上げや成長が期待できる事業の設備投資などにあてれば、さらに生産性を向上させられるでしょう。
好循環を生み出した結果、競合する企業と差別化を図れます。
投資家に魅力的な企業と判断される
投資家に魅力的な企業と判断されやすいことも、労働生産性を向上させるメリットです。
投資家の中には、労働生産性の高さを基準に投資判断をする人もいます。そのため、労働生産性が高まったことで投資家からの注目を集められれば、企業価値が高まったり、新たな出資を受けやすくなったりするなどのメリットを期待できるでしょう。
人材不足の解消につながる
人材不足の課題の解消につながる点も、労働生産性を向上させることのメリットとして挙げられます。
日本では、少子高齢化などの理由でさまざまな業種において人材不足が深刻です。その点、労働生産性を向上させて少ない労働者や労働時間でも成り立つ仕組みを作れば、人材確保が難しい企業でもビジネスを推進できるでしょう。
社員のワークライフバランスを実現しやすくなる
社員のワークライフバランスを実現しやすくなることも、労働生産性向上のメリットとして挙げられます。ワークライフバランスとは、誰もが仕事や家庭生活などを自らの希望するバランスで展開できる状態のことです。
労働生産性を向上させて少ない労働時間でも成り立つ仕組みを作れば、従業員の負担を軽減できます。そのため、今まで残業を繰り返したり、休日出勤したりせざるをえなかった従業員も、趣味や家族との時間を増やせるでしょう。
なお、ワークライフバランスを実現しやすい企業であることをアピールできれば、結果的に人材不足の解消にもつながります。
企業で労働生産性を向上・改善させる方法
企業で労働生産性を向上・改善させるには、以下のような方法があります。
・自社の労働生産性を把握して目標を設定する
・労働環境の改善を進める
・ITツールやシステムを導入する
それぞれ確認していきましょう。
自社の労働生産性を把握して目標を設定する
労働生産性を向上させるには、まず自社の状況を把握することが大切です。現在の1人あたり労働生産性や1時間あたり労働生産性は平均値と比べてどのようになっているのか、業務プロセス・業務フローに重複しているものや無駄なものはないかなどを確認しましょう。
自社の状況を掴んだら、具体的なKPIを設定します。KPI(重要業績評価指標)とは、ゴールに到達するまでの進捗状況を数値で表すものです。KPIを設定しておけば、社内全体で労働生産性を改善するために何をすべきかを共有しやすくなります。
労働環境の改善を進める
労働環境の改善を進めることも、労働生産性を向上させる方法です。働きやすい環境が整っていれば従業員の不満解消や高いモチベーションの維持につながるため、今まで以上の成果を期待できます。
また、労働時間と生産量は必ずしも直結するものではありません。残業を減らして労働時間を削減することにより、むしろ質の高い結果を得られることもあるでしょう。
ITツールやシステムを導入する
ITツールやシステムを導入することでも、労働生産性の向上が期待できます。
例えば、今まで手作業で進めていたものをITツールの導入で自動化できれば、その分労働時間を軽減できるでしょう。ヒューマンエラーを防ぐことで、やり直しにかかる手間や時間も削減できます。
ただし、ITツールやシステムを導入するためには、コストがかかる点に注意が必要です。また、導入当初は担当者が処理方法を覚えるまでに一定の時間を要します。
労働生産性とは労働の効率性を図る指標
労働生産性とは、労働者もしくは労働者単位でどれくらいの成果を生み出したかを示した指標のことです。労働生産性をチェックすれば、その企業における労働の効率性がわかります。
労働生産性を向上させれば、競争力が高まることや人手不足の解消につながりうることがメリットです。向上させる方法として、労働環境を改善することや、ITシステムを導入することなどが挙げられます。
現在株式投資をしている方や、株式投資に興味のある方は、上場企業の労働生産性にも注目してみるとよいでしょう。
参考:公益財団法人 日本生産性本部「労働生産性の国際比較2023」
参考:公益財団法人 日本生産性本部「生産性とは」
参考:財務省「労働生産性」
ライター:Editor HB
監修者:高橋 尚
監修者の経歴:
都市銀行に約30年間勤務。後半15年間は、課長以上のマネジメント職として、法人営業推進、支店運営、内部管理等を経験。個人向けの投資信託、各種保険商品や、法人向けのデリバティブ商品等の金融商品関連業務の経験も長い。2012年3月ファイナンシャルプランナー1級取得。2016年2月日商簿記2級取得。現在は公益社団法人管理職