「父と母2人分」ではない?
夫婦ともに亡くなった場合、子どもは遺族年金をいくらもらえるのか
提供元:Mocha(モカ)
自分たち夫婦にまさかの事態が起きてしまったときに、子どもたちの生活はどうなるのか。まだ高校を卒業していないお子さんがいるご家庭にとっては、最も備えておきたいリスクと言っても過言ではありません。
そこで知っておきたいのが、公的年金に加入している人によって生計を維持されていた遺族の所得を保障する遺族年金の存在です。果たして、子どもたちは遺族年金でどのくらい生活をまかなうことができるのでしょうか。今回は、残された子どもたちがもらえる遺族年金の種類や金額を、分かりやすく解説します。
子どもが遺族年金を受け取れるのはこんなとき
遺族年金は、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類。受け取れる年金の種類や年金額は、故人の加入履歴や遺族の状況によって異なります。まずは子どもがいる場合において、「誰が」「どのような(種類)」遺族年金を受け取れるのかを見ていきましょう。
●遺族基礎年金における「子」の支給停止ルール
故人が次のいずれかの要件を満たしている場合には、故人によって生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」に対して、「遺族基礎年金」が支給されます。遺族厚生年金を含めて、遺族年金における「子」とは、18歳になった年度の3月31日までにある人、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある人のことです。
【遺族基礎年金の受給要件】
1. 国民年金の被保険者である間に死亡したとき
2. 国民年金の被保険者であった60歳以上65歳未満の方で、日本国内に住所を有していた方が死亡したとき
3. 老齢基礎年金の受給権者であった方(保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間を合算した期間が25年以上ある方に限る)が死亡したとき
4. 保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間を合算した期間が25年以上ある方が死亡したとき
子に対する遺族基礎年金は、「配偶者が遺族基礎年金の受給権を有するとき」や「生計を同じくする父または母がいるとき」には支給されませんが、これらの支給停止事由が解除された場合には、子に対して遺族基礎年金が支給されることになります。
●遺族厚生年金における「子」の支給停止ルール
厚生年金保険の被保険者もしくは被保険者だった人が亡くなった場合に支給される「遺族厚生年金」。故人が次のいずれかの要件を満たす場合には、故人によって生計を維持されていた遺族に、「遺族厚生年金」が支給されるので確認しましょう。
【遺族厚生年金の受給要件】
1. 厚生年金保険の被保険者である間に死亡したとき
2. 厚生年金保険の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で初診日から5年以内に死亡したとき
3. 1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けとっている方が死亡したとき
4. 老齢厚生年金の受給権者であった方(保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間を合算した期間が25年以上ある方に限る)が死亡したとき
5. 保険料納付済期間、保険料免除期間および合算対象期間を合算した期間が25年以上ある方が死亡したとき
「配偶者および子」は、父母や孫、祖父母に優先して支給対象となります。子に対する遺族厚生年金は、子のある妻または子のある55歳以上の夫が遺族厚生年金を受け取っている間は支給されませんが、妻が亡くなったときに夫が55歳未満だった場合には、遺族厚生年金の受給権は夫ではなく子に発生することは重要なポイントです。
父と母、2人分の遺族年金がもらえるわけではない
それでは、両親が子3人を残して亡くなったケースを例に、子がどのくらい遺族年金をもらえるか見ていきましょう。両親がともに亡くなった子は、父に係る遺族年金の額と、母に係る遺族年金の額を合算してもらえるわけではありません。つまり、2つ以上の基礎年金または2つ以上の厚生年金を受けられるケースでは、いずれか有利な方を選ぶことになります。
●定額の遺族基礎年金は「子の加算額」に注目
遺族基礎年金の額は、被保険者期間の長さにかかわらず定額(満額の老齢基礎年金)であるため、両親を亡くした子にとって有利・不利の心配はいりません。
【遺族基礎年金の年金額(2024年度)】
1. 子のある配偶者が受け取るとき
・1956年4月2日以後生まれ:816,000円+子の加算額(※)
・1956年4月1日以前生まれ:813,700円+子の加算額(※)
2. 子が受け取るとき
・816,000円+2人目以降の子の加算額(※)
(1人あたりは子の数で割った額で、100円未満四捨五入。)
(※)子の加算額
・1人目および2人目:各234,800円
・3人目以降:各78,300円
遺族基礎年金額を試算するうえでのポイントは「子の加算額」です。子が受け取るときは2人目の子から加算額が発生するため、受給権を持つ子が3人いる今回のケースでは、1,129,100円(816,000円+234,800円+78,300円)を3で除した376,400円が、それぞれの子に支給されます。なお、1人目・2人目の子が18歳の年度末などのタイミングを迎えるたびに、子の加算額が減額されていく点には注意してください。
●「遺族厚生年金」は見込額を試算・比較して多い方を選ぼう
遺族厚生年金の額は、故人の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3。厚生年金保険に加入していた期間と報酬額の違いから、夫婦(子にとって父母)でその金額は異なるはずです。したがって、遺族厚生年金の見込額を夫婦それぞれ試算したうえで、万が一の事態では多い方を選択するよう子どもに伝えておくとよいでしょう。
例えば、厚生年金保険に加入中(2003年4月以降、240月加入)で、平均標準報酬額が40万円だった夫に係る遺族厚生年金の額が、妻のそれよりも多いと見込まれるとします。このケースでは、夫に係る遺族厚生年金の額は、最低保障として加入期間を300月(25年)とみなしたうえで、493,290円です。したがって、両親がともに亡くなり、子3人がもらえる遺族年金の合計は、493,290円に先ほど説明した遺族基礎年金1,129,100円を足した1,622,390円となります。
<両親が亡くなった子が受け取る遺族年金(年額)>
残された家族にどれくらい遺族厚生年金が支給されるか、もっと簡単かつ具体的に知りたい人は、毎年の誕生月に届く「ねんきん定期便」等の情報も活用しましょう。
50歳未満のねんきん定期便には、現時点での老齢厚生年金(報酬比例部分)の額が記載されています。その金額を4分の3すれば、おおよその遺族厚生年金の金額がわかります。
50歳以上のねんきん定期便には、現在の加入条件が60歳まで継続すると仮定した場合の金額が示されているため、今後の加入状況や亡くなったタイミングによる相違に注意が必要ですが、老齢厚生年金の報酬比例部分のみを合計した金額の4分の3がおおよその遺族厚生年金の金額です。
<ねんきん定期便のチェックポイント(赤枠)>
「子」が受け取る遺族年金の意外な落とし穴
ここまで、両親が亡くなった場合における、子がもらえる遺族年金の種類や金額を見てきましたが、次のいずれかに該当すると、子は遺族年金の受給権を失うことになります。
【遺族年金の失権事由(子が受け取っている場合)】
1. 亡くなったとき
2. 結婚したとき(内縁関係を含む)
3. 直系血族または直系姻族以外の方の養子となったとき
4. 亡くなった方と離縁したとき
5. 18歳になった年度の3月31日に到達したとき。ただし障害等級1級・2級に該当する障害の状態にあるときは、20歳に到達したとき
6. 18歳になった年度の3月31日後20歳未満で障害等級1級・2級の障害の状態に該当しなくなったとき
なお、上の「5.」以外の事由では、「遺族年金失権届」の提出が必要です。
「直系血族または直系姻族以外の方の養子となったとき」や「亡くなった方と離縁したとき」にも失権する点は、みなさんも初耳かもしれません。
例えば、直系血族である祖父母の養子になった場合には受給権は消滅しない一方で、傍系血族である叔父の養子になった場合には受給権が消滅します。「支給停止」とは異なり、受給権そのものの消滅を示す「失権」は、その事由が解消されたとしても今後支給が行われることはないので、その意外な落とし穴に注意が必要です。
想像以上に心強い遺族年金による所得保障を味方につけよう
今回は、両親がともに亡くなってしまった子どもたちがもらえる遺族年金について、その種類や金額を紹介しました。18歳未満の子どもを育てているみなさんの場合、まだまだ年金の加入期間が短いことも考えられます。しかしながら、被保険者期間に関係なく定額である遺族基礎年金、最低保障として加入月数を300月とみなしてくれる遺族厚生年金はそれぞれ、「保険」としての強力さを示していると言っても過言ではありません。したがって、万が一の事態への備えはまず、公的な遺族年金による所得保障の存在を味方につけるのが一番です。
最後に、今回は遺族年金の原則的なルールに基づいて解説をしましたが、遺族年金では支給に関するルールが細かく定められています。もしも複雑な事情が絡む場合や分からないことがあれば、年金事務所や社会保険労務士等の専門家に一度相談してみるとよいでしょう。
[執筆:ファイナンシャルプランナー 神中智博]
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