日本で普及が遅れた要因はどこに?

水瀬ケンイチ氏が“本音”で分析する「東証上場ETF」、出てきた投資マニアならではの見解

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近年、世界中の投資家に活用されている金融商品のひとつがETF(上場投資信託)だ。その名の通り、株式と同様に“上場している”投資信託となる。

ETFは各国の証券市場で取引されており、東京証券取引所でも多数上場されている。では、この「東証上場ETF」に対して“投資のエキスパート”はどんな印象を持っているのだろうか。どういった使い方が良いと考えるのか。

そこで今回お話を聞いたのは、投資ブロガーの水瀬ケンイチ氏。水瀬氏といえば、インデックス投資のスタイルを貫き、なおかつ一度銘柄を購入したら、長期でじっくり保有し続ける「ほったらかし投資」の実践者。このスタイルにより、資産約1億円に到達したという。そんな同氏は、ETFに関してどんな意見を持っているのか。話を聞いていくと、マニアックな話題を深掘りする展開に……。

東証上場ETFを担当する東京証券取引所 株式部株式総務グループ兼ETF推進部・上場推進部の岡崎啓さんが対談相手となり、深いETF談義を繰り広げた。

水瀬氏が考える、ETFに求める3つの成長

水瀬 海外の個人投資家を見ると、金融先進国のアメリカでは、私のようなインデックス投資家の場合、多くがETFを活用していますよね。また最近、カナダの投資に関する書籍を読む機会があったのですが、その本でも、インデックス投資をするなら投資信託よりもETFが推奨されていました。アメリカやカナダでは、それほど個人投資家にETFが定着しているということですよね。

一方で日本に目を移すと、ETFよりも投資信託が主流になっていると感じます。これはなぜなんでしょう?

岡崎 大きな要因は、日本でETFの流動性向上が遅れてしまったこと、それにより、ETFの取引が活発になるまでに時間がかかったことだと思っています。その意味では、私たち東証の責任でもあるでしょう。

実際に2018年頃までは、日経平均やTOPIXといった日本株ETFが取引高の上位であり、それ以外のETFは銘柄が少なく、取引もそれほど多くはない状況でした。そこで2018年からマーケットメイク制度(※)を入れるなど、さまざまな施策を進めたことにより、ETFの流動性が確保され、残高も増えたことで、上場も活発になりました。1日に売買される量も大きく増えたのです。現在では、国内の指数に連動したETFはもちろん、アメリカのS&P500など海外の指数に連動したもの、あるいは指数に連動しないアクティブETFもリアルタイムで買えるようになっています。信託報酬などの手数料も、投資信託と競争できるレベルに下がりました。

※銘柄ごとに指定されたマーケットメイカーが常時「売り」「買い」の気配値を提示することで、対象のETFに対して、需給動向を踏まえた公正な価格で十分な量の気配が提示される。これにより、投資家が売買をしたいタイミングで、より良い価格で売買する環境を提供できる。

こうした進歩で、日本のETFはようやくいい商品になったと思っているのですが、それでもETFユーザーの多くはプロの投資家、つまり機関投資家なんですよね。なぜ個人投資家に使っていただけないのか、ここはむしろ、個人投資家の代表である水瀬さんに伺いたいところです。

水瀬 要因を挙げるとするなら、一番大きいのは「金額指定」で買えないことではないでしょうか。つまり「この銘柄を1000円だけ」とか「1万円ぴったり買う」というもの。投資信託では基本的にできますよね。すると、月いくらずつ積み立てるという積立投資がしやすい。

岡崎 確かにその点は大切なポイントです。一方で、指定金額ちょうどの購入は難しいものの、いくつかの証券会社では週いくら、月いくらと指定すると、なるべくそれに近い金額でETFを自動積立してくれるサービスも出てきました。これらが進化していくことを期待しています。

水瀬 そうですね。あともうひとつ考えられるのは、分配金の違いです。投資信託もETFも、銘柄を保有していると定期的に分配金が出ますが、投資信託は自動で再投資してくれるものがあるのに対し、ETFはそれができない。一度、投資家のもとに分配金が出る決まりです。したがって、再投資するには投資家自身が手続きする必要があります。

大きな金額の分配金なら問題ないのですが、数百円などの分配金をもらう場合は、一口分の金額になるまで再投資できませんよね。この点も、個人投資家が投資信託を選ぶ理由かなと思います。

岡崎 おっしゃる通りですね。分配金を日々の生活費や老後資金に回したい方については、手元に戻ってくる方がうれしいというニーズもあるでしょう。一方で再投資したい人がいるのは間違いないので、制度面も含めて、ぜひこれから検討していきたいと思います。ありがとうございます。

水瀬 最後にもうひとつ、これは個人投資家全般の意見というより、私のような投資マニアに限った意見だと思いますが、ETFの基準価額について「市場価格との乖離がないか」という不安があるのも事実です。

乖離というのは、簡単に言えばETFの中身に対して、その中身通りの価格がついているか、それとも割高もしくは割安な価格がついているかということ。後者なら乖離が発生しているといえます。

証券取引所での取引価格、つまり株価がETFの「市場価格」であり、ETFに組み入れられている有価証券等の資産総額である「基準価額」は、それに一致する値動きになるよう運用されています。この2つの値動きに差がある場合は乖離となるのです。

岡崎 水瀬さんはご自身のブログで、東証に上場している指数連動ETFに乖離が発生していないかを毎月チェックされていますよね。

水瀬 毎月調べるのはけっこう大変なんですけどね(笑)。10年ほど乖離率を調べてきました。それによると、TOPIXをはじめ、日本株に関する指数連動ETFは、調べ始めた当初から現在まで、乖離が起きることはほとんどありません。

一方で先進国や新興国のETFは、当初、乖離のあるものが多かった。その後、マーケットメイク制度などにより改善されていると思うのですが、特に新興国のETFは、まだ時々ぶれることがあります。

岡崎 これについては、各ETFの運用会社からも意見を聞きながら、きちんと分析します。現時点でひとつ原因として考えられるのは、タイミングの問題です。海外の指数に連動したETFの場合、日本で取引されるETFの終値と、基準価額の為替レートや株価が決定するタイミングに差があるので、これが一因になっている可能性はあります。

ただ、水瀬さんの分析結果を見ると、米国の指数連動ETFはほとんど乖離が発生していません。なので為替以外のところにも何か理由があるのかもしれません。これは細かく分析させてください。

アクティブETFは、信託報酬の低廉化を進めるか

岡崎 2023年に解禁されたアクティブETFについては、どう見ていますか。

水瀬 私はインデックス投資の人間なので保有はしていませんが、面白いと思いますね。投資信託でもアクティブファンド(※同じく指数に連動せず、アクティブ運用を行うもの)はありますが、それらに比べてアクティブETFは信託報酬が低い傾向にあります。

山崎元さんが亡くなられる前に、『ほったらかし投資術」(朝日新書)という共著を出版しました。そのとき山崎さんがおっしゃっていたのは、アクティブETFの登場により、アクティブファンドの投資信託も信託報酬の低廉化が進むのではないかということ。アクティブETFが「アクティブファンドの大衆化を先導するのでは」という言葉が印象に残っていますね。

岡崎 アクティブETFは大きく3種類に分類できると思っています。ひとつは、ルールに基づいた運用を行う「ルールベース」というもの。人間の判断はほとんど介入しないため、信託報酬などのフィーは低くなります。

次に、人間による判断を取り入れることで運用を補強する「エンハンスト」。さらに、戦略の多くを人間に依存し、他ファンドの模倣が難しい「プレミアム」。この3つに分類できるでしょう。エンハンスト、プレミアムほどフィーは高くなっていきます。

現在、アクティブETFは原則として、中身である保有銘柄の開示を毎日行うことを義務付けています。透明性を確保するためです。ですが、特にプレミアムと分類されるようなアクティブETFは、毎日の開示により、自分たちの「価値」である手の内を晒すことになる。そこで今は、開示しなくて良い部分を一部設けるなどの緩和策も検討していますね。

水瀬 特にカリスマファンドマネージャーが運営するものになると、手の内を明かすのは難しいでしょうから、そのようなやり方で発展していくといいですよね。

ETFを入り口に「ロマンを追いかけてみてもいい」

岡崎 これからもいろいろな改善を積み重ねながら、魅力的なETFを増やしていきたいと思っています。今はオルカン(オールカントリー:全世界株式)やS&P500が人気で、それだけに資金を集中してコツコツ積み立てるやり方が推奨される機会も多い。もちろん王道の投資だと思います。でも私たちは、市場としては、もっといろいろな投資の選択肢を用意しておきたいなと。

たとえば今年から投資を始めた若者の人生を考えると、これから30年、40年の間にライフステージも環境も、リスク許容度も変わります。もっと安定した債券に投資したいとか、資産を取り崩す代わりに分配金の出るものを探すとか、いろいろな思いが出てくるでしょう。あるいは、アクティブ運用をしたいと考える時期が訪れるかもしれません。

水瀬 その話で言えば、私はインデックス投資をメインにしてきた人間で、アクティブ運用や、値動きに合わせて細かく売買する“タイミング投資”はしてきませんでした。どちらかといえば、そういう運用方法を信じていません(笑)。一度買ったらほったらかす、バイ&ホールドが自分のスタンスです。

ただ資産がそれなりに増えてくると、そのわずか一部を使う範囲なら、アクティブ運用の可能性を試してみたいという思いはあるんです。これまでは「この世にサンタはいない」「夢を追いかけてはいけない」というスタンスでしたが、もしかしたらサンタがいるかもしれないとロマンを追いかける部分があってもいい。

もちろん、投資先が信頼できないものや、手数料が非常に高い投資商品に行くのはダメですが、ETFは上場もしており透明性も高い、安心感のある商品です。あくまで自分が許容できるリスクの中で、新しい投資スタイルにETFから挑戦するのは良いのかなと思いますね。同じことを考えているインデックス投資家は、他にもいるかもしれません。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2024年12月現在の情報です

著者/ライター
有井 太郎
ビジネストレンドや経済・金融系の記事を中心に、さまざまな媒体に寄稿している。企業のオウンドメディアやブランディング記事も多い。読者の抱える疑問に手が届く、地に足のついた記事を目指す。
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