福永博之先生に聞く信用取引入門

【信用取引入門】第20回:信用情報の見方(売り残高)

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【福永博之先生に聞く信用取引入門】
前回記事はこちら 第19回:信用情報の見方(買い残高)

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今回は売り残高についての解説です。売り残高は買い残高と同様に、信用取引で売り建てを行ったまま未決済となっているものを指します。また、制度信用取引と一般信用取引の両方が含まれます。

信用取引の残高で、買い残高と売り残高を比較した場合、通常は買い残高が売り残高を上回っています。実際のデータを確認してみると…。

11月8日申し込み時点の信用取引(東京・名古屋2市場、制度信用と一般信用の合計)の買い残高は3兆9,838億円。一方の売り残高は5,984億円と、およそ6.66倍の差になっていることが分かります。

こうした差が発生するのは、信用買いが現物株を買うのと同じ感覚で取引を行うことができるからではないかと推測されますが、売り残高はなぜ増えないのでしょうか。

いろいろ理由はあると思われますが、売り残高が増えない理由の1つとして考えられるのが、売り建てに慣れていないことではないかと思われます。

投資をする際、通常は買う銘柄を探すことが多いですが、市場全体が下落しているときでも上昇すると予測する銘柄を探して買う傾向が強いことや、投資部門別売買動向で見られるように、個人投資家は現物も信用取引も下落すると買い越しになるという「逆張り」志向が強いため、下落相場や上値が重たい状況で買いが優勢となり、そのまま買い残高が売り残高を上回っているのではないかと思われます。

ただ実際は、株価が下落傾向になっているところで売り建てを行うことができれば、下落局面でも利益を上げることができるはずですが、売り建てに対しては抵抗があるようです。

またもう1つの理由は、売り建ての場合、株価に上限がないため、理論的には損失が無限大になる可能性があるとして、売り建てが「怖い」という理由です。

実際に投資家から「売り建ては損失が無限大だから怖い」と話を聞くことがありますが、売り建てたあとに株価が上昇した場合、途中で買い戻して返済をすれば損失が無限に大きくなることはありません。ただ「慣れていない」とか「怖い」といった心理的な理由によって売り建てを避ける傾向にあるのではないかと思われます。

こうしたことが、売り残高が増えづらく、市場全体の買い残高が売り残高を上回っていることが常態化する一因になっているのではないでしょうか。

このような理由などから市場全体では売り残高が買い残高を上回ることはほとんどありませんが、個別株では意外にも多くあります。例えば、半導体検査装置で世界大手のアドバンテスト(6857)です。この銘柄の11月8日現在の信用残高を見ますと、売り残高が4,348,700株、買い残高が3,730,700株となっており、売り残高が買い残高を上回っています。

このように売り残高が買い残高を上回っている場合、株価にどのような影響を与えると考えられるでしょうか?またこの残高の推移から何を読み取ればよいのでしょうか。

売り残高が膨らんだ場合ですが、買い戻して返済する投資家が多いと考えられることから、将来の買い要因と見ることができます。実際の値動きを見ますと、10月11日に初めて売り残高が買い残高を上回りましたが、その1週間前ごろから6,000円台後半だった株価が徐々に水準を切り上げ、11月8日の週には一時10,005円と、1万円の大台に乗せるなど株価は上昇しており、下がると見て売った投資家が、予想に反して値下がりしなかったため株価の上昇過程で買い戻しを迫られたり、さらに売り乗せをするなど新規の売りが入ったりしているのではないかと思われます。

では、こうした状況を市場全体に置き換えた場合はどうなるでしょうか。仮にプライム市場全体で売り残高が増加してきた場合、アドバンテストの上昇のきっかけにつながったように、市場全体でも売り残高が増加すれば、買い戻しが優勢になって上昇のきっかけになったり、株価を押し上げたり、さらには下がりにくくなったりするのではないかと考えられるのです。

したがって、信用取引の残高から読み取れることをおさらいすると・・・。

買い残高も売り残高もどちらか一方が大きく膨らむと、その反動で株価の変動が大きくなることが考えられるということです。

そのため、買い残高が膨らんだ時に新規の買いは控えた方が良いということになります。

一方で、売り残高が膨らんだ場合は買い戻しで株価が上昇する可能性が高まるため、株価がそろそろ天井をつけるのではないかと考えられる場面でも、新規の売り建ては控えるか、慎重に行うといった判断に役立てられます。

このように信用取引残高を毎週確認することで、需給面から将来の株価動向を予測することができますので、毎週チェックして投資判断に活用したい情報と言えるのではないでしょうか。

【第21回】はこちら

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著者/ライター
福永 博之
国際テクニカルアナリスト連盟 国際検定テクニカルアナリスト
日本テクニカルアナリスト協会・前副理事長

勧角証券(現みずほ証券)を経て、DLJdirectSFG証券(現楽天証券)に入社。同社経済研究所チーフストラテジストを経て、現在、投資教育サイト「itrust(アイトラスト) by インベストラスト」を運営し、セミナー講師を務めるほか、ホームページで毎日マーケットコメントを発信。テレビ、ラジオでは、テレビ東京「モーニングサテライト」(不定期)、日経CNBC「昼エクスプレス」(月:隔週担当)、Tokyo MX「東京マーケットワイド」(火:午後担当)、ラジオ日経「ウイークエンド株」(有料番組)、「マーケットプレス」(金:午後隔週担当)、「スマートトレーダーPLUS」(木:16時~16時30分放送)などにレギュラー出演中。また、四季報オンラインやダイヤモンドZAIなどのマネー雑誌にも連載を持つ。著書には「テクニカル分析 最強の組み合わせ術」2018年6月発売(日本経済新聞出版社)、「ど素人が読める株価チャートの本」(翔泳社)などがあり、それぞれ台湾で翻訳出版され大好評。テクニカル指標の特許「注意喚起シグナル」を取得、オリジナルで開発した投資&ビジネスメモツールi-tool(アイツール)を提供中。
著者サイト:https://www.itrust.co.jp/

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