投資運用は放置しても「興味関心」を放置するのはもったいない!

元チーフエコノミストFPが提案!「ほったらかし投資“+α”」のススメ

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米大統領選挙の行方が日本のニュースでも報じられているように、アメリカをはじめとする海外の政治・経済状況は日々の生活にも影響してくる。前回、アメリカ経済の影響について教えてくれたファイナンシャルプランナー兼金融市場の専門家の山口曜一郎さんは、次のように話す。

「現在の日本は『ほったらかし投資』がメインの選択肢となっていますが、ほったらかすだけではもったいない。投資をきっかけに、世界に目を向けることをおすすめします」

ほったらかし投資とは、投資する商品や積立額を設定した後は基本的に商品などを変えずに放置して、資産を増やしていく手法。代表的なものとして、長期の積立投資が挙げられる。では、なぜほったらかし投資だけではもったいないのだろうか。

■投資で芽生えた「興味」が新たな投資の扉を開ける

「投資経験がない方や始めたばかりの方にとって、ほったらかし投資は取り入れやすい手法ですし、私もまずはそこを資産形成のベースにするべきだと考えています。基本的には『日経平均』や『S&P500』『全世界株式(オール・カントリー)』など、複数の銘柄に分散投資する投資信託への積立投資を行うことで、長期的に資産を増やしていくことが期待できるでしょう」

ほったらかしにしてはいけないのは投資そのものではなく、投資によって芽生えた「自分のお金を働かせている意識」とのこと。

「投資を始めると、『自分のお金がどのように働いているのか?』『何が起きると株価が上がるのか?』といった疑問が湧き、興味が出てくると思います。その興味までほったらかしにするのはもったいないということです。例えば、ニュースで中東の政治不安の話題が出たとき、興味がなければ『外国は大変だな』で終わってしまうかもしれませんが、興味を抱いていると『中東が不安定だから、この業界の株価が下がっているのか』といった発見につながります」

湧いてきた興味に従って情報を集めていくと、投資の選択肢も広がっていくという。

「政治や経済と相場の相関が見えてくると、世界で起きている出来事と関連する銘柄を買ってみようという発想が生まれてくると思います。ほったらかし投資は資産形成のベースとして続けつつ、米大統領選挙のタイミングで新大統領の政策を受けて盛り上がりそうな銘柄を買ってみるといったことができるでしょう」

仮に現在好調な業界があったとしても、今後の動向によっては停滞するかもしれない。その情報をキャッチすることができれば、その業界に関連する銘柄を買うのは少し待ってみようという判断もできるだろう。

「興味を放置せずに向き合うと、投資だけでなく日々の生活や仕事にもプラスの影響をもたらすといえます。例えば、インドネシアの貿易が盛んだという情報をキャッチした際に、取引先に対してインドネシアとのビジネスを提案するといったことができるかもしれません。米大統領選挙の結果やその後の影響も把握していると、会議などで『今後はアメリカの影響でインフレが進むかもしれないから、対策を考えたほうがいい』といった話もできるでしょう」

投資をきっかけにさまざまな情報をキャッチすることで、結果的に投資に返ってくるものも大きいという。

「株価が変動する理由や要因が見えてくると、リスク許容度も高まります。投資を始めたばかりの頃は『1円も損したくない』と感じる人が多いのですが、投資の法則などがわかってくると『1万円値下がりしたとしても、いずれまた値上がりするタイミングが来るから、様子を見よう』といった余裕が出てくるはずです。投資への意欲も高まり、さらなる興味も湧くといった好循環が生まれてくると思います」

■世界の動向を知ると「日々の生活」にも備えられる

「世界の政治や経済への興味が、日々の生活にも影響する」といった話もあったが、どのように影響してくるのだろうか。

「現在は日本でもインフレが進んでいますが、スーパーに行った際に、店員さんに対して『商品の値段が上がってる』と文句を言っているお客さんがいました。家計が苦しくなって文句を言いたくなる気持ちもわかりますが、現在の値上げはスーパーが利益を求めて行っているものではなく世界的な物価高(物価上昇)や円安によるものだと知っていれば、店員さんへの八つ当たりはなくなりますよね」

ロシアのウクライナ侵攻が始まってから、小麦粉の価格が上がった。ロシアとウクライナの小麦の輸出量を合わせると世界の3割を占めていたが、戦争によって輸出できなくなってしまったからだ。その理由を知っていれば、「小麦製品は買わない」「代替品を利用する」といった対応を考えられるだろう。

「日本は長くデフレが続いていて、商品の価格が下がることも多かったので、『いま買わなくてもいい』『来年になったら高級品の値段も下がるだろう』という考えが根付いています。そのため、商品は値上がりするものだという考えに切り替えるのは難しいと思いますが、世界の動向を知ることでインフレの構造などが理解できますし、今後もインフレが続く可能性に備えていけるのではないかと思います」

■興味を育てるためのキーワードは「自分事化」

山口さんの相談者の多くは、「投資を始めたことで、ニュースで報じている内容がわかるようになった」と話してくれるそう。その方々に共通するキーワードは「自分事化」だ。

「投資を通じて政治や経済に関することが自分事になった瞬間、関心度がぐっと上がるんですよね。そこで芽生えた興味をほったらかしにするのではなく、素直に受け止めて答えを探し求めることが大切ですし、わからなかったことがわかるようになるって純粋にうれしいと思うんです。その喜びや面白さを感じてほしいですね」

そして、芽生えた興味をきっかけに具体的な業界や銘柄に関心を持つことで、新たな投資の扉が開く。

「直近の米大統領選挙であれば、候補者2人が掲げるエネルギー政策に関連する銘柄をピックアップしてみると、知らなかった企業を見つけられたり世界全体の動向を把握できたりするでしょう。実際に投資してみるのもいいかもしれません。仮に5年前にAI関連の銘柄を購入していた人は、いま成功しているでしょう。関心を高めて情報を得ることによって、投資の選択肢も広がり、資産形成に対する意識も変わっていくと思います」

実際に特定の銘柄や業界に投資するにあたっては、注意するべき点もあるとのこと。

「あくまでも資産形成のベースはほったらかし投資で、個別企業や特定の業界への投資は『余裕資金』で行うことが前提です。最初は余裕資金の範囲内で始めて、ちょっとずつ慣れてきたら投資額を増やしていくというステップを踏みましょう」

投資信託での積立投資を始めるだけでなく、そこから一歩踏み込むことで、世の中の見え方が大きく変わる。そこで生じた興味を大切にすることで、今後盛り上がる企業や業界が見えてくるだろう。

(取材・文/有竹亮介 撮影/森カズシゲ)

お話を伺った方
山口 曜一郎
ワイズ・アセット・デザイン代表、ファイナンシャルプランナー。三井住友銀行で20年以上エコノミストとして活躍し、2022年に独立。「日本一、経済と金融市場に詳しいFP」として活動し、個別相談や企業研修、金融教育授業、メディアへの出演や執筆などを行う。
著者/ライター
有竹 亮介
音楽にエンタメ、ペット、子育て、ビジネスなど、なんでもこなす雑食ライター。『東証マネ部!』を担当したことでお金や金融に興味が湧き、少しずつ実践しながら学んでいるところ。

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