これから期待するテーマや業種は?
人気エコノミストのエミン・ユルマズ氏が語る「投資キャリアの序盤にこそETFを」
近年、世界中の投資家に活用されている金融商品のひとつがETF(上場投資信託)だ。その名の通り、株式と同様に“上場している”投資信託となる。
ETFは各国の証券市場で取引されており、東京証券取引所でも多くのETFが上場されている。では、この「東証上場ETF」に対して“投資のプロ”はどんな印象を持っているのだろうか。どういった使い方が良いと考えるのか。
そこで今回話を聞いたのは、人気エコノミストのエミン・ユルマズ氏。同氏は金や銀、天然ガスといったコモディティへの投資、あるいは外国債券への投資に「ETFが有効」だとアドバイスする。さらに今回の対談では、エミン氏が日本で注目している投資テーマや、業種別ETFと個別株の使い分けについてもアドバイスしてくれた。
東証上場ETFを担当する、東京証券取引所 株式部株式総務グループ兼ETF推進部・上場推進部の岡崎啓さんが対談相手となり、エミン氏と意見を交わしていく。
エミン氏が重宝する東証上場ETF、その使い方とは
エミン 東証上場ETFは、私もかなり使っていますし、同じように重宝している投資家は多いと思いますよ。金や銀、天然ガスや原油といったコモディティのETFはたくさんあるし、インドをはじめ、日本からは個別株を直接買えないような新興国のETFも揃っている。このあたりのETFはよく使っていますね。
なかでも便利なのはコモディティのETFですね。コモディティ投資を行う場合、まず手段として思い浮かべるのは先物取引なのですが、先物は手続きが難しく、損失のリスクも高い。特に投資を始めたばかりの人にとっては、チャレンジするのに勇気がいりますよね。
しかも先物でネックになるのは、通常の株式投資、つまり個別株への投資とは税金の処理が別になることです。その分、処理が複雑ですし、何より先物投資と株式投資の利益や損失を合算すること(=損益通算)ができません。もし先物で損失が出ても、株式投資の利益と相殺できないので、株式投資の利益にはフルで税金がかかってしまう。しかしETFなら、株式投資と同様なので損益通算ができますよね。これは大きなメリットです。
岡崎 確かに損益通算ができるのは大きいかもしれません。ちなみに、今お話に出たコモディティや新興国に加えて、最近は外国債券のETFも人気です。
エミン 外国債券のETFも便利ですよね。1万円以内で買えるものもたくさんありますし、手数料も低い。もし外国債券自体を購入しようと思ったら、100万円単位でまとまったお金が必要になることも少なくない。手数料もそれなりに取られてしまいます。
岡崎 本当にその通りで、ETFなら手軽に債券投資ができると思います。ドイツ国債やフランス国債のETFも出ており、地域も幅広く選ぶことが可能ですね。
東証上場ETFの銘柄は年々増えていて、ここ2年は年間50銘柄ほど上場しています。合計で350銘柄近くになっていますね。さまざまな地域、アセットクラス(投資対象となる資産の種類)のETFが揃ってきました。投資の基本である“分散投資”を、ETFだけでも十分に実現できますね。
エミン 分散投資の大切さは、私も事あるごとに話しているんですよね。ただ、新しいNISAをきっかけに投資を始めた人は、まだその考え方自体を知らないケースが多い印象。ETFなら少額から購入できる銘柄も多いので、初心者も分散投資がしやすいでしょう。これから普及するといいですね。
もうひとつ、私なりのETF活用法としては、長期ポジションで保有している個別株のリスクヘッジとして債券ETFなどを使うことが多いですね。長期保有の銘柄と逆の動きをするものでリスクヘッジする。こういうETFの使い方も広まっていくといいですね。初心者にはやや難しい手法かもしれませんが、経験を積むうちにできるようになってほしいと思います。
業種別ETFか、個別株まで絞り込むか、その判断方法とは
岡崎 ETFの中には、特定のテーマに投資する「テーマ型ETF」や、業種(セクター)ごとに投資する「業種別ETF」もあります。たとえば2024年の夏は、半導体関連のテーマ型ETFがよく売れました。エミンさんが注目しているテーマや業種、とりわけ日本において注目しているものはありますか?
エミン それで言うと、僕は今あまり半導体を買う気にはならないんですよね。AIバブルが少し揺らいできた気もするので。半導体自体は長期テーマなのでこれからも注視していきますが、今は少し控えたいなと。この領域は浮き沈みのサイクルが一定で起きますから、その動向を見極めながらタイミングを考えたいですね。
それよりは、エネルギーや貿易といったテーマに注目しています。特にエネルギーは、洋上風力発電が大きなトピックになるでしょうし、AIの普及でデータセンターが建設されると電力も不足してきます。ここは面白そうですよね。
あとは素材や化学、鉄鋼や金属製品も注視しています。会社四季報の業績予想を見ると、前期から今期にかけて大きく業績回復の見込みがあるのは素材と化学、今期から来期にかけては鉄鋼と金属製品になっている。これらの業界は丁寧に動向を見たいですね。
岡崎 今おっしゃったテーマ・業種に関連するETFを購入するのも面白いですよね。一方で、注目のテーマ・業種を見つけたら、その中から特定の企業を選んで個別株に投資するという選択肢もあります。もしも投資家の方が、業種別ETFを買おうか、それともさらに絞って個別株を買おうか迷ったとき、エミンさんはどんなアドバイスを送りますか。
エミン その人が投資に求めるリターンと、許容できるリスクによって変わります。リターンとリスクは連動しますから、ハイリターンを求めるならハイリスクを取る必要がある。ローリターンで良いならローリスクで済ませられる。それによって業種別ETFにするのか、個別株まで絞り込むのかは変わってくるでしょう。
業種別ETFは、リターンもリスクもなだらかになります。なぜなら一社の利益や損失が、業種全体で平均化されますから。対して個別株は、大きなリターンを得る可能性がある一方、リスクも高くなります。たとえば投資した企業で突然スキャンダルが持ち上がるかもしれない。訴訟問題が起きるかもしれない。その影響をダイレクトに受けます。
ローリスク・ローリターンなら業種別ETF、ハイリスク・ハイリターンなら個別株が基本でしょう。ですから、まずは自分が求めるリターンとリスクを決める、つまり自分の投資スタイルを確立することが大切です。
岡崎 それにより、投資先を業種別ETFにするのか、個別株まで絞り込むかという判断も変わってくると。
エミン その通りです。求めるリターンと許容するリスクから考えるのは、ETFに限らず、すべての投資判断に通じることですね。
それこそ投資を始めたばかりの方は、いきなり個別株でハイリスク・ハイリターンを狙わず、業種別ETFから始めるのがいいと思います。株式投資がどのようなものか理解する時間が必要ですから。いきなり個別株で大きな下落を経験すると、投資をしなくなるかもしれません。それなら、動きが比較的緩やかな業種別ETFの方がいいでしょう。
「日本株はこれから米国株を逆転する」
岡崎 今年は相場の乱高下もあり、特に投資を始めたばかりの方は、一時の下落で市場から離れてしまうケースも見られます。それはすごくもったいないことだと思うのですが、エミンさんはどう感じますか。
エミン 同感ですね。そもそも、老後に向けた投資や積立投資など、長期投資をしている方にとっては一時的な下落は気にする必要がないものです。積立投資に至っては、一時的に下落すると安く買えるのでメリットもある。
問題は、短期でアクティブに投資している場合でしょう。大きな下落が起きると、自分が持っている銘柄を売るべきか、まだ持っているべきか、とても迷うはずです。そこで確かめてほしいのは、自分がなぜこの銘柄に投資したのかというストーリー、根拠が崩れていないかどうかです。たとえばインバウンドへの期待を理由にその銘柄を買ったとして、下落が起きてもそのストーリーに変化がなければキープし続けるのが良いでしょう。
投資で大切なことは2つ。世の中がどこへ向かっているのかという「大局観」と、自分がなぜそこに投資するのかという「ストーリー」です。特に下落が起きたときは、自分が投資していた銘柄について、ストーリーに変化がないかを考えるべきです。
岡崎 投資をする方にとって、すごく大切な視点だと思います。最後に、ここ数年はS&P500やオールカントリー(全世界株式)といった外国株への投資が人気ですが、エミンさんは日本株投資の重要性を発信されていますよね。その真意はどこにありますか。
エミン ここから米国株と日本株のパフォーマンスが逆転すると思っているからです。日本株が優位になっていくと合理的に感じていますね。たとえばバフェット指数(※株価の割安・割高を判断する指標)を見ても、アメリカのS&P500は割高になっている。これはどこかで是正されると見ています。
ですから、個人的な意見ですが、私は日本株6割、米国株2割、そのほか2割くらいのポートフォリオでもいいと思います。投資を始めたばかりの人は、それこそTOPIXや日経平均株価に連動するETFから入るのも良いのではないでしょうか。投資キャリアの序盤はETFから入り、徐々に慣れていくという道筋は無理がないと思います。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2024年12月現在の情報です