スチュワードシップ担当者から見た日本企業の人権にかかわる対応
ファーストリテイリングに見る人権への取り組み
提供元:三井住友トラスト・アセットマネジメント
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はじめに
近年、企業における人権課題ヘの取り組みがますます重要視されています。特にグローバルに展開する企業では海外を含めたサプライチェーン全体での人権尊重の取り組みが求められており、それを受けて企業は労働環境の改善や違法労働の撲滅に注力しています。また、国際的なガイドラインの遵守や持続可能な開発目標(SDGs)に準じることが企業の社会的責任とされ、より透明性の高い報告や効果的なモニタリングが求められています。
ここでは、このように重要度の増しているビジネスと人権に関連するグローバルな課題と、それに対する日本企業の前向きな取り組みを紹介します。
ビジネスと人権の課題
私たちは性別、国籍、年齢などに関係なく、生まれながらにして人間らしく生きる権利を持っています。まさにそれこそが人権であり、人々が共有する普遍的な価値です。個人も企業も社会において活動する以上、この価値観を共有し人権を尊重しなければなりません。
国が人権を守る責任を負うとともに、経済のグローバル化の進展に伴って企業活動が社会に及ぼす影響も大きくなってきたことから、企業に対しても人権尊重に関して責任ある行動を求める声が国際社会全体で高まっています。
歴史を振り返ってみると、1948年に採択された世界人権宣言に始まり、図表1にある経済協力開発機構(OECD)の「責任ある企業行動に関する多国籍企業行動指針」や国際労働機関(ILO)による「多国籍企業及び社会政策に関する原則の三者宣言」、また、国連人権理事会(UNHRC)で承認された「ビジネスと人権に関する指導原則」などが人権尊重のためのガイドラインとして企業に対して責任ある行動を求めるための基盤となっています。
ファーストリテイリングの取り組み紹介
上述のように、企業活動が社会に及ぼす影響が顕著に拡大する中で、企業にとっては人権尊重の取り組みは企業価値を守るために不可欠なものです。
ここでは人権に関連して真摯に取り組む日本企業として、「ユニクロ」で有名なアパレル大手のファーストリテイリングを紹介します。同社は既に世界展開を果たし、原料調達・製品製造・物流・販売というサプライチェーンをグローバルに展開していますが、特に途上国で人権問題が業界全体においてたびたび指摘されてきたことから(図表2参照)、グローバルサプライチェーンにおける人権リスクの管理に積極的に取り組んできました。
同社の具体的な取り組みとしては、(1)人権方針を策定・公表、(2)人権デューデリジェンスの実施、(3)救済メカニズムの構築の3つが挙げられます。
サプライチェーンの中でも特に途上国での生産現場は人権リスクが高いと考えられることから、同社は上記図表3にある人権デューデリジェンスについて、プロセスの他、2004年に定めた「生産パートナーコードオブコンダクト」をもとに縫製工場に対して厳格な監査を実施しています。2023年度は「移住労働者に対する差別的な処遇や労働環境に関する基準」を厳格化したことから同社の定義する「極めて重大なコードオブコンダクト違反」が前年よりも多く確認されましたが、一部の工場との取引終了を含む迅速な対応を実施しました。
同社のケースに見られるように、仮に人権にかかわる問題が発覚しても、迅速な対応を行うことが何より重要と考えられます。ただ、そのためには平時より企業としての人権に関する意識を高く持ち、準備や体制整備をしっかり進めておくことが必要です。
さいごに:三井住友トラスト・アセットマネジメントの活動
私たち三井住友トラスト・アセットマネジメントは日本版スチュワードシップ・コードに賛同する「責任ある機関投資家」として、また、2006年に国連責任投資原則(PRI)が発足した時からの署名機関として企業とのエンゲージメントを通じたESG課題の解決を促すことによって企業及び社会全体の持続的成長、サステナビリティの実現を目指しています。具体的には当社は12のESGマテリアリティを定めており、その中の一つとして「人権とコミュニティ」を設定し投資先企業とのエンゲージメントを進めています。
企業は各国の人権関連の法規制への対応だけでなく、生成AIなどテクノロジーの発展過程における人権リスクへの新たな対応も求められます。当社は各種グローバルイニシアチブへの参加を通じて、時代の流れとともに増大する人権リスクにいち早く対応し、ファーストリテイリングのような人権問題への対応に真摯に取り組む事例を他社にも紹介しながら、今ある人権リスクだけでなく、将来起こりうる人権リスクも考慮した企業行動を促進します。当社はエンゲージメント活動を通じてグローバル社会全体の人権尊重の取り組みの普及・促進に貢献するとともに、皆様からお預かりした資産の価値向上を図ってまいります。
以上
※上記は特定の有価証券への投資を推奨しているものではありません。
(提供元:三井住友トラスト・アセットマネジメント)
1990年より株式アナリストとしてヘルスケア及び化粧品トイレタリーセクターを中心に日本・米国で株式運用業務に従事した後、2021年より現職。