スーパーの食材を買うように、データを親しみあるものへ
投資データの「使い方がわからない」を減らしたい、JPX総研が開発した「JPxData Portal」
データを活用した投資が広まる中、日本取引所グループやその関連企業(以下、JPXグループ等)が持つ200種類を超えるデータを網羅的にカタログ化したサイトが誕生している。「JPxData Portal」だ。
ユーザーが求めるデータを探しやすくしたことに加え、それらを投資にどう使えばよいのか、データ活用の“レシピ”も載せているのが特徴。開発したJPX総研 執行役員 フロンティア戦略担当の山藤敦史さんと、同フロンティア戦略部の竹内理華さんに話を聞いた。
サービス名にある、小文字の「x」にこめた想い
「JPxData Portal」という名称は、JPXグループ等のデータポータルサイトという意味とともに、「日本(JP)とデータ(Data)を掛け合わせる場、という意味が込められています」と語るのは、このサイトの名付け親であり、開発をリードした山藤さんだ。
データを使った投資は年々活発になっており、たとえば近年は、クレジットカードの決済情報やSNSのコメントのような、オルタナティブデータといわれる非伝統的なデータにも注目が集まっている。投資に用いるデータの重要度が増すのと同時に、取り扱う種類も急激に増えているといえよう。
JPXグループ等でも、200種類以上のデータを提供してきた。その中には、世の中で発信されている分析情報の“大もと”となる源泉データが多数あり、「これらを活用したい投資家のニーズは高まっています」と山藤さんは口にする。
「しかしこれまでは、データがさまざまなところへ点在して、探しにくい状況になっていました。実際に、投資家の方からそういったお声をいただいたこともありますし、いろいろなデータを紹介すると『そんなものまであったんだ』と驚かれるケースも少なくありません。もちろん、JPXグループのホームページなどから探せるようになっているのですが、扱っている情報が多い分、埋もれてしまったり、目的のデータにたどり着きにくかったりということが多かったのです」(山藤さん)
こうした課題を解決するために生まれたのが、JPxData Portalだ。JPXグループ等が保有するデータをカタログ化して、検索を容易にした。
たとえば、サイト上部のタブ「リストから探す」をクリックすると、各種データの一覧が表示され、キーワードで検索することができる。
「各データのページには、それぞれの概要に加えて、過去データの期間やAPI連携(※他のソフトウェアやWEBサービスとつなぐこと)が可能か、といったことも記載しています」。開発チームの一人である竹内さんは、そう説明する。
JPxData Portalの特徴は、データの“使い方”も紹介している点だ。先述した各データのカタログページには、使い方の解説記事がリンクされていることも。「どの場面でこのデータを使えばよいのか、どういった使い方が有効なのかを知れるようにしたかったのです」と山藤さん。
こうしたサイトの構造は、意外なところからアイデアのヒントを得たという。
「スーパーに行くと、お店の入口などにいろいろな料理のレシピが置いてありますよね。それを見て『今日はこの料理を作ろう』と食材を買う人もいるはずです。同じことを投資のデータでもできないかと思いました。データは使い方がわかりにくいものも多いので、どういう目的で使うのか、どんな活用方法があるのかを伝える“レシピ”が一緒にあれば、手に取ってもらえるのではと考えたのです」(山藤さん)
一例として、JPX総研では「決算発表予定日情報提供サービス」を配信している。その名の通り、上場会社の決算発表予定日などを一覧化したデータが提供されるのだが、これらの有用な使い方を説明したレシピのページが用意されている。
実際に、決算発表前後は株価が動きやすいため、投資タイミングを判断するのにこのデータを活用できる。上級者にとっては当たり前のことでも、投資を始めたばかりの人には参考になる情報だろう。なお、JPxData Portalには「使い方から探す」というタブがあり、こうした利用方法を軸にしてデータを検索することも可能だ。
さらには、類似データについて「それぞれの違いや目的ごとの使い分けを紹介する記事も提供しています」と竹内さん。
たとえば株式投資をする際には、各社の「株価データ」が必要になるが、ひとくちに株価データといっても、さまざまなものがある。長期にわたる過去の株価データが欲しいのか、最新のデータを取得したいのか。求める内容に応じて対象となる株価データは変わってくる。
そこで、利用目的に応じた株価データを紹介する記事「目的別株価データの探し方」などが用意されている。
このほかに、個別銘柄の基本情報や、各社の決算といった“開示情報”もサイト内から検索できる。「日本には約4000の上場会社があり、まだ知られていない“隠れた良い銘柄”は多いと思っています。それらと出会うきっかけも作れたらと、こういったページを用意しました」(山藤さん)
あわせて、開示情報などは日々さまざまな企業から発信されており、これらを取り扱うことで、確認のために細かくこのサイトを訪れる人が増えるはず。そうしてユーザーとの接触頻度を増やす狙いもあったという。
なお、個別銘柄のページでは、生成AIを活用した銘柄情報を発信する「JPX Market Explorer」や、各社のESG情報が掲載された「JPX ESG Link」といったサイトとも連携しており、それらのデータも同時に閲覧することが可能だ。
生成AIのつける「タグ」によって、より検索しやすく
JPxData Portalにおいても、生成AIの技術が活用されている。たとえば開示情報については、生成AIが各社の資料を分析して抽出したキーワードを検索タグにつけている。これにより、仮に“クラウド”と検索すると「企業のクラウドサービスに関する開示情報などがリストアップされます」と竹内さん。商品名を検索してヒットするケースも多いようだ。
生成AIがつけるこのタグにより、企業名がわからない場合でもサービスを軸に検索できたり、特定のサービスを展開する企業同士で比較したりということが可能になる。
個別銘柄についても、同じく生成AIがその企業の決算短信などを分析して、検索の手がかりとなる「事業タグ」を設定している。日本取引所グループを例にとると、「証券取引」「清算業務」「上場業務」がつけられている。
このサイトはJPX総研が内製しており、生成AIの精度向上や、そのためのチューニングも「当社のITチームとともに進めました」と山藤さんは振り返る。
「現在も、サイトを運用しながら検索精度を上げるよう取り組んでいます。例として、サイト全体の検索履歴を毎日見ながら、よく入力されているキーワードをタグに追加するなど、データドリブンでサイトを改善していますね」(山藤さん)
日本(JP)とデータ(Data)を掛け合わせる場――。サービス名に込められたその意味の通り、「いずれはJPXグループに限らず、外部の機関も含めて、日本市場の関連データが集積している場所にしたい」と山藤さんは展望する。
「今や企業は多種多様なデータを保有しており、その中には『実は投資に使えるもの、投資家が欲しいもの』も少なくありません。とはいえ、企業の方もそれをどう投資家に渡すのか、パイプを持っていないことも多いと思うので、このサイトを接点にできればいいですね。データを提供する企業自身が『こうやって使えば投資に有効ですよ』というレシピを書くのも面白いかもしれません」
SNSのデータ、YouTubeなどの動画コンテンツのデータ、そこに流す広告と商品売り上げの関連データなど、使えそうなものは多数ある。彩り豊かなデータと、その使い方を記したレシピが集まるサイトになるかもしれない。
大きな展望を叶えるためにも、「まずはサイトの認知度を上げていきたいと思います」と竹内さん。「使っていただく方が増えれば、このサイト自体の利用データもたまり、利便性を向上させることにつながりますから」。
サイト上には、ユーザーが意見・要望を伝えられるフォームも用意されており、「小さなことで構わないので、ぜひみなさんの声をいただければ」と山藤さんは伝える。投資における「日本×データ」の一大拠点になることを目指して。JPxData Portalは、これからもひとつずつレベルアップを重ねていく。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2024年12月現在の情報です