福永博之先生に聞く信用取引入門

【信用取引入門】第22回:東証の買い残高と売り残高の推移から見られる傾向について(市場全体)

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【福永博之先生に聞く信用取引入門】
前回記事はこちら 第21回:信用倍率について(市場全体)

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信用取引には買い残高と売り残高があることは解説してきましたが、今回はその買い残高と売り残高の推移から、私が感じている傾向について解説したいと思います。

信用取引の買い残高と売り残高は、原則として毎週火曜日の取引終了後に、前週末までの申し込み分が発表されます。また、発表されている買い残高と売り残高のデータ(東京・名古屋2市場、制度信用と一般信用の合計)を見ますと、株数ベースと金額ベースがありますが、金額ベースで解説します。

早速ですが、皆さんは2024年12月6日申し込み時点の買い残高と売り残高がどのくらいあると思いますか?

正解は、売り残高が7,045億円、買い残高が4兆2,423億円です。以前、買い残高と売り残高では、買い残高の方が売り残高より大きくなることが一般的だとしましたが、12月6日申し込み時点の売り残高、買い残高の水準は多いのでしょうか。それとも少ないのでしょうか。

そこで、2024年1月12日申し込み時点から12月6日までの残高から平均値を算出してみました。すると、売り残高は7,466億円、買い残高は4兆3,033億円になりました。これらの平均値とそれぞれ12月6日申し込み時点の残高を比較してみると、売り残高も買い残高も平均値を下回っていることが分かります。

一方で、今年最大と最低の売り残高と買い残高はいくらだったのでしょうか。これも私がデータを基に調べたところ、最大の売り残高は、3月22日申し込み時点の1兆926億円、最大の買い残高は7月26日申し込み時点の4兆9,808億円、最低の売り残高は11月1日申し込み時点の5,263億円、最低の買い残高は1月12日申し込み時点の3兆4,542億円でした。

こうしてみると、2024年の売り残高は、5,263億円から1兆926億円の間で推移し、買い残高は3兆4,542億円から4兆9,808億円までの間で推移していることがわかります。ざっくり言えば、売り残高は最低水準からおよそ2倍まで増加し、買い残高は最低水準からおよそ1.4倍まで増加したことになります。

これらの水準はその年によって変わりますし、売買の活況さによっても異なると思われますが、私は売り残高や買い残高のピークとボトムは、株価の天井を示す一つの目安になるのではないかと考えています。

なぜなら、株価が高値や安値をつけたタイミングと合致していることが多いからです。たとえば、高値をつける場面では、株価が下落すると考えて信用売りを行ったにもかかわらず株価が上昇してしまった場合、買い戻すことができずに未決済残高を保有したままになることが考えられます。

こうした状況が続くと、売り残高が少しずつ積み上がって増加していくことが考えられるとともに、下落すると買い戻しが入って株価の下支えや押し上げにつながり、ますます株価は下げにくくなるでしょう。また場合によっては上昇基調が強まって、ファンダメンタルズとは関係なく需給面から高値をつけることが考えられるのではないでしょうか。

では実際の今年の株価の推移を確認します。

売り残高がピークをつけた3月22日の週ですが、1月4日の大発会を起点に株価の上昇が続き、3月22日の終値で40,888円43銭と、日経平均は当時の史上最高値をつけていました。また、TOPIXも3月22日に2,813.22ポイントと、日経平均と同様に当時の高値をつけています。

こうした状況から、3月22日までの上昇は、買い戻しができない投資家のロスカットが徐々に増加したことが株価の下支えや押し上げ要因となり、高値をつけたのではないかと想像できるわけです。その証拠に翌週発表された残高は8,382億円と、2,544億円も減少しています。

では買い残高が今年のピークをつけた時の株価はどうなっていたのでしょうか。7月26日の日経平均は、37,667円41銭と、7月11日に42,224円02銭をつけたあとの反落局面でしたが、買い残高は増加していました。

そうした中で米国景気に対する警戒から、米国株が急落したことや円高に振れたことが重なり、8月5日の日経平均は、ブラックマンデー翌日の1987年10月20日の下落幅を上回る4,451円28銭(12.4%)安と、過去最大の下げ幅となったことに加え、8月5日当時、プライム市場全体(1,646銘柄、8月5日現在)の値下がり銘柄数が1,625銘柄(プライム市場全体の98.7%)となっていました。

この大幅な下落についてですが、市場全体で現物も信用も売りが広がりましたが、私は買い残高が大幅に増加して今年のピークをつけるなか、悪材料が出たことなどが重なり、信用取引のロスカット売りが出やすかったことも一つの要因だったのではないかと考えています。

実際、8月5日に日経平均が過去最大の下げ幅となった日を含む8月9日申し込み時点のデータを見ますと、買い残高は3兆9,634億円と、2日申し込み時点と比べて9,086億円減少し、減少額は東証でデータが遡れる2002年8月以降(13年7月までは東名阪3市場合計)で最大だったと日本経済新聞社が報じています。

買い残高が増加すれば、株価が天井をつけると一概に決めつけてはいけませんが、買い残高がピークをつけているなかで悪材料が出たとき、信用取引で買いポジションを持っている投資家が売り手となることが、今回の買い残高の減少額の大きさで明らかになったと思われます。

また、ファンダメンタルズ分析では見えない需給動向が、株価の高値や安値を見分ける一つの判断材料となることがお分かりいただけたと思いますので、是非これからは、毎週発表される市場全体の売り残高と買い残高の推移も確認するようにし、売買判断に役立ててほしいと思います。

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著者/ライター
福永 博之
国際テクニカルアナリスト連盟 国際検定テクニカルアナリスト
日本テクニカルアナリスト協会・前副理事長

勧角証券(現みずほ証券)を経て、DLJdirectSFG証券(現楽天証券)に入社。同社経済研究所チーフストラテジストを経て、現在、投資教育サイト「itrust(アイトラスト) by インベストラスト」を運営し、セミナー講師を務めるほか、ホームページで毎日マーケットコメントを発信。テレビ、ラジオでは、テレビ東京「モーニングサテライト」(不定期)、日経CNBC「昼エクスプレス」(月:隔週担当)、Tokyo MX「東京マーケットワイド」(火:午後担当)、ラジオ日経「ウイークエンド株」(有料番組)、「マーケットプレス」(金:午後隔週担当)、「スマートトレーダーPLUS」(木:16時~16時30分放送)などにレギュラー出演中。また、四季報オンラインやダイヤモンドZAIなどのマネー雑誌にも連載を持つ。著書には「テクニカル分析 最強の組み合わせ術」2018年6月発売(日本経済新聞出版社)、「ど素人が読める株価チャートの本」(翔泳社)などがあり、それぞれ台湾で翻訳出版され大好評。テクニカル指標の特許「注意喚起シグナル」を取得、オリジナルで開発した投資&ビジネスメモツールi-tool(アイツール)を提供中。
著者サイト:https://www.itrust.co.jp/
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