約2万円で株が買える? 株主は人気番組のリハーサルに参加できる?

「株式分割」「株主優待」個人株主に向けた企業の取り組みが活発化

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2024年1月に「NISA(少額投資非課税制度)」が見直され、非課税期間が無制限となり、年間投資枠の上限も大きく拡充された。さらに、一定の投資信託が投資対象となる「つみたて投資枠」と投資信託に加えて上場株式も投資対象となる「成長投資枠」という2つの枠が設けられ、併用できるようになった。

「成長投資枠」の登場によって、投資信託への積立投資を行いつつ、個別株への投資にもチャレンジしようと考える人は増えているのではないだろうか。

その流れを受けて、個人株主が株を購入しやすくなる工夫や保有したくなる特典を取り入れる企業が出てきている。そのなかから、ソフトバンクとTBSホールディングスの取り組みをご紹介しよう。

「株式分割」で最低購入価格を10分の1に

近年、個人株主が株式を購入しやすくするため、株式分割を行う企業が増えている。そのひとつが、ソフトバンクだ。

株式分割とは、既に発行されている株式を細分化し、株式数を増やすこと。ソフトバンクでは2024年10月1日付で1株を10株に分割したため、以前の10分の1の価格で株式を購入できるようになった。例えば、終値が195円となった2024年12月2日に1単元(100株)購入した場合、株式分割前であれば19万5000円かかったものが1万9500円で購入できる。

ソフトバンクが株式分割を決断した理由について、ソフトバンク総務本部の吉岡紋子さんに聞いた。

「『NISA』が新しくなったことで投資を検討する方が増えていますし、国も『貯蓄から投資へ』という流れにシフトしていますよね。実は、少しずつ当社の個人株主数が減っているという実情があるので、投資への関心が高まっている方に株主としても当社を応援していただきたいという思いがモチベーションとなり、株式分割に踏み切りました」(吉岡さん)

ソフトバンクが特に発信していきたいのは、若い世代とのこと。ソフトバンクの個人株主の半数超は60代以上で、年代が下がるごとに株主比率も下がり、30代は10%程度、20代以下は3%程度にとどまっているという。

「当社は、2023年度に中長期計画を対外的に公表しました。5年、10年、20年先を見据えた計画を立てるうえで、現在の20~30代はキーパーソンになると考えられますし、働き盛りの方々に株主として伴走していただけたら、当社もより一層成長していけるのではないかと思っています。そのため、若い世代の方にも購入していただけるよう、株式を10分の1に分割しました」(吉岡さん)

最低購入金額が約20万円となると手が出ないと感じる人も多いかもしれないが、約2万円であればハードルはぐっと下がるだろう。実際に株式分割後、若い世代の株主比率は上がってきているそう。

さらに、個人株主を対象とした特典として、ソフトバンクでは初となる株主優待もスタートする。100株以上を1年以上保有している株主に対して、PayPayマネーライト1000円分が進呈されるという内容だ。ちなみに、保有期間は3月31日から翌年の3月31日までの1年間。初回は2025年3月31日からカウントされ、2026年3月31日まで保有しているとPayPayマネーライトが進呈される。

「おかげさまでPayPayを使ってくださっている方が非常に多いので、魅力を感じていただきやすい株主優待になると考えています。当初はPayPayポイントの進呈を予定していましたが、ポイントだとPayPayユーザー間の譲渡・譲り受けができないため使い勝手が良くないという懸念点があり、PayPayマネーライトに変更しました」(吉岡さん)

ソフトバンクは、株式や株主について解説するサイト「ソフトバンクの未来を共につくる株主になりませんか?」もオープンしている。

「投資初心者の方にとって株式に関する情報は複雑で、迷子になりそうなところもあると思われるため、見やすくわかりやすいサイトを立ち上げました。株主になるメリットや配当金などについても解説しているので、当社に限らず株式投資に興味がある方にはぜひ見ていただきたいですね」(吉岡さん)

ソフトバンク「ソフトバンクの未来を共につくる株主になりませんか?」
https://www.softbank.jp/corp/special/shareholders/

株主優待の肝は「人気番組のリハーサル参加」

自社コンテンツに直接触れる機会を株主優待として提供し、株主だからこそ得られるメリットを充実させているのが、TBSホールディングス。

長らく株主優待として特製QUOカードやカレンダーを進呈していたが、2022年12月に人気番組『オールスター感謝祭』『SASUKE』のリハーサル参加権利を抽選で進呈することを発表。その後も『SASUKE』や大型お笑い番組の観覧、社内見学特別版の実施、東京2025世界陸上関連の施策(すべて抽選)といった優待も追加している。

「2年ほど前から、TBSならではの優待を提供していこうという流れが生まれ、TBSにしかないものといえば固定のファンの方が多い長寿番組だろうということになり、リハーサル参加や観覧を抽選で提供し始めました。『オールスター感謝祭』のリハーサル参加では、本番前日に株主の方々に実際のセットに入っていただき、クイズ(10問程度)に挑戦していただきます。司会の今田耕司さんと島崎和歌子さんもいらっしゃって本番さながらに進めるので、参加された皆さんには楽しんでいただいているようです」(TBSグループ経営企画局経営企画部・杉本篤さん)

『SASUKE』のリハーサルも、実際のコースにチャレンジすることができるという。さらに、参加した際の映像は番組と同じように編集され、後日進呈されるとのこと。

「2024年度には、さらにコンテンツを拡充し、バラエティ番組『バナナサンド』の人気コーナー『ハモリ我慢ゲーム』のリハーサル参加が優待に加わりました。合唱団の声に巻き込まれずに最後まで歌いきるチャレンジを、本番同様のセットや進行で株主の方々に体験していただく予定です」(杉本さん)

新たな株主優待は、単に人気の番組を選別したわけではない。株主に向けて実施したアンケートがもとになっているという。

「2022年8月に新規個人株主に向けてアンケートを行ったところ、『株主優待にオリジナリティがあっていい』という声が多く寄せられました。長く進呈している特製QUOカードには新人アナウンサーの写真を入れており、そこがオリジナリティと受け取っていただけたようです。また、『TBSのファンなので株を買った』という方も一定数いたので、当社ならではの施策があればさらに株主を増やせるのではないかと考え、リハーサル参加や観覧を実施してきました」(TBS総務局コーポレート業務推進部・中嶋基大さん)

株主優待を拡充した後の2023年6月の株主総会では「優待の拡充(番組観覧)」を求める意見が多く、2023年8月に実施した新規個人株主アンケートでも「番組観覧・リハーサル観覧優待が楽しみで長期保有を予定している」という声が届いたそう。

「番組というコンテンツはエモーショナルに響くと想定していましたが、アンケート結果を見て本当に響いていることを実感しました。TBSのコンテンツに愛着を抱いてくださっている方が株主になってくれていることが推測されたので、TBSならではの優待を継続することで“ファン株主”がさらに増えていくのではないかと考えています」(中嶋さん)

「リハーサル観覧に参加していただいた方々を対象にしたアンケートでも、72.7%の方が満足度5点満点中5点を付けてくださり、『今後もTBSホールディングスの株を保有したいと思いますか。』という設問にはすべての方が『思う』と回答してくださいました。株主の方々の希望に寄り添った優待を提供できているのかなと感じています」(TBS総務局コーポレート業務推進部IR室・小路由香さん)

株式分割で購入のハードルを下げたソフトバンク。自社コンテンツで独自の魅力を放つTBSホールディングス。異なる方向性の工夫だが、共通しているのは「自社のファンに株主になってもらいたい」という思い。愛用している製品やサービスを提供している企業の株式情報をチェックしてみると、魅力的な特典が見つかるかもしれない。

(取材・文/有竹亮介)

著者/ライター
有竹 亮介
音楽にエンタメ、ペット、子育て、ビジネスなど、なんでもこなす雑食ライター。『東証マネ部!』を担当したことでお金や金融に興味が湧き、少しずつ実践しながら学んでいるところ。
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