社会保険労務士とは?仕事内容や資格を取得するための試験を紹介
近年、「リスキリング」という言葉が注目を集めています。変化の早いビジネス環境に対応するため、新しいスキルを学び、自らのキャリアを柔軟に対応させることが求められています。その中で、「資格取得」は、自分自身の専門性を高め、将来の選択肢を広げる有力な手段の一つです。そこで本記事では、社会保険労務士の資格について解説していきます。
社会保険労務士とは、労働社会保険の手続きをしたり、労働管理の相談に乗ったりする専門家です。資格を取得するためには、国家資格に合格しなければなりません。
本記事で、社会保険労務士の試験や、資格を取得して役立つことなどについて見ていきましょう。
社会保険労務士とは
社会保険労務士とは、社会保険労務士法に基づいた制度において、国家資格を取得している人のことです。略して「社労士」と呼ばれることもあります。
社会保険労務士は、特に人材に関する専門家として活躍することが一般的です。一部の業務は、社会保険労務士(社会保険労務士法人)以外が報酬を得て遂行してはいけません。
なお、社会保険労務士のなかには、特別な研修を受講して試験に合格した「特定社会保険労務士(特定社労士)」と呼ばれる人もいます。
社会保険労務士の仕事内容
社会保険労務士の主な仕事内容は、以下の通りです。
・労働社会保険の手続きをする
・労働管理の相談に乗る・指導をする
・年金に関する相談に乗る
・「紛争解決手続」を代理する
それぞれ解説します。
労働社会保険の手続きをする
社会保険労務士の仕事のひとつが、労働社会保険の業務を代行することです。労働社会保険とは、労災保険や雇用保険といった「労働保険」や健康保険・厚生年金保険などの「社会保険」を指します。
労働社会保険に関する主な業務は、以下の通りです。
・企業の労働社会保険適用や年度更新、算定基礎届などの手続きをする
・企業の労働者名簿や賃金台帳を整備する
・企業の就業規則や労使協定(36協定)の作成や、見直しをする
関連して、企業が雇用や人材能力開発のために助成金を受けるために必要な手続きを代行したり、受給できるのか相談に乗ったりすることもあります。
労働管理の相談に乗る・指導をする
労働管理の相談に乗ることも、社会保険労務士の業務です。専門家として、「労働時間を適切に管理しているか」「人材採用や育成方法は適切か」「実態にあった人事・賃金を設定しているか」などを確認し、より良い方法を提案します。
また、企業内のトラブルを未然に防ぐため、監査を実施することも社会保険労務士の業務です。就業規則・法定帳簿などを監査し、指導します。
年金に関する相談に乗る
社会保険労務士は、企業からの相談だけでなく個人からの年金に関する相談に乗ることもあります。
年金制度は複雑なため、公的年金に関する唯一の国家資格者として「年金を受けられる時期」「受け取れる額」などについて説明するのが具体的な業務です。また、年金を受給するために裁定請求書の作成や提出を代行することもあります。
「紛争解決手続」を代理する
特定社会保険労務士であれば、裁判外紛争解決手続(ADR)の代理業務もできます。
ADRとは、裁判にお金や時間がかかることや、裁判で情報が公開されることなどを避けるため、裁判によらず双方の話し合いで紛争の解決を図ることです。特定社会保険労務士は、あっせん申し立てに関する手続きを進めたり、代理人として和解交渉を進めたりします。
そのほか、労働社会保険における行政訴訟や労働関係紛争の民事訴訟で、補佐人として弁護士とともに意見を陳述することも社会保険労務士の役割です。
社会保険労務士になる方法・流れ
社会保険労務士になるまでの流れは、以下の通りです。
・社会保険労務士試験に合格する
・実務経験を積む・講習を受講する
・社会保険労務士として登録する
・企業内社労士として働く・独立開業する
ここから、各手順ですべきことを解説します。
社会保険労務士試験に合格する
社会保険労務士になるには、まず年に1度実施される社会保険労務士試験に合格しなければなりません。以下3つのうち、いずれかの条件を満たす場合に受験資格が与えられます。
1. 学歴(大学・短期大学卒業、専門学校卒業、高等専門学校卒業など)
2. 実務経験(国・地方公共団体の公務員、企業の労務担当役員など)
3. 厚生労働大臣の認めた国家試験合格(行政書士試験の合格など)
なお、自分に受験資格があるか気になる場合は、試験センターに事前確認する方法があります。
実務経験を積む・講習を受講する
社会保険労務士の試験に合格したら、登録要件を満たすために2年以上の実務経験を積みます。実務経験を積むのは、試験前でも後でも構いません。
また、実務経験を2年以上積まなくても、事務指定講習を修了すれば登録要件を満たします。講習は、4か月間の通信課程とeラーニング講習の組み合わせによるものです。修了認定を受けるためには、期間内に課題の提出を完了すること(通信課程)や、各科目の動画学習を完了して試験で良好な成績を収めること(eラーニング講習)が求められます。
社会保険労務士として登録する
登録要件を満たしたら、社会保険労務士としての登録申請ができます。
登録には、入会予定の社会保険労務士会へ登録申請書類の提出が必要です。その後、対象の都道府県社会保険労務士会での審査、全国社会保険労務士連合会での審査・社会保険労務士名簿や証票の作成を経て、申請者あてに証票が発行されます(登録完了)。
なお、特定社会保険労務士になるためには、登録後に「厚生労働大臣が定める研修」を修了することや「紛争解決手続代理業務試験」に合格することなどが必要です。
企業内社労士として働く・独立開業する
社会保険労務士として登録してからは、企業内社労士として働く、独立開業する、社労士事務所や社労士法人で勤務社労士として働くなどの道があります。
企業内社労士とは、企業に雇われた職員として、主に労務に関する業務で活躍する職種です。一般的に、管理部門やコーポレート部門(人事や総務など)といった部署に配属されます。
社会保険労務士試験の概要
社会保険労務士の試験は、毎年8月に実施されています(受験申込期間4月中旬〜5月31日)。試験科目は、以下の通りです。
・労働基準法及び労働安全衛生法
・労働者災害補償保険法
・雇用保険法
・労務管理その他の労働に関する一般常識
・社会保険に関する一般常識
・健康保険法
・厚生年金保険法
・国民年金法
出題形式は選択式(80分)・択一式(210分)で、解答方法はすべてマークシートです。合格基準点は、合格が発表されてから明らかになります。
社会保険労務士の資格を取得するコツ
社会保険労務士の資格を取得するためのコツは、早めに学習スケジュールを立てておくことです。試験範囲が広いため、早めに一通り学習できるように計画を立てましょう。一通り学んでおくことで、各試験科目の特徴を掴めます。
また、独学にするか、講座を利用するかを早めに決めておくことも大切です。講座を利用する場合は、コストがかかる分、効率よく重要な用語や法令を理解できます。
社会保険労務士の資格を取得して役に立つこと
社会保険労務士の資格を取得することによって、役に立つことは主に以下の通りです。
・就職・転職・独立で強みになる
・社内で専門性をアピールできる
・よりよい労働環境を構築できる
それぞれ解説します。
就職・転職・独立で強みになる
社会保険労務士の資格を取得すると、就職や転職の場面でアピールできます。なぜなら、社会保険の申請や給与計算など、企業のさまざまな業務において社会保険労務士の知識やスキルを役立てられるためです。
また、社会保険労務士の資格を取得することで「独立」という選択肢が増えます。労働・社会保険関連法に基づく手続きや、労働保険関連の帳簿作成の代行は社会保険労務士の独占業務のため、独立後も一定の仕事の需要を期待できるでしょう。
社内で専門性をアピールできる
現在勤めている会社でも、社会保険労務士の資格を取得したことで専門性をアピールできます。
社会保険労務士としての知識が、自社の労務にかかるコストを軽減することや、労務問題の発生リスクを抑えることなどに役立つでしょう。企業に欠かせない生産性の向上に貢献するため、結果的に年収アップや昇進につなげられる可能性もあります。
よりよい労働環境を構築できる
社会保険労務士の資格を取得することで、よりよい労働環境を構築することにもつながります。
社会保険労務士の試験に合格するためには、労働基準法のように労働者の権利に関する法律の知識を取得しなければなりません。そのため、試験勉強を通じて得た知識を使って、自身を取り巻く労働環境を改善できるでしょう。
例えば、勤務先の定める条件が法律に違反していることに気づける場合があります。
社会保険労務士とは主に人材に関する専門家
社会保険労務士とは、労働社会保険の手続きをする、労働管理の相談に乗るなどの業務を担う、人材に関する専門家です。社会保険労務士になるためには、まず試験に合格し、実務経験を2年以上積むか指定された講習を修了しなければなりません。
社会保険労務士になってから、引き続き企業内社労士として現在の職場として働く選択肢もあります。社会保険労務士の知識があれば、自社の生産性向上にも貢献できる場面があるでしょう。
参考:社会保険労務士試験オフィシャルサイト「社会保険労務士試験のご案内」
参考:全国社会保険労務士会連合会「社労士とは」
ライター:Editor HB
監修者:高橋 尚
監修者の経歴:
都市銀行に約30年間勤務。後半15年間は、課長以上のマネジメント職として、法人営業推進、支店運営、内部管理等を経験。個人向けの投資信託、各種保険商品や、法人向けのデリバティブ商品等の金融商品関連業務の経験も長い。2012年3月ファイナンシャルプランナー1級取得。2016年2月日商簿記2級取得。現在は公益社団法人管理職。