一連の活動を統括したJUIDAが振り返る
「孤立した集落に空から医薬品を」、能登半島地震で行われたドローンの支援とは
2024年の元日に起きた能登半島地震。その後の被災地では、ドローンが孤立集落に医薬品を輸送する姿があった。これまでにも平時の訓練や実証実験でドローンの医薬品輸送は行われていたが、実災害では国内初だったという。
能登ではこのほかにも、ドローンがさまざまな役割を果たした。それらを統括したのが、ドローンの産業振興を促進する一般社団法人 日本UAS産業振興協議会(JUIDA)である。
市場で注目を浴びているトレンドを深掘りする連載「マネ部的トレンドワード」。ロボティクス・ドローン編の本記事では、JUIDAの理事長であり、東京大学 名誉教授/特任教授の鈴木真二氏に取材し、能登半島地震でのドローンによる支援活動を振り返る。
20以上の企業・団体が協力した支援活動
2014年に発足したJUIDAは、ドローンを運行する際の安全ガイドラインの策定や、ドローンスクールのカリキュラム開発、国際展示会「Japan Drone」の開催などを行ってきた。災害時のドローン活用も積極的に進めており、能登半島地震でもさまざまな支援を実施したという。
元日に震災が起きた後、JUIDAから被災地の自治体に対して災害ボランティアとしての参加を提案。1月4日には、石川県輪島市より正式に要請を受けた。「その翌日からJUIDA災害試験本部が現地に入りました」と鈴木氏は説明する。JUIDAの会員企業やドローン関連団体に協力を呼びかけ、20以上の企業・団体と共に現地活動をスタートした。
まず行ったのが、ドローンによる倒壊家屋の調査だ。「壊れた建物の中に住民が閉じ込められている可能性があり、一刻も早い救助が必要でした。しかしこれらの調査を人が行うと、余震などで再倒壊した際に事故が発生する危険も。そこでカメラをつけたドローンが建物内部を調査しました」。
ドローンの中には、人が立ち入れないような狭い空間の飛行に適した小型の機体がある。普段はインフラ設備や工場の点検などに使われているものだ。倒壊家屋の調査ではこうした機体が活用された。
次に、被災地では道路の決壊などにより孤立集落ができた。海岸の隆起によって船でも近づけないエリアがあり、これらの集落やその周辺道路の状況を把握するため、ドローンで上空からの撮影を進めたという。
その後に行ったのが医薬品輸送だ。車での往来が難しい山間部などの避難所に、ドローンで医薬品を届けたという。「災害派遣医療チームDMATと連携して、必要な物資を運びました」。
これまで離島に医薬品を届ける実証実験などは平時で行われていたが、災害時は国内初。だからこその難しさもあった。そのひとつが、災害直後に携帯電話の回線が不安定になったこと。ドローンを飛行させる時、一定の距離内なら、機体と直接通信して操縦できる。しかし今回の届け先となる避難所は数キロメートル先にあり、こういう場合は携帯電話の回線を介してドローンと通信する。
「そのため、途中に少しでも電波の不安定なところがあれば飛行が難しくなります」。回線の復旧を待ち、飛行ルートの電波に問題がないことを入念に確認してから輸送を行ったという。
とはいえ、その分のロスをふまえても、道路の復旧を待つより数段早く医薬品を届けられたことは間違いないだろう。
最新のドローン技術も投入した。震災後は河川に土砂がたまり、川の水をせき止めてしまう箇所が発生。もしもこの“自然にできたダム”が崩壊すれば、下流の水量が一気に増して氾濫する可能性があるため、この地点を常時監視しなければならない状況だった。とはいえ、人が張り付く余裕はない。そこで取り入れたのが「ドローンポート」による自動巡回だった。
ドローンポートとは、ドローンの離着陸専用の施設や機器のこと。今回は所定の場所にドローンポートを設け、そこからドローンが飛び立って土砂エリアを巡回。その後、バッテリー残量などに合わせて自動でポートに戻り、しばらく経つとまた飛行した。「物流業などで積極的に取り入れられている技術ですが、今回初めて災害時の自動監視に活用しました」。
災害時のドローン活用に関する「ルール」とは
災害などの“有事”におけるドローン活用は、早くから期待されてきた。JUIDAでも、2019年に陸上自衛隊東部方面隊と協定を締結し、山梨のキャンプ場で行方不明になった女児の捜索や、熱海の土砂災害調査などに協力してきたという。
今回の能登半島地震は、陸上自衛隊東部方面隊の管轄地域ではなかった。そこで自治体に連絡を取り、正式な要請を受けてから現地での活動を始めたという。
というのも、大災害などが発生した際、その地域は民間団体が無人航空機を飛ばしてはいけない「緊急用務空域」に指定されるのが一般的だ。ヘリコプターによる救助活動などを妨げないためであり、能登もその形となった。
ただし、政府や自治体といった公的機関の要請を受けた団体については、人命救助に関する活動に限って飛行させることが可能。「そこで私たちから自治体にドローンでの支援ができることをご説明し、正式な要請をいただきました」。つまり、先述したドローンの活動はすべて「人命救助にまつわるもの」として行われている。
なお、JUIDAが被災地に入ってから5日後の1月10日には、能登の管轄となる陸上自衛隊第10師団との協定を急きょ締結。14日には石川県珠洲市からの協力要請も受けたという。こうしてドローンの活用が被災地で広がっていった。
災害時に「どこまでの飛行を認めるか」という課題
能登の活動はさまざまな収穫があり、災害時の支援において「今後やらなければならないことも見つかりました」と鈴木氏は口にする。
そのひとつは、災害時にドローンで何ができるかを日頃から周知することだ。被災地では初めてドローンを見た人も多く、この技術を深く理解している人は少なかったという。そのため、JUIDAが状況を聞き取りながらニーズを発掘し、ドローンの活用方法を説明するなど、理解を得ながら活動を拡大していった。
仮に普段からドローンの知識が広がっていれば、このようなプロセスを飛ばして素早く救助活動に移れる。「日頃からドローンでできることを広く伝えていく必要があると感じました」。
「もうひとつ、ドローンの飛行が捜索、救助の目的という人命救助に限られる緊急用務空域において、どこまでドローンを活用できるかという課題も出てきました。たとえば被災地では、避難によって多くの家屋が無人になり、空き巣被害が出ることも少なくありません。もしドローンで地域を巡回すれば有効な防止策になるでしょう。しかし人命救助には該当しないと考え、能登ではすぐには実施しなかったのです」
こうした点をふまえ、「災害時の飛行ルールや環境を整備していくことが重要でしょう」と鈴木氏。もちろんドローンが増え過ぎればリスクになる可能性もある。安全を確保しながら活用できる形を考える必要があるという。
有事にドローンを扱う“人”の育成も重要だ。「災害時の飛行は、注意すべき点も決まりごとも平常時と大きく異なります。普段ドローンを扱っている方のほか、警察や消防といった人命救助の初動を担う公的機関の方にもその知識や技術を伝えていければと思います」。
ここまでは災害時におけるドローンの活用を記事の主題にしてきたが、最後に、この産業全体の展望も聞いてみたい。鈴木氏は「ドローンの機体も安価なものが増え、普及が進んでいます。さらに今後は、飛行機の“航空管制”のように、多数のドローンの運行を管理するシステムや、それを活用する人材の教育といった周辺産業が発達してくるでしょう」と話す。
すでに「ドローン運航管理システム(UTM)」と呼ばれる技術の開発が進んでおり、ヘリコプターなども含めて、上空での機体の接近や衝突を防ぐシステムの構築も研究されている。「日本は航空機や電車でもわかるように、細かな運行管理は得意分野。成長が期待できる領域ではないでしょうか」。
災害をはじめ、さまざまなシーンで活用が進むドローン。今後もさらにこの技術が社会に浸透し、人々の生活を支える存在になるだろう。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2025年1月現在の情報です