税理士になるには?仕事の内容や税理士試験の概要も解説
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近年、「リスキリング」という言葉が注目を集めています。変化の早いビジネス環境に対応するため、新しいスキルを学び、自らのキャリアを柔軟に対応させることが求められています。その中で、「資格取得」は、自分自身の専門性を高め、将来の選択肢を広げる有力な手段の一つです。そこで本記事では、税理士の資格について解説していきます。
税理士とは、税務代理・税務書類の作成・税務相談などの業務を担う税の専門家を指します。資格を取得するためには、試験に合格することだけでなく、2年以上の実務を経験することなども必要です。
本記事では、税理士の仕事内容や資格を取得するための試験概要を解説します。
税理士とは
税理士とは、税に関する専門家のことです。また、納税者が所得を計算して納税額を算出する「申告納税制度」の担い手としての役割があります。
税理士法第2条によると、税理士業務とは他人の求めに応じて以下の業務を遂行することです。
・税務代理
・税務書類の作成
・税務相談
税理士業務は、原則として税理士や税理士法人以外の人が行ってはなりません(同法第52条)。
税理士の仕事内容・役割
税理士の主な仕事は、税務代理・税務書類の作成・税務相談や会計業務・コンサルティング業務などです。それぞれの具体的な仕事内容について、解説します。
税務代理
税務代理とは、依頼者を代理して確定申告や青色申告の承認申請の手続きをすることです。依頼があれば、依頼者の電子証明書がなくてもe-Taxで代理送信もできます。
確定申告の手続きには、税に関するさまざまな知識が必要です。依頼者は、税理士に任せることで、税務の手続きが漏れることのリスクを軽減できるでしょう。
また、税務調査への立ち会いも税理士の仕事です。依頼者は、税理士に立ち会ってもらうことで、調査官からの指摘や質問に対して戸惑うことなく適切に回答できます。
そのほか、税務署の更正や決定に不服がある場合に申立てすることも、税理士の役割です。
税務書類の作成
税務書類の作成とは、依頼者の代わりに主に以下の書類を作成することです。
・確定申告書
・相続税申告書
・青色申告承認申請書
・そのほか税務署に提出する書類
確定申告書や相続税申告書を作成するためには、控除額などを把握し計算するなどの手間がかかります。依頼者は、専門家である税理士に任せることで、書類作成にかかる労力や時間を削減できるうえ、計算ミスをするリスクも軽減できるでしょう。
税務相談
税理士は、税金で困ったことやわからないことがある人に対して、相談に乗れます。主な相談は、以下の通りです。
・節税対策を知りたい
・個人の所得税の計算方法がわからない
・帳簿のつけ方や請求書・領収書の正しい保存方法がわからない
税務相談は、税務代理・税務書類の作成と同様に税理士の独占業務です。そのため、税金の計算方法がわからない人が具体的なアドバイスを受けるには、税理士に相談しなければなりません。
(会計業務・コンサルティング業務など)
独占業務以外に、税理士は会計業務を遂行することがあります。税理士の会計業務とは、独占業務に付随して遂行する会計帳簿の記帳代行や財務書類の作成などのことです。
また、各種コンサルティング業務も税理士の仕事に含まれます。税務書類の作成にあたって把握している数字を参考にして、資金繰りについてアドバイスすることがあるでしょう。
そのほか、税理士によっては、補佐人として弁護士と一緒に裁判所に出頭したり、株式会社の役員である会計参与として取締役と計算関係書類を作成したりすることもあります。
税理士になるには?
税理士になるまでの流れは、以下の通りです。
1. 受験資格を満たす
2. 税理士試験の試験科目(合計5科目)に合格する
3. 2年以上の実務経験を積む
4. 税理士名簿に登録する
それぞれ解説します。
1. 受験資格を満たす
税理士試験を受けるためには、受験資格を満たさなければなりません。ただし、会計学科目と税法科目で扱いが異なります。
会計学科目については、2023年度から受験資格の制限がなくなりました。そのため、誰でも受験可能です。
一方、税法の科目を受けるには、以下いずれかひとつの要件を満たす必要があります。
・学識(例:大学を卒業していて、社会科学に属する科目を1科目以上履修している)
・資格(例:日商簿記検定1級に合格している)
・職歴(例:企業で会計に関する事務に2年以上従事している)
なお、税理士試験を受験するにあたって、国籍や年齢の制限は設けられていません。
2. 税理士試験の試験科目(合計5科目)に合格する
税理士になるには、税理士試験で会計学科目2科目、税法科目3科目の合計5科目に合格しなければなりません。
会計学科目は、以下の通りです。
・簿記論
・財務諸表論
また、税法科目には、以下の7科目があります。
・所得税法
・法人税法
・相続税法
・消費税法または酒税法
・国税徴収法
・住民税または事業税
・固定資産税
税法科目では、所得税法か法人税法のどちらか1科目は必ず選択しなければなりません。
なお、弁護士や財務省令で定める税法に関する研修を修了した公認会計士は、税理士試験の試験科目に合格しなくても税理士となる資格があります。公認会計士の概要については、以下の記事を参考にしてください。
3. 2年以上の実務経験を積む
税理士になるには、通算2年以上の実務経験を積むことも必要です。実務経験の具体例は、以下の通りです。
・税務署などで働く
・税理士事務所で働く
・企業の経理部門で働く
「実務経験に該当するか」「2年以上実務経験があるか」については、税理士会の調査に基づき判断されます。
なお、試験に合格する前の実務経験も、「2年以上」に通算可能です。
4. 税理士名簿に登録する
試験に合格して実務経験を積んだら、日本税理士会連合会の税理士名簿に登録します。
登録するためには、税理士事務所を設ける予定の地区にある税理士会に申請書類を提出しなければなりません。申請書類が条件を満たしていれば、税理士名簿に登録されて税理士として活動できます。
なお、日本税理士会連合会によると、2024年11月末日現在で、税理士登録者の数は81,553人です。
税理士試験の概要
税理士試験は、毎年8月ごろに実施される試験です(合格発表:12月中旬)。試験(会計学科目2科目・税法科目7科目)は、3日間かけて行われます。
試験時間は各科目120分で、出題形式は記述方式です。合格基準点は、いずれも満点の60%に設定されています。
科目合格制のため、一年に5科目受験する必要はありません。会計学科目2科目と税法科目3科目に合格した段階で、合格者としてみなされます。
2024年度の受験者数は34,757人で、合格率は16.6%でした。
税理士の資格を取得して役に立つこと
税理士の資格を取得して役に立つことは、主に以下の通りです。
・自分の可能性を高められる
・税や会計に関する知識を身につけられる
それぞれ解説します。
自分の可能性を高められる
税理士の資格を取得することで、自分の可能性を高められるでしょう。
例えば、税理士の資格を取得したことをきっかけに、将来独立して開業する選択肢が増えます。国税庁のホームページによると、2024年3月末時点で、税理士登録者81,280人のうち開業税理士の占める割合は約68%(55,578人)です。
また、税金や会計に関する知識やスキルをアピールできるため、今いる会社で昇進したり、より好条件の会社に転職したりするなどのキャリアアップも期待できます。
税や会計に関する知識を身につけられる
税や会計に関する知識を身につけられる点も、税理士の資格を取得することの魅力です。
税理士試験の試験科目には、各種税法や簿記論・財務諸表論が含まれています。税理士の勉強を通して身につけた税や会計に関する知識は、税理士として働く場合だけでなく、勤務先の財務部や経理部などで働く場合にも自分の強みとなるでしょう。
また、税や会計に関する知識を身につけておけば、公認会計士やファイナンシャルプランナーの試験を受験する際にも役に立ちます。ファイナンシャルプランナーの資格について詳しく知りたい方は、以下の記事も参考にしてください。
AFP・CFPとFP技能士の違いとは?ファイナンシャルプランナー資格を紹介
税理士試験に合格するコツ
税理士試験の実施日は基本的に8月と決まっているため、税理士試験の受験を決めたらすぐに学習スケジュールを立てることがポイントです。仕事のある日に取れる現実的な学習時間や、休日の学習時間を考慮したうえで決めましょう。
また、早い段階で過去問を一通り解いてみることも重要です。過去問を解くことで、問題の傾向や自分の苦手な科目・得意な科目がわかります。
さらに、仕事との両立が難しく、十分な学習時間を確保できなそうな場合は、長期での合格を目指すこともコツです。税理士試験の合格科目は生涯有効なため、毎年一部の科目の学習に集中して少しずつ合格していく方法があります。
税理士は3つの独占業務を認められた職種
税理士は、3つの独占業務(税務代理・税務書類の作成・税務相談)が認められた税の専門家です。税理士の資格を取得することで、税や会計に関する知識を身につけたり、キャリアアップにつなげたりできるでしょう。
税理士になるには、会計・税法の合計5科目の試験に合格することや、2年以上の実務経験を積むことが必要です。合格した科目は生涯有効なため、税理士に関心がある方は今から少しずつ学習を始めてみてはいかがでしょうか。
参考:日本税理士連合会「税理士とは」
参考:国税庁「6 税理士法違反行為」
参考:東京税理士会「税理士になるには」
参考:税理士会「税理士への道のり」
参考:国税庁「税理士試験受験資格の概要」
ライター:Editor HB
監修者:高橋 尚
監修者の経歴:
都市銀行に約30年間勤務。後半15年間は、課長以上のマネジメント職として、法人営業推進、支店運営、内部管理等を経験。個人向けの投資信託、各種保険商品や、法人向けのデリバティブ商品等の金融商品関連業務の経験も長い。2012年3月ファイナンシャルプランナー1級取得。2016年2月日商簿記2級取得。現在は公益社団法人管理職。