地域産品を届けるだけでなく「海上の監視」「雇用の創出」も可能に!?
「物流ドローン」が目指すのは“離島の人々の暮らし”の存続
市場で注目を浴びているトレンドを深掘りする連載「マネ部的トレンドワード」。ロボティクス・ドローン編第7回となる今回取り上げるのは、離島から本土へと地域産品を届ける「物流ドローン」の実証事業。
物流ドローンの実証は2023年11月、AIR WINGS、JR東日本新潟シティクリエイト、JR東日本企画(jeki)、アールイーがチームを組み、新潟県佐渡市でスタートした。佐渡の新鮮な海産物をドローンで新潟市に運び、JR東日本グループが展開する列車荷物輸送サービス「はこビュン」と連携して、数時間で東京都内の飲食店に届けるという内容。
2024年度から、全体をまとめる役割としてパーソルビジネスプロセスデザインも参画し、ビジネス展開に向けてさらなる実証実験を進めているという。実証の現状とこれからの展開について、パーソルビジネスプロセスデザイン ビジネスエンジニアリング事業本部の佐々木健人さん、髙木開さん、jekiソーシャルビジネス・地域創生本部の渡邉隆之さん、jeki新潟支社の和田珠李さん、AIR WINGS代表の林賢太さんに聞いた。
「地域産品を届けるドローン」の魅力と課題
2023年11月の実証では、佐渡市から新潟市への往路で南蛮エビやメガニといった海産品が届けられた。また、新潟市から佐渡市に帰る際にもドローンを活用すべく、復路では医療物資の輸送を模擬した検証が行われた。実証のきっかけは、JR東日本新潟シティクリエイトとAIR WINGSの出会いにあったという。
「飛行機型ドローンの運航サービスを提供しているAIR WINGSでは、都市部と比べてドローンを運航しやすい離島で事業のチャンスがあるのではないかと考えていました。また、沖縄に次いで大きな有人離島の佐渡島には2024年に世界文化遺産に登録された金山があったり、おいしい海産品が豊富だったりすることもあり、文化とともに現地での生活を守ることができないかという思いもありました」(林さん)
林さんが新潟市にドローン活用の企画を持っていった際に、新潟市から紹介されたのが新潟県の地域産品や工芸品の販売・PRに取り組むJR東日本新潟シティクリエイトだったそう。そこに広告代理店のjekiや食関連のサプライチェーンを支援するアールイーが加わり、実証が進められた。
「当初は課題もたくさんありました。離島と本土の間の海峡を越えるため、高速で長距離を飛べる飛行機型ドローンを用いていますが、通常のドローンと異なり緊急時にすぐ停止するということが困難です。安全を担保するため、リスクをひとつずつ解消していく作業に時間を要しましたが、電波状況や機体の性能、気象状況の解析などを行い、クリアしていきました」(林さん)
「即時性を持って地域産品を届けることのポテンシャルがいかにあるか、という点も調査しました。佐渡の農業・漁業関係者、加工業者の方々に直接会いに行き、『ドローンでの輸送にチャレンジしようと考えています』と話しました。結論から述べると、皆さん拒否反応はなく、『これまで船と車で東京まで1日半かかっていたところが、数時間で届くのはすごい』と共感していただき、実証にも前向きに協力していただきました」(渡邉さん)
「2023年の実証では都内の飲食店に海産品を提供したのですが、店舗の方々にも鮮度のよさが好評で、『定期配送が叶うのであれば、今後も仕入れたい』という声をいただきました。ドローンでの配送なので、船やトラックと比べると輸送量がコンパクトになるという現実はありますが、即時性という付加価値を付けてどのように継続していくか、探っていくことがこれからの課題になると考えています」(和田さん)
2024年の実証では提供先を変え、都内の新潟県アンテナショップに地域産品が並べられた。新鮮なものがいち早く届くという点は、生産者にとっても購入者にとっても魅力となるようだ。
「島内の配送」や「監視」にもドローンを活用
パーソルビジネスプロセスデザインが参画した2024年度からは、佐渡島に加えて粟島と本土をドローンでつなぐ実証も進められた。
「粟島は住民が数百人規模の限界集落になります。そこと本土をつなげ、地域産品を島の外に届けることができれば、地域の産業が活性化し、粟島の自立につながると考えています。ただし、ドローンを活用するにあたって、輸送コストが大きな課題になります」(佐々木さん)
離島から本土へ地域産品を送るだけでは、輸送コストと見合わない可能性があり、事業者が参入しづらい。そのため、2023年の実証では復路で医療物資を届けることで、ドローンをただ飛ばすだけの状態をつくらずに輸送コストを抑えた。
「輸送以外の機能も合わせることができるのではないかと考え、ドローンに搭載されたカメラを監視に活用する企画を進めています。粟島には密漁という問題があり、これまでは粟島の陸から定期的に監視する体制でした。物流ドローンがカメラで監視することができれば、リアルタイムで海上の情報を捉え、映像や写真を残すこともできます。現状はどの程度の精度で監視できるか検証している段階ですが、実現すれば輸送以外のニーズに対応できるようになります」(髙木さん)
「離島と本土の間だけでなく、離島内でもドローンを活用できるのではないかと考えています。佐渡島内のホテルを拠点に、島内のさまざまな場所にドローンで物を運ぶようなビジネスが確立されると、別の課題の解決にもつながります。ドローンがつなげる線を増やして面に広げ、より魅力的な事業にしていきたいと思っています」(佐々木さん)
ドローンを取り入れることで島内の「雇用」につながる
もう少し先の未来、物流ドローンが解決するのは輸送や監視の課題だけではないとのこと。
「ドローンを運航するためには、運航する人材が必要です。離島と本土をつなぐにしても島内で運航するにしても、島内での雇用が創出されたり、島に若い方が移り住んで運航を行ったりすることにつながるのではないかと考えています。近年は離島を訪れるインバウンドの方々が増えていることで、国内でも離島の魅力が再認識されつつあります。観光需要だけでなく、新たな雇用を生み出すきっかけがつくれないかと期待しています」(佐々木さん)
「我々は地域支援として“『売り物』を変える、『売り先』を変える、『売り方』を変える”というテーマを掲げています。ドローン物流は、まさに『売り物』『売り先』『売り方』を変えて地域産品のポテンシャルを引き出すビジネスになり得ますし、髙木さんがおっしゃったように島内物流やドローンの運航など、島内の事業を新たに生み出す可能性も秘めています。地域を持続させる意味でも、重要な取り組みと捉えています」(渡邉さん)
「現地の方々にお話を伺うと、地域や産品の魅力に気付いていないことも多いんです。普段食べているものが、島の外では大きな価値があるものだと知ると、農業や漁業関係者の方々もうれしそうにしてくれるので、その喜びをもっと広げていきたいですね」(和田さん)
「離島では、島の特産品などを外に売りに出せないので、経済が回らなくなってきているという現状があります。そこにドローンを導入することで、島内の事業が盛り上がり、島を継続させることができます。本土から素早く医療物資を送ることができれば、医療体制も整いやすくなりますし、密漁を監視すれば産業を守ることにつながります。ドローンを活用して、国内の離島が自立した形で残り続けていく社会に貢献していきたいですね」(林さん)
物を運ぶだけではなく、島の周辺を監視したり雇用を生み出したりする可能性を秘めているドローン。導入が実現すると、離島を取り巻く環境は大きく変わっていくだろう。
(取材・文/有竹亮介 撮影/鈴木友樹)