新興国投資へのいざない
新興国企業のセクターについての考察 ~新興国の強みとは~
提供元:アイザワ証券
前回の記事では、新興国投資のリスクのうち、主として為替について説明させて頂きました。
筆者が所属している会社では、多数のアジア株式市場を取り扱っていますが、ここ数年はベトナム株式市場の人気が高い傾向にあります。ベトナムは現在、新興国投資としてはフロンティア市場に位置付けられますが、エマージング(新興国)に格上げされるとの期待もあるようです。
私もメディアやセミナーにて、ベトナム株式に関するご紹介を度々行いますが、その際によく聞かれる質問として「世界的に有名な最先端(ハイテク)企業の株が買いたい」とか「ベトナムの航空会社、IT産業に投資したいのだけど…」といった反応を頂く事があります。ベトナム経済の高成長と株式に興味を持って頂くのは大変うれしいです。同時に折角興味を持って頂けたのなら、ベトナムの自然地理や社会条件に適合し、世界のライバル企業と競争していける、独自のニッチ産業に興味を持って頂きたいなと思っています。
今回はその辺りの事情を説明したいと思います。
まず世界的に有名(確立されたブランドを有する)な最先端企業に投資したいのであれば、先進国の証券取引所にて企業を探し、株式を購入すべきではないか?と思います。と申しますのも「有名である=その企業の存在が既に世界によく知られている」という表裏の関係にあり、わざわざ市場規模が小さい(流動性が低い)新興市場へ投資する意義が薄れるからです。
この点、最近のベトナムの半導体産業育成のエピソードが参考になります。
世界中の国々が半導体を自給できる様に自国生産に方向転換する中で、当初ベトナムも最先端の半導体製造に自国生産で取り組もうとしていました。しかし、生成AI半導体など世界最先端の半導体技術を持つ米国のコンサルタントから「半導体産業育成の戦略を製造から人材供給に切り替えるのが賢明」と諭されたそうです。現時点ではベトナムに世界最先端の半導体を製造する能力は殆ど無い訳ですが、一方で安い人件費を活かしソフトウェア開発の海外アウトソーシングは盛んで、日本の大企業からソフトウェア開発を受注している企業が多数あります。
例えばFPTという企業は、エヌビディアと提携し2025年1月から日本市場向けに生成AIサービスの供給を開始すると発表しました。FPTは、数十年に渡り日本企業の高度な要求を満たしてきたプログラマーやシステムエンジニアが多数所属しており、その人件費は中国と比較しても安いです。
この事例から、筆者は現時点ではベトナム企業は、半導体製造業よりも半導体産業や生成AIサービスへの高度人材の供給を行う産業に競争力の源泉があると見ています。
航空(旅客運送)業に関しても、規模が大きく人件費の高い国営航空会社よりは、あまり知られておらず人件費の安い格安航空会社の収益性が高いケースがあります。あるいはパイロット、CAの様な高度人材を要しない人件費が安い空港のレストランや土産店、航空ターミナル運営業、X線検査など周辺のニッチ(すき間)企業の収益性が高い傾向にあります。また安い人件費以外にもベトナムの自然地理条件を活かした例としては、天然ゴムや米(2期作が可能)、果実栽培(ライチなど)などが挙げられます。
皆様はイギリスの経済学者デヴィッド・リカードの「比較生産費説」をご存じでしょうか?国際貿易の中でそれぞれの国々が最も得意とする生産品(競争力のある)産業に注力することで世界全体の経済的余裕が達成されるという経済理論です。
投資の観点でも「ベトナムの強みとは何か?」という点を深く理解する事が重要と考えています。
(アイザワ証券)
CIIA®(国際公認投資アナリスト)、CFP、1級FP技能士
ベトナムをはじめとするアジア新興国市場の分析を担当。豊富な現地調査経験に基づいた独自の視点から、投資家の皆様にアジア株を解説、紹介しています。
現在、都内でテレビ放送されている株式情報番組『ストックボイス 東京マーケットワイド』に毎週火曜日13:30よりレギュラー出演中。