夫も妻も「有期給付」に変更。子どもは受け取りやすくなる…?
男性も女性も要注目!「遺族年金制度」見直しの影響
新たな遺族厚生年金を支える「3つの措置」
支給継続の仕組みがあるとはいえ、5年間の有期給付となることに不安を抱く人もいるだろう。そのための5年間の有期給付となる遺族厚生年金に対する配慮(期限の定めのない遺族厚生年金については現行制度のとおり)として、3つの措置が講じられている。
(1)配偶者の死亡に伴う年金記録分割の導入
(2)収入要件の見直し
(3)有期給付加算の創設
3つの措置のイメージ
(1)配偶者の死亡に伴う年金記録分割の導入
「『遺族厚生年金』が有期給付となることで、老後に不安を感じる方もいると思います。そのため、配偶者の生前に専業主婦(主夫)で厚生年金に加入していなかったり、育児や介護などで厚生年金に加入していない時期があったりする場合に、夫婦の厚生年金の年金記録を合算し、その半分を老齢厚生年金として受け取ることができる制度を新設する予定です」
ここでいう「年金記録」とは、あくまで婚姻関係にある間の厚生年金の年金記録。独身時代の年金記録は加味されない。
(2)収入要件の見直し
「現行の制度では、年収850万円(所得655.5万円)未満であれば『遺族厚生年金』を受給できるという収入要件がありますが、見直し後は収入要件の廃止を検討していします。高収入の方であっても、配偶者が亡くなり世帯収入が下がると、生活が変化するはずです。そのため、収入に関係なく、5年間支給される制度に変わる予定です」
(3)有期給付加算の創設
「現行の『遺族厚生年金』は、被保険者の年金記録に基づいて導き出した老齢厚生年金額の4分の3に相当する額が、遺族に支給される制度です。見直し後は有期給付となり、給付期間が短くなるため、年金額を充実させる目的として『有期給付加算(被保険者の老齢厚生年金額の4分の1に相当する額を加算する制度)』の導入を検討しています」
「遺族厚生年金」として支給される「被保険者の老齢厚生年金額の4分の3」に、「有期給付加算」として「被保険者の老齢厚生年金額の4分の1」が加算されるため、被保険者が受け取る予定だった老齢厚生年金と同じ水準になるというわけだ。
「ちなみに、『被保険者の老齢厚生年金額』はそれまでに納めた厚生年金保険料と加入期間をもとに算出されますが、厚生年金の被保険者期間中に亡くなった場合などの要件を満たしたうえで、被保険者が若く、厚生年金の加入期間が短い場合は、25年(300カ月)納めたものと見なされます。つまり、最低でも25年間厚生年金に加入した場合の老齢厚生年金額に相当する額が支給されることになります」
見直しに伴い「中高齢寡婦加算」が段階的に廃止
「遺族厚生年金」の見直しに伴って、「中高齢寡婦加算」も見直されるという。
「中高齢寡婦加算」とは、子のない40歳以上65歳未満の妻に対して、「遺族厚生年金」に加算される給付のこと。就労が難しいことを考慮して設けられた制度だ。
「今回の見直しに合わせて、『中高齢寡婦加算』は将来的に廃止となります。ただし、『今年から受け取れません』と急に廃止とするわけではなく、施行から25年かけて徐々に給付額を減らしていく予定です」
「中高齢寡婦加算」は受け取り始める時点で給付額が確定するもので、既に給付されている人の金額が減るわけではない。施行後は、最初に確定する給付額が年々減っていく形になる。
「現状『中高齢寡婦加算』は、『遺族基礎年金額(老齢基礎年金の満額)の4分の3』と定められています。その基準を100%とし、例えば、施行された年は約96%、施行から3年目には約89%のように加算額が減っていきます。受け取り始めた時点の加算額は、65歳まで変わらないこととする予定です」
「遺族基礎年金」は子どもが受け取りやすい内容に見直し
ここまで「遺族厚生年金」の見直しについて聞いてきたが、「遺族基礎年金」についても一部見直しが行われるという。その対象となるのは「子」だ。
「『遺族基礎年金』は子の生活の安定を図ることを目的に支給されるもので、現状は父や母と生計を同じくしているお子さんへの支給は停止となります」
例えば、両親が離婚している子が、父親と住んでいたとする。その父親が亡くなり、子が母親に引き取られた場合、母と生計を同じくしているため、子に対する「遺族基礎年金」は支給停止となる。
「ただし、お子さんの権利を保護するという観点からすると、『子が置かれている状況の違いによって、遺族基礎年金の支給が停止される不均衡を解消すべきではないか』という意見が有識者から多く寄せられたため、『遺族基礎年金』を受け取りやすくする見直しを行います。先ほどの例のように離婚した両親の片方に引き取られる場合はもちろん、引き取る親が再婚している場合や祖父母が引き取る場合も『遺族基礎年金』が支給される形になる予定です」
今回の見直しに基づいた遺族年金制度の改正は、2025年中に行われる予定だ。ただし、改正から施行に至るまでには、一般的に3~4年ほどの時間がかかる。つまり、今回の見直しの内容で遺族年金が運用されるのは、3~4年後というわけだ。
「『遺族厚生年金』に関しては、施行の時点で女性の有期給付の年齢を40歳未満に引き上げます。その後20年かけて、有期給付の年齢を1歳ずつ引き上げていく形で考えています。一方、男性は施行の時点から60歳未満のすべての方が有期給付の対象になる予定です」
見直しによって大幅に制度が変わる「遺族年金」は、配偶者や親、子どもがいるすべての人に関係するものだ。具体的な改正内容や時期など、今後もチェックしていこう。
(取材・文/有竹亮介)