投資信託を「信託報酬」で選ぶ時代は終わった!?

目論見書に記載されるようになった「総経費率」の読み解き方

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2024年4月から、投資信託の目論見書に「総経費率」が記載されるようになった。投資信託の運用にかかった費用を合計した総経費を平均純資産総額で割ったもの、つまり運用時にかかるコストの目安を表すものだ。

投資信託のコストの代表例といえば「信託報酬」が挙げられるが、「総経費率」とはどのように異なるのだろうか。また、なぜ「総経費率」の記載が求められるようになったのか、マネーコンサルタントの頼藤太希さんに教えてもらった。

各社共通のルールで定められた情報「総経費率」

「『信託報酬』とは投資信託の保有中に発生する手数料のことで、信託財産のなかから毎日一定の割合で差し引かれます。一方、『総経費率』は信託報酬やその他の手数料の合計を表すものです。投資信託を保有する際には、信託報酬以外にも次のようなコストが発生します」(頼藤さん・以下同)

●投資信託を保有する際に発生する手数料の一例
・監査法人に支払われるファンドの監査費用
・有価証券等の売買時に取引した証券会社などに支払われる手数料
・有価証券等を海外で保管する場合、海外の保管機関に支払われる費用
・外国株式インデックスマザーファンド及び新興国株式インデックスマザーファンドの換金に伴う信託財産留保額
・その他信託事務の処理にかかる諸費用

投資信託を保有するには信託報酬以外のコストも発生するため、そのすべてを合計した「総経費率」が記載されるようになったのだ。では、なぜこれまでは記載されていなかったのだろうか。

「理由は大きく2つ考えられます。ひとつは、信託報酬に含まれる費用が投資信託や運用会社によって異なるという点です。例えば、インデックスファンドの場合、連動する指標の利用料を信託報酬に含める商品もあれば、含めない商品もあります。前提が異なると投資家も比較しづらいため、共通のルールで定めた『総経費率』の記載が義務付けられたのだと考えられます」

もうひとつの理由は、低コスト投資信託が大きく増えたことにあるという。

「かつての投資信託の信託報酬は年0.5~0.6%など、現在と比べると高い水準で、総経費に占める信託報酬の割合が大きかったため、その他の手数料はあまり気にしなくていいという風潮がありました。しかし、現在の信託報酬はインデックスファンドを中心に年0.05%など、低コストになっているので、その他の手数料の差を気にする必要が出てきました。だから、すべてのコストを合計した『総経費率』が重要になるのです」

「総経費率」とともに押さえておきたい「実質コスト」

信託報酬も含めたコストの合計を把握できる「総経費率」は、投資信託を比較する際の新たな材料になりそうだが、注意点があるとのこと。

「信託報酬と比べると『総経費率』のほうがコストを正しく把握しやすいといえますが、あくまで“概算”であることを覚えておきましょう。『総経費率』は実質的に発生したコストの合計ではなく、1年間運用した場合にかかるであろうコストを予測して計算したものです」

概算であるため、実際にかかるコストとは差が開くことがあるそう。

「例えば、『eMAXIS Slim全世界株式(オールカントリー)』という投資信託の目論見書に記載されている『その他費用』の比率は0.03%ですが、運用後に公開される運用報告書に記載された『隠れコスト(※)』は0.053%でした。つまり、実際にかかったコストは目論見書での見立てよりも0.023ポイント高かったということです。目論見書の注釈を読むと、『その他費用』は購入時手数料・売買委託手数料・有価証券取引税を除いた金額であることがわかります。実際は、これらの費用が発生したということでしょう」

※事前に金額を示すことができない事後費用のこと。

「総経費率」には「隠れコスト」が含まれないため、実際にはもう少し高くなる可能性があるのだ。頼藤さんは、「『総経費率』は、少なくともこのくらいはコストが発生するものと考えるための目安」と話す。

「実質的なコストを正確に把握したいということであれば、運用報告書に記載されている『実質コスト』を確認しましょう。『実質コスト』は、その投資信託を1年間運用した際に実際に発生したコストの合計が記載されているので、より正確な情報といえます。ただし、運用期間が1年に満たない投資信託は『実質コスト』が記載されないため、『総経費率』を参考にしましょう」

目論見書に記載される『総経費率』と運用報告書に記載される『実質コスト』。それぞれの数字をまとめてチェックする方法はないのだろうか。

「最近は『ザイ・オンライン』など、『信託報酬』『総経費率』『実質コスト』をまとめて記載してくれているサイトもあるので、参考にしてみるといいでしょう。各商品を比較するだけでなく、それぞれの数値を比較することで思いがけない落とし穴を見つけることができるかもしれません」

落とし穴の例として挙げてくれたのは、かつてPayPayアセットマネジメントが運用していた「PayPay投資信託インデックス先進国株式」。

「『PayPay投資信託インデックス先進国株式』の信託報酬は年0.0572%と、同じタイプの投資信託のなかではかなり低い水準でしたが、2023年6月28日から2024年7月10日にかけて発生した『実質コスト』は年1.482%となったのです。ふたを開けてみたら、アクティブファンド並みのコストが発生したということです。信託報酬だけを見て投資した場合、かなりの損失を被ったといえます。そのため、今後は信託報酬だけを見て投資信託を決めるのは避けたほうがいいといえるでしょう」

まずは「信託報酬」をチェックしてから「総経費率」「実質コスト」を比較

「信託報酬」だけでなく、「総経費率」や「実質コスト」も見て比較したほうがいいことがわかったが、運用会社のサイトの商品ページには「総経費率」や「実質コスト」は掲載されていない。とはいえ、目論見書や運用報告書をすべてチェックするのは骨が折れる…。

「まずは『信託報酬』が低いものを選んでみましょう。すべての目論見書や運用報告書を読むのは大変なので、最初は証券会社のサイトなどをもとにピックアップする形で問題ありません。『ザイ・オンライン』のように、ランキング形式で投資信託を紹介してくれているサイトを活用するのもいいでしょう」

気になる投資信託が絞れたら、それぞれの目論見書や運用報告書をチェックするというステップで進めていく。

「1年以上運用されている投資信託であれば『実質コスト』が記載されるので、運用報告書を見てみましょう。運用期間が短い投資信託や新設される投資信託は『実質コスト』が記載されないので、目論見書に記載される『総経費率』を参考にすることになります。同じ指数に連動するインデックスファンドであれば商品ごとの値動きはそれほど大きく変わらないため、『総経費率』や『実質コスト』が低いものを選んだほうが利益を得やすいといえます」

「信託報酬を確認!」が投資信託選びの常識だったが、「総経費率」「実質コスト」といった比較材料が増え、利益を得やすい投資信託を選びやすくなったといえる。将来のためにも、しっかりチェックして検討しよう。
(取材・文/有竹亮介)

お話を伺った方
頼藤 太希
Money&You代表取締役。マネーコンサルタント。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年に現会社を創業し現職へ。ニュースメディア「Mocha(モカ)」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」、書籍、講演などを通じて鮮度の高いお金の情報を日々発信している。『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)など著書累計130万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。
著者/ライター
有竹 亮介
音楽にエンタメ、ペット、子育て、ビジネスなど、なんでもこなす雑食ライター。『東証マネ部!』を担当したことでお金や金融に興味が湧き、少しずつ実践しながら学んでいるところ。
用語解説

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