これから契約する人は得? 既に契約している人も関係あり?
生命保険会社の「予定利率引き上げ」が及ぼす影響とは
2024年末から、生命保険会社の予定利率引き上げが相次いでいる。住友生命保険は2024年12月1日に終身保険の予定利率を1.25%から1.3%に、日本生命保険は2025年1月2日から年金保険の予定利率を0.6%から1%、終身保険の予定利率を0.25%から0.4%に引き上げている。
予定利率の引き上げは、日本銀行(日銀)が進めている金融政策の正常化が関係しているようだが、保険の契約者にはどのような影響が及ぶのだろうか。マネーコンサルタントの頼藤太希さんに聞いた。
「予定利率引き上げ」のきっかけは「日本国債の回復」
そもそも予定利率とは、生命保険会社が契約者に対して約束する運用利回りのこと。生命保険会社は契約者から受け取った保険料を運用して保険金を備えているため、同じ保険金額を目指す場合、予定利率が上がるほど保険料は下がるという仕組みになっている。
「生命保険会社の予定利率引き上げは、3大メガバンク(三菱UFJ銀行・三井住友銀行・みずほ銀行)が普通預金金利の引き上げを発表したのと同じ流れです。日銀が追加利上げを行ったことで、日本国債の利回りが上がったことによるものだといえます」(頼藤さん・以下同)
マイナス金利政策の時代には利回りが年1%まで落ち込んだことがある「日本国債30年」だが、2025年2月現在は年2.3%前後まで上がってきている。なぜ、国債の利回りが、生命保険の予定利率に影響するのだろうか。
「生命保険会社が提供している円建ての保険は、日本国債が主な運用先となっているからです。保険料も保険金も『円』でやり取りされる場合、生命保険会社は『円』のまま運用します。この管理手法はアセット・ライアビリティ・マネジメント(ALM)と呼ばれ、負債のキャッシュフロー(保険金の支払い)に合わせて資産を運用する手法です」
ALMではリスクの最小化を図る運用が行われるため、円建ての保険ではリスクが小さい日本国債が主な運用先となる。そして、日本国債の利回りが上がれば、少ない金額で保険金を備えられるようになることから、予定利率が引き上げられるという流れが生まれるのだ。
保険料が安くなるのは「これから保険契約する人」
予定利率が引き上げられることで、保険料は下がる。つまり、契約者にとっては、より低い保険料で高い保険金を受け取れるようになるというわけだ。
「例えば、1000万円の保険金を受け取る保険を契約する場合、『1000万円』というゴールは変わらないため、予定利率が上がるほど少ない保険料でゴールを目指せるようになるといえます。予定利率が引き上げられたいまは、これまでより低い保険料で契約できるというわけです」
貯蓄型保険においては、解約返戻金や満期返戻金が増える可能性もあるそう。
「予定利率が高いということは、少ない保険料で目標に到達できるだけでなく、以前よりも利益を上げやすくなるということにつながるので、解約返戻金や満期返戻金がアップする可能性があるといえます」
ただし、注意点があるという。予定利率引き上げにより保険料が安くなる、解約返戻金や満期返戻金が増えるといったプラスの影響を受けられるのは、これから契約する人に限られるという点だ。
「基本的に保険は、住宅ローンの『固定金利』と同じと考えましょう。『固定金利』で借りた場合、市場金利が変動したとしても契約している金利が変わることがないように、保険の予定利率も契約した時点で提示された利率から変わることはありません。そのため、既に保険を契約している人は、今回の予定利率引き上げの影響を受けることはありません。なお、更新タイプの保険に加入している場合は、更新日以降に新たな予定利率が適用されます」
保険契約は“もう少し様子を見る”のもあり?
予定利率の引き上げによって保険そのものの注目度が高まっているいま、住友生命・日本生命以外の生命保険会社も同様の動きを見せるのだろうか。
「第一生命は『予定利率を引き上げる予定はない』という旨のコメントを出していますが、2025年4月1日以降『すえ置金』の利率を年0.1%から年0.3%に引き上げると発表しました。『すえ置金』とは、満期時や死亡時に支払われる保険金を受け取らずに保険会社に預けることで、利息が付く制度です。この利率を上げるということは、予定利率を上げる可能性もゼロではないと考えられます」
各社の予定利率が引き上げられることで、保険も資産形成の選択肢のひとつとなってくるだろうか。
「円建ての個人年金保険はマイナス金利政策の影響で低金利になってしまったため、人気が下がっていましたが、予定利率の引き上げで保険料が下がることによって、『為替リスクなしで資産が増える商品』と評価され、人気が再燃しそうだと考えています。ただし、保険料を支払っている間に解約すると元本割れするリスクがあるので、慎重に検討しましょう」
各社の個人年金保険をチェックして、より予定利率が高いものを選ぶといいかもしれない。
「ただ、契約はもう少し待ってもいいでしょう。なぜかというと、今後さらに予定利率が引き上げられる可能性があるからです。先述したように、予定利率は契約時から変わらないため、契約後に予定利率が上がると損をした気持ちになりますよね。市場金利の動向を見守り、金利が下がりそうなタイミングで契約したほうがいいでしょう。このまま日銀が追加利上げを行っていったら、さらに魅力的な保険が出てくることも考えられるので、アンテナを張って待ってみるのもありだと思います」
資産形成という観点ではあまり注目されなかった保険だが、今後は選択肢のひとつになるといえそうだ。保険会社の動きを見ながら、ライフプランにマッチしそうな保険を見つけておくのもいいだろう。
(取材・文/有竹亮介)