負債多めの令和の若者、さてどうする資産形成(5)

令和の若者は「返貯両道」

提供元:三井住友トラスト・資産のミライ研究所

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前回書いたとおり、負債を保有する若年世帯の平均負債残高は2,500万円を軽く超えていますが、負債の返済と並行して、実は貯蓄も着々と増やしています。いったいどのような形で「返済」と「資産形成」を両立させているのでしょう。

所得の増加+両立意識=返貯両道

20代~30代の住宅ローン保有世帯(以下、「住ロあり世帯」)と住宅ローン非保有世帯(以下、「住ロなし世帯」)の家計収支を覗いてみると、下の図表1のようになりました 。

20~30代住ロあり世帯の可処分所得は、世帯主、配偶者両方の勤労収入(給料)が増えたことにより2010年から23年にかけ10万円弱増加しましたが(43.1万円→52.4万円、図表1グリーン部分)、借金純減額(負債返済)は1万円程度の増額にとどめ(6.5万円→7.4万円、同 ピンク部分)、消費もほとんど増やさず(26.4万円→27.3万円、同 オレンジ部分)、増加した所得の多くを金融資産の積み増しに回しました(7.9万円→19.2万円、同 ブルー部分)。

預貯金純増額はまだ住ロなし世帯に追い付いていないものの、有価証券純購入額は23年時点では月々5,111円と、非保有世帯の3,028円を上回っています(同 紫部分)

【図表1】住宅ローンの有無別にみた家計収支(20~30代 2人以上勤労者世帯)

(出所)総務省「家計調査」
※本稿に使用した統計(総務省「家計調査」)には「負債」の有無別の家計収支のデータはないため、「住宅ローン」の有無別の勤労者世帯の収支を分析しました。また、20代については、住宅ローン保有世帯の調査世帯数が極めて少なく、統計的な信頼性に欠けるため、20代世帯と30代世帯の合計で分析しました。

所得の増加が「負債返済と資産形成の両立」の土台となっていることは確かです。しかし、両立を実現させたのは、増加した所得を「返済の大幅な増額」ではなく「返済の小幅な増額」と「資産形成への大注入」に振り分け、リスク資産への投資も積極化させるーという今どきの若者の采配と言えるでしょう。

三井住友トラスト・資産のミライ研究所が実施した「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」(2024年)でも、住宅ローンを返済中の若年層(18~39歳)の1/3(33.8%)が、住宅ローン返済中から資産形成に取り組むべき、言い換えれば、返済と資産形成を同時並行で行っていくべきと考えており、3割弱(28.1%)が実際に返済と資産形成を両立しているという結果が出ています(図表2)。

【図表2】若年住宅ローン保有者の「ローン返済と資産形成」に関する考え方と実際の行動

(注)対象は18~39歳住宅ローン保有者
(出所)図表2~4全て 三井住友トラスト・資産のミライ研究所「住まいと資産形成に関する意識と実態調査」

また、NISAやiDeCo、企業型確定拠出年金(企業型DC)といった資産形成のための優遇制度の認知率や利用率も、総じて住ロあり世帯の方が高く、負債を保有する若者の資産形成に関する知識のアンテナの高さや活用意欲の旺盛さがうかがわれます(図表3)。

【図表3】若年世帯の住宅ローンの有無別 資産形成のための制度の認知率と利用率(左図は認知率、右図は利用率)

対象は、左図の認知率が18~39歳の持ち家購入世帯
(注1)。右図の利用率が18~39歳の持ち家購入かつ資産形成への取り組みありの世帯。
(注2)「住宅ローンなし」は、ローン返済済み+持ち家購入時にローン利用せず。

「世代要因」と「外部環境要因」があいまって

負債を保有する若年層の間では、文武両道ならぬ「返貯両道」、「ある程度のリスクテイクもOK」が一般的になり、「まずは負債返済、資産形成はその後」とか「所得が増加したら、負債の返済に優先的に充てるので、資産形成にまで回らない」といった考え方は、過去のものになりつつあるのかもしれません。

こうした「負債返済と資産形成」についての意識変化は、現在の若年層が、(1)老後の生活資金は自らの資産形成でという「自助努力マインド」が刷り込まれている世代であり、(2)金融教育の受講経験がある人が相対的に多い世代であり、(3)リスク資産への投資アレルギーを持つ人が少ない世代であるという「世代要因」と、(4)NISA、新NISA、iDeCoといった資産形成のための優遇税制や、(5)若年層と親和性が高い金融機関のオンライン取引、スマートフォンのポイント投資アプリの整備・拡充といった「外部環境要因」によってもたらされていると考えられます。

次回、最終回は、若年層の「返貯両道」の今後について考えてみたいと思います。

(筆者:三井住友トラスト・資産のミライ研究所 主任研究員 青木 美香)

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