投信やETFという括りを超えた商品に
「オルカンはなぜ日本の投資シーンを変えたのか」生みの親である三菱UFJアセット・代田秀雄氏が口にした要因
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個人投資家が“伴走”しあう、日本的スタイルの発展を
岡崎 なぜオルカンのように広く支持される商品を作れたのか、代田さん自身はどう考えていますか。
代田 1つ挙げるとすれば、投資家との対話に力を入れてきたことが大きかったと思います。投資ブロガーとのミーティングは頻繁に行っていますし、金融庁が行った個人投資家との意見交換会「つみたてNISA Meetup」などにも積極的に出向き、皆さまの声を商品に反映してきました。
オルカンを作る時も、いろいろなハードルがあったため、まずは先進国・日本・新興国という「三地域分散」の投信を作りました。しかし投資家とのミーティングに行くと、「三地域ではなくオルカンが欲しい」という要望が寄せられたのです。その声に応えようとしました。
岡崎 代田さんにとって良い商品、作りたい商品とはどのようなものですか。
代田 私たちが行っているのは「長期の資産形成」の応援であり、それに資する商品を作りたいと思っています。短期投資の利益は一時の満足感で終わってしまうかもしれませんが、20年、30年という長期投資から得られる大きな利益は人生を変える可能性があります。その後押しをする商品とは何か、それを常に考えていますね。
岡崎 長期の資産形成は、人生の選択肢を増やしたり、新しいステージに挑戦したりということにつながります。今おっしゃった思いには深く共感するところです。
代田 実現したいのは、投資を広める・深める・続けてもらうことです。「広める」については、NISAの口座数が2500万を超えたというニュースがありましたが、できれば5000万ほどにまで増やしていきたい。
「深める」については、先ほどお話ししたように、リスクの少ない商品で投資を知り、次第に自分のスタイルを見つけていくことを指します。「続けてもらう」とは、短期的な満足ではなく、長期の資産形成をしてもらうことです。
岡崎 続けてもらうという点では、アメリカの資産運用を見ると、個人がファイナンシャルプランナーなどのアドバイザーから資産運用の助言をもらったり、時には資産運用自体を任せたりというのが一般的です。一時の下落があっても、こうした“伴走者”が「資産運用を続ける重要性」を伝えるのですが、日本は個人が各々で投資を行うのが主流で、相場の下落を機にやめてしまう人も多い。この点をどう乗り越えていくかが鍵ではないでしょうか。
代田 おっしゃる通りです。そこで期待したいのは、投資家のコミュニティです。たとえばリーマン・ショックの時、あの状況でも積立投資を続けることができた投資家の多くには、同じように積立投資をしている仲間がいたと聞いています。
最近、当社でも、「オルカンカフェ」というコミュニティを開設しました。日本で長期にわたって投資を続けてもらうポイントは、もしかすると仲間なのではないでしょうか。
岡崎 確かに、個人投資家の伴走者が個人投資家という形はあるかもしれません。海外とは違う、日本ならではのモデルの進化に期待したいですね。
投資の普及がもたらす「裏の影響」に向き合いたい
岡崎 ここ数年でさまざまな変化があった日本の資産運用業界ですが、代田さんはどう見ていますか。
代田 日本では今、「インデックス投資革命」が起きていると思います。ETFを除いた公募投信におけるインデックスファンドの割合は、2014年時点で約10%でしたが、現在は約35%に増えています。先ほどの話にあったように、アメリカではアドバイザーの助言によりインデックス投資の普及が進みましたが、日本では間違いなく投資家自身が、自らの選択でこの動きを作り出しました。商品も増加し、投資家の選択肢も増えましたよね。ETFもその1つだと思います。
岡崎 ちなみに、代田さんが考えるETFの良さはありますか。私たちとしては、リアルタイムで価格がわかり、場中ならいつでも取引できる点などを説明していますが。
代田 1つ挙げるなら、分配金の違いではないでしょうか。インデックス投信では分配金が出ない商品が多いのに対し、ETFは利金・配当金部分を毎年分配する仕組みになっています。投資家にはキャッシュで分配金が入るので、生活費の補填などに使いやすいでしょう。
投信の場合は、分配金をキャッシュにせず、ファンド内で再投資していくことがあります。その違いはポイントだと思いますね。
岡崎 だからこそ、投資家は用途に合わせて投信とETFを選択することが重要かもしれません。では最後の質問ですが、代田さんが今後チャレンジしたいことはありますか。
代田 投資の広まりがもたらす“裏”の影響について、対策を講じたいと思っています。日本が資産運用立国を掲げる中で、新しいNISAをはじめ、投資が世の中に浸透してきました。私たちも一定の貢献ができたと思います。
しかしその裏では、投資をうたった詐欺のリスクが高まっています。金融業界にいる私たちは、この問題と向き合わなければなりません。特に予防という面からは、投資教育の延長でもあり、ぜひ業界全体で力を合わせていければと思います。
岡崎 おっしゃる通りです。こうした問題の解決は東証の責務でもありますし、皆さんと連携しながら歩みを進めていけたらうれしいです。そうして、日本の資産運用の健全な発展を目指したいと思います。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2025年3月現在の情報です