PwCコンサルティングに聞く、これから期待される事業領域
世界で活気づく「宇宙ビジネス」の可能性、日本の強みは“要素技術”にあり
宇宙ゴミへの投資は「世界の議論」に委ねられる
数ある宇宙ビジネスの中でも、特に今後の成長が期待されるのはどんな領域なのか。渡邊氏は、まず「HAPS」という言葉を口にする。
「HAPS(High Altitude Platform Station)とは“成層圏プラットフォーム”のことで、宇宙空間に入る手前の成層圏(高度約10~50km)に無人航空機を飛ばし、それを基地局のような通信拠点にします。携帯電話でいえば、従来の地上基地局と衛星に加えて、成層圏にもネットワークの結節点ができるため、通信品質の向上が期待できます」
注目すべき領域は他にもある。その1つが「宇宙ゴミ(スペースデブリ)」に関するビジネスだ。宇宙ゴミとは、宇宙空間に漂っている運用終了後の衛星や役目を終えたロケットといった人工物、あるいはその残骸などのこと。これらは年々増えており、軌道上を周回しているものも少なくない。衛星などに衝突するリスクもあり、宇宙活動の妨げになるため、これらをなくすことが重要課題となっている。
「宇宙ゴミに関連するプレイヤーは増えており、特殊な技術によって宇宙ゴミを捕獲したり軌道上から外したりとアクティブに減少させようとするケースと、打ち上げ後のロケットの部品や衛星などが将来の宇宙ゴミにならないよう防止するシステムを開発しているケースの2つが主流となっています」
この領域への投資が加速するかどうかは、今まさに世界中で行われている宇宙ゴミの国際ルールや標準化に関する議論が鍵を握る。「これらの進展次第では、宇宙ゴミへの取り組みが“事業者の果たすべき責任”になります、その場合は、資金の流入にも変化が出てくるでしょう」。
近年、多くの企業が取り組んでいる「CO2削減」についても、世界的な方針や規制ができてから急速に活動が加速した。「宇宙ゴミでも同様の動きが起きる可能性はあります」とのこと。どの機関がイニシアチブを取り、どの方向に議論が進むのか。進捗を注視する必要があるという。
その他に成長が期待できる領域として、先述した「ロケット打ち上げ」関連もあるという。宇宙に送る衛星は年々増えており、それはロケット打ち上げの頻度が増加することも意味するからだ。
「さらに中長期の視点では、宇宙発電も見逃せない領域です。サービス化を検討している事業者は国内外に多数おり、たとえばソーラーパネルによる発電を宇宙で行い、その電力を地上に送って使用する、または宇宙にある機器に活用することが考えられます」
日本の強みは“要素技術”の担い手がいること
世界中で活気を帯びる宇宙ビジネスだが、日本もこの市場での成長を目指している。経産省が2024年に公表した資料によると、日本の宇宙ビジネスの市場規模は4兆円ほどであり、政府は2030年代に約8兆円まで拡大することを目指している。
では、世界の宇宙ビジネスにおいて、日本は現在どのようなポジションにいるのか。どのような領域で強いのか。渡邊氏はこう分析する。
「まず日本の特色として、上・中・下流それぞれにプレイヤーがいることが挙げられます。これは世界でも珍しいでしょう。また、宇宙ビジネス全体の枠組み設計や、そこで得られたデータなどから私たち生活者にサービスを提供するのは海外のプレイヤーが強いかもしれませんが、日本では、衛星やロケット、あるいは宇宙発電などの次世代ビジネスを構成する個々の技術、いわゆる“要素技術”を開発しているプレイヤーが多数います。こうした点が強みになるのではないでしょうか」
空の向こうのビジネスが隆盛する中で、日本企業はどのように存在感を示していけるのか。今後、宇宙ビジネスに携わる国内企業への取材を通じて、その問いを深掘りしていきたい。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2025年4月現在の情報です