エンゲル係数の上昇は「生活水準の低下」を意味するらしい?

エンゲル係数が上がっているのは日本人の「節約意識」が高いから!?

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金銭感覚は「社会に出たときの状況」で決まる?

「失われた30年が後を引いている日本では、今後さらに実質賃金が上がったとしても、個人消費が増える可能性は低い」と、永濱さんは話す。

「2009年にアメリカで発表された論文では、『その人の価値観は、社会に出たときの状況に一生左右される』とされています。つまり、90年代後半以降、不況の最中に社会に出た世代の方々がデフレマインドから脱却できず、財布の紐が固くなってしまうのは、当然のことといえるかもしれません。社会科学は人の心理が関係するため、『実質賃金が増えれば消費が増える』といったシンプルな動きにはならないのです」

そもそも実質賃金の上昇自体も、すべての人に関係のある話というわけではない。

「ニュースなどで春闘の賃上げ率が取り上げられることがありますが、これが関係するのは労働組合の組合員が中心です。非組合員や春闘と関係のない中小企業に勤めている人の賃金には大きく影響しません。また、賃金と物価の上昇が進むほど、年金生活者にも影響が出ます。年金額の伸びを抑えるマクロ経済スライドによって、年金額は物価ほど上がらないため、実質的に受給額は減るといえます」

エンゲル係数が下がった要因をひもといていくと、現在の日本の課題が見えてくるのだ。

「このまま消費性向が下がったままでみんながお金を使わないと、企業も儲けが出にくくなるため、若年層の雇用や所得に影響が出て、将来の不安が払しょくされません。そのため、未婚率が高まり、出生率も回復しないかもしれない。日本が変わっていくべきときにあるのだといえます」

節約志向を変えるカギは「恒久的な政策」

単純に賃金を上げるだけでは、節約志向が弱まる可能性は低い。では、どのような政策や変化が効果的といえるのだろうか。

「実質賃金ではなく、手取りを増やすような政策を国が打つことができれば、状況が変わる可能性はあると思います。2024年は可処分所得が増えましたが、その最大の要因は定額減税があったからです」

定額減税とは、納税者を対象に所得税から3万円、住民税から1万円が控除される制度のこと。ただし、長く継続されるものではなく、2024年分の所得が対象となる1年限定の措置とされた。

「1回きりの減税では、仮に可処分所得が上がったとしても、その後下がることを考えて貯蓄に回してしまう人がほとんどでしょう。一時的な制度では、消費性向は上がらないのです。現在議論されている基礎控除の引き上げが実現し、恒久的な制度として施行されることがあれば、長きにわたって可処分所得が上がることになるので、多くの人が『お金を使おう』という気持ちになるかもしれません」

食料品価格の上昇だけでなく、根底にある日本人の節約志向まで見ることができる「エンゲル係数」。生活に直結する情報として、今後も注意深く見ていくと、これからの社会状況を予想できるかもしれない。

(取材・文/有竹亮介)

お話を伺った方
永濱 利廣
第一生命経済研究所 経済調査部 首席エコノミスト。1995年4月に第一生命保険に入社し、1998年4月に日本経済研究センターに出向。2000年4月より第一生命経済研究所経済調査部に所属し、2016年4月より現職。総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師なども務める。著書に『経済指標はこう読む』『エコノミストが教える経済指標の本当の使い方』など多数。
著者/ライター
有竹 亮介
音楽にエンタメ、ペット、子育て、ビジネスなど、なんでもこなす雑食ライター。『東証マネ部!』を担当したことでお金や金融に興味が湧き、少しずつ実践しながら学んでいるところ。

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