米中間選挙に向けて 政策修正のタイムライン

提供元:日興アセットマネジメント

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トランプ大統領は、消費の低迷を引き起こして来年の中間選挙で大幅に議員数を減らすことを望まないと想定する。そうであれば、もっともありそうな政治的行動は、減税や補助金支給などと、関税率の素早い引き下げという現実的な妥協である。減税については、すでに個人所得税の減税の延長に向けた動きは進んでいるとみられるが、これは単なる延長なのでGDPへのインパクトはない(なくなるとマイナス)。注目は、法人税減税や補助金支給など、関税が悪影響を与える産業や企業への支援策である。これらの多くは議会との折衝が必要で、今後年末に向けて進められるとみている。

関税率の引き下げについては、トランプ政権はこれから各国と折衝するとしており、例えばメキシコやカナダのように国境警備や犯罪抑止策強化など貿易不均衡と関係なく関税引き下げが可能となりそうなケースもある。日本についてはアラスカの天然ガス開発や、防衛装備の輸入拡大の約束、主要な輸入業者の米国生産拡大の約束などが組み合わせられるだろう。自動車、半導体など業界ごとの関税率も含めて複雑な交渉となり、業界や企業により勝ち負けもあるだろうが、全体としては現状のまま長く続くとは考えにくい

現状の保守派の考え方は今後時間をかけて揺り戻しがあるとみている。「普通の家族が自立して生活を営む能力、子どもを育てる能力が低下し、地域のコミュニティが弱くなっていることを、何よりも問題視する」(朝日新聞4月1日付)キャス氏は、生産(第二次産業)中心の社会の復活が必要であり、過剰生産の中国への関税による対抗が必要であるとの趣旨を述べている。しかし、製造業中心の経済社会は、相対的にサービス経済(第三次産業)中心の社会よりも生産性(一人当たりの所得)が低い傾向にある。

もう一つの問題は、中国の生産過多(例えば鉄鋼・アルミなど)は、そもそも権威主義・共産党の命令などのシステムに原因があるのではなく、中国の発展途上の経済システムによる一時的な現象であったと判断できる。いまの中国は、鉄鋼やアルミの生産過多が経済状態の改善につながるとみていないことはすでに明白だ。つまり、新しい保守派は、過去の状況にとらわれており、現状を正しく把握していない。このような認識が徐々に支持されなくなり、今後残るのは、「世界の警察ではない」「世界経済の発展のために自由貿易をリードしない」米国という点になるだろう。経済や軍事のブロック化が進む恐れはあるが、経済面での悪化につながることとは言えない。

市場の見方は修正が続く

トランプ政権の政策は、現時点が株式市場にとって一番悪い状態だろう。トランプ氏も「関税の発表に対する市場の反応は予想されていた」(ブルームバーグ4月4日付)としている。政権はこれから、来秋には人々が幸せになれるような政策の修正を行うと予想する。

関税率発表後の米長期金利低下という市場の反応を見ると、インフレ懸念よりも消費悪化懸念が強いコロナ禍に端を発するインフレは徐々に収まりつつあり、その傾向は続くとみている。政策変更などを見極めて関税引き上げがインフレ的(需要が一定で供給不足)だと考えるエコノミストが少し減ることで、米FRB(連邦準備制度理事会)が政策金利引き下げに回帰するのは今年後半かもしれない

当面は、前倒し需要の反動減による消費悪化などで金利低下(インフレ低下)と米ドル安傾向が保たれるだろう。米長期金利は4%前後を維持するだろうが、政策金利と短期金利は、関税率引き上げ後のインフレの落ち着きを確認しながら今年末に向けて緩やかに低下するだろう。

米国株市場の足元での下落は、ハイテク産業への行き過ぎた期待の調整と消費懸念の二つの側面を持っているが、半導体などハイテク産業については、経営者の自信にあふれるコメントの継続と四半期ごとの順調な収益の成長が示されることで、市場評価はゆっくりと回復するだろう。目先、輸入品への最低10%の関税率引き上げは、消費対象の変更などの調整や輸出国の通貨安などで結果として緩やかになり、政権の政策の柔軟化とともに消費者態度の回復につながるとみている。しかし、消費者心理や、設備投資に関する企業経営者の心理などの予想が難しいタイミングではある。

日本株市場は、ハイテク産業については米国と類似の状態にある。また自動車など輸出関連は、生産拠点の米国への移設などで関税を避けられるのか、政府の対応で関税が引き下げられるのかといった点に依存するので、見極めには少なくとも数ヵ月必要だろう。それまで市場はさまざまな情報に一喜一憂せざるを得ない

ただし、賃金の前年比伸び率はしばらく3%程度の上昇が続き、国内消費が経済や株式市場をけん引する可能性はある。日銀が不透明感から政策金利の引き上げを先送りすれば、銀行株上昇も先送りされる可能性はあるが、金利敏感株には朗報となる。現状は、マクロ経済の不透明感への反応から先物市場での売買が全体を動かしブレが大きくなりやすいが、決算発表などを通じて個別銘柄に関する情報が増えれば、利益予想の上方修正などを織り込み、回復に向かうだろう。

(日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト 神山直樹)

当資料は、日興アセットマネジメントが情報提供を目的として作成したものであり、特定ファンドの勧誘資料ではありません。また、弊社ファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。なお、掲載されている見解および図表等は当資料作成時点(2025年4月8日)のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。投資信託は、値動きのある資産(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)を投資対象としているため、基準価額は変動します。したがって、元金を割り込むことがあります。投資信託の申込み・保有・換金時には、費用をご負担いただく場合があります。詳しくは、投資信託説明書(交付目論見書)をご覧ください。

著者/ライター
神山 直樹
2015 年 1 月に日興アセットマネジメントに入社、現職に就任。1985 年、現 SMBC 日興証券株式会社にてそのキャリアをスタート。日興ヨーロッパ、日興国際投資顧問株式会社を経て、1999 年に日興アセットマネジメントの運用技術開発部長および投資戦略部長に就任。その後、ゴールドマン・サックス証券株式会社やモルガン・スタンレー証券株式会社、ドイツ証券株式会社、メリルリンチ日本証券株式会社において、チーフ・ストラテジストなどとして主に日本株式の調査分析業務に従事。
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