投資の掲示板で起きやすいトラブル

デマ情報で“損”をしたらどうする? 『しょせん他人事ですから』の監修弁護士に聞くネット投稿との付き合い方

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「悪いことをしている自覚」が本人にない

――ネットトラブルで特に多いもの、気をつけた方がいいものは何ですか。

清水 やはり人に対する誹謗中傷ですね。プロレスラーの木村花さんの問題が起きた時、誹謗中傷をしてはいけないという認識は世の中に広まったはずですが、その後も実情は変わりません。たとえば投稿主は芸能ニュースに言及しているつもりでも、その内容はニュースではなく芸能人への攻撃になっているケースが見られます。

「死ね」や「いなくなればいい」といった言葉や人格を否定するコメント、あるいはそれを繰り返す行動は、人が持っているさまざまな権利を他者が侵す「権利侵害」の中の「名誉感情侵害」に当たる可能性があります。容姿に対する否定的な言葉も該当しますね。

――どうして誹謗中傷は減らないのでしょう。

清水 「悪いことをしている」という自覚が本人にないからです。自分が思ったことを発信しているだけ、だと。もちろん匿名だから起きている面も大きいでしょう。

誹謗中傷に加えてもう1つ、ネットトラブルで多いのは「デマの発信・拡散」です。有名なところでは、京都アニメーションの放火殺人事件をめぐり、NHKが事件に関与していたかのような虚偽情報がネットにあふれました。これらのまとめ記事を載せたサイト運営者は約400万円を支払うよう判決で命じられています。

――よく言われることですが、デマ情報をリポストした人、つまり拡散した人も責任を問われる可能性があるのですか?

清水 十分にあり得ます。デマの被害者がリポストした人も含めて訴えた場合、責任を追及されることは考えられるでしょう。現実的にはあまりそういう訴訟は起きていませんが。

投資の掲示板で注意してほしい「デマ」とは

――投資界隈でも、こうしたネットトラブルはあるのでしょうか。

清水 決して少なくありません。たとえば投資のネット掲示板では、誹謗中傷が行われているケースも見られます。特定の会社やその経営者に対する攻撃もあるでしょう。

さらには投資の掲示板でデマを流す事例も見られます。特定の会社やその経営陣に対して、根拠のない情報を載せるといったことですね。

――なぜそのようなデマを発信するのでしょう。

清水 いろいろな理由が考えられますが、なかには企業の「経営権争い」が絡んでいる場合も少なからずあります。仮に経営陣の刷新を狙う集団がいたとして、その動きを促すために現社長の悪い情報を流すなど。株主は経営体制に意見できる力を持っていますから、投資の掲示板で拡散すると影響が大きいのです。

もちろん、虚偽の情報を流された企業は、発信者や拡散者を訴えることが可能です。

――ちなみに興味本位で聞きたいのですが、こうしたデマを私たち個人投資家が信じ、それによって株式投資で損をした場合、情報発信者の法的責任を問うことは可能なのでしょうか。

清水 状況によるので一概には言えませんが、基本的には難しいのではないでしょうか。何かしらの情報をもとに株式投資で取引して損を被ったのは、あくまで個人の判断であり“結果論”です。

先ほど話したように、デマ情報を流された会社は名誉毀損や業務妨害などの権利侵害で訴えることが可能です。しかし、投資家はその情報で権利を侵害されたわけではなく、情報を見て自分で起こした行動の結果が“損”なので、発信者への責任追及は難しいというのが一般論ではないでしょうか。

――そういう意味では、ネットの情報を鵜呑みにせず、きちんと自分で精査することが重要ですね。

清水 そうですね、情報が正しいかどうかをまず確認することが大切です。そして自分が投稿する時は、誰かを傷つける可能性がないかを考えてほしいと思います。権利侵害は相手との関係性や会話の文脈で変わる分、判断が難しいのですが、グレーなものは発信しないというスタンスが安全です。勢いで投稿せず、一度立ち止まることが大切ではないでしょうか。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2025年4月現在の情報です

お話を伺った方
清水 陽平
弁護士
2004年早稲田大学法学部卒業後、2007年弁護士登録。2010年に法律事務所アルシエンを開設。ネット中傷や炎上の対策、メディア対応を専門とし、Twitter、Facebookに対する発信者情報開示請求について国内第1号事案を担当。メディアへの出演やコメント多数。
著者/ライター
有井 太郎
ビジネストレンドや経済・金融系の記事を中心に、さまざまな媒体に寄稿している。企業のオウンドメディアやブランディング記事も多い。読者の抱える疑問に手が届く、地に足のついた記事を目指す。

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