企業にも投資家にも重要な考え方「ファンベース」 -前編-
いまこそ日本企業に必要な「ファンベース」とは…?
- TAGS.
「製品の機能・価格」だけを追求すると企業は疲弊する
企業がファンベースを取り入れるには、従来の考え方を変える必要があるという。
「これまでのビジネスモデルは『BtoB』『BtoC』と表現されてきましたが、これからは『BwithF(Business with Fan)』が重要になると考えています。一方的に商品やサービスを与えるのではなく、ファンと共創していく。その関係をきちんと築くことができれば、ファンが離れることはなく、企業活動も続けていけるといえます」
佐藤さん曰く、「現代の日本企業の多くはファンベースと逆の方向に向かっている」とのこと。
「もともと日本の商店は、顧客の台所まで行って御用聞きをやっていました。これはまさにファンベースといえる取り組みです。しかし、マスメディアができて、いっぺんに情報を発信したほうが効率的だという考え方が一般的になり、大量伝達・大量生産・大量消費の時代になってしまった。その結果、企業の理念よりも製品の機能性や安さが重視され、価格競争のような消耗戦になっているのです」
そんないまだからこそ、「ファン」と向き合い、その企業らしさを伸ばしていけたところが生き残っていくのだといえる。
「振り返ってみると、効率化されたマスメディアの時代はたった100年弱で、歴史から考えるとむしろ大量伝達・大量生産・大量消費のほうが特殊なのかもしれません。ビジネスの基本はファンベースであると、立ち返るときに来ているのだと思います」
ファンの心をつかむのは「企業が持つストーリー」
ファンベースで注意すべきなのは、「ファンマーケティング」や「ファンビジネス」とは異なるという点だ。
「ファンから儲けようとすると、ファンベースはうまくいきません。ファンを感情のある人間として考え、大切にすることで、結果的にLTV(顧客生涯価値)がじわじわと上がり、口コミによって新たなファンが増えていくものです。そのために重要なのは、製品の機能性や価格だけでなく、企業やブランドが持つストーリーです。このストーリーに共感してくれる人がファンとなり、企業を存続させるキーパーソンとなってくれます」
ストーリーとは、企業が大切にしている理念や商品開発に臨む姿勢、ブランドが目指す世界などが挙げられる。例えば、環境問題に意欲的に取り組んでいる企業がその姿勢を打ち出すことで、共感する人がファンとなり、世界中の製品のなかからその企業の製品を選んでくれるようになるだろう。
一般的には新規顧客獲得が優先されがちだが、ファンと向き合い、長い関係を築くことが先決だという。
「新規獲得などの短期的な勝負は、ファンとの関係を築いてからでも遅くないと思います。商品開発が多少遅れたとしても、関係が強ければファンは待っていてくれるはずです。ファンベースを取り入れたからすぐに業績が上向きになるわけではなく、5~10年かけて関係を築いていくものと捉えることも大切です。パレートの法則を踏まえると、ファンと向き合うことで業績が悪化するとは考えにくく、逆に安定化に進んでいくでしょう」
企業によっては、ファンとの関係を維持していくなかで、ファンが株主になるケースもあるそう。
「その企業が好きで株まで買った株主は、最強のファンといえます。ファン株主は投機目的ではなく、ずっと保有し続けたいと思って株を買う方が多いので、企業にとってはとても強力な支えです。カゴメの株主は、カゴメの商品を一般消費者の13倍購入しているという話を聞いたことがあります。企業はファン株主のこともちゃんと見て、経営方針などを考えたほうがいいでしょう」
企業活動の基礎となり得る「ファンベース」。後編では、企業の具体的な取り組みについて、佐藤さんに伺う。
(取材・文/有竹亮介 撮影/森カズシゲ)