本から開く金融入門

【三宅香帆の本から開く金融入門】

富裕層のリアルを垣間見る?『100億円相続事典 1億円との徹底比較で見えてくる違い』

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富裕層の相続がエンタメになる本

今回はちょっと変わった本をご紹介しよう。レガシィマネジメントグループによる『100億円相続事典 1億円との徹底比較で見えてくる違い』は、相続と富裕層のリアルな世界を描いた一冊である。本書は、資産100億円以上の超富裕層と1億円クラスの富裕層を比較しながら、彼らの相続や資産管理の考え方を解説する。……どう考えても庶民には縁のない本である。

が、この本はもはや実用書というよりもエンタメとして「相続」を解説しているところが面白すぎるな、と笑いながら読んでしまった。だって想像して欲しい。100億円が引き継がれる生活。……まったく想像できない。私は。1億円も意味がわからないのに、100億円? ファンタジーの世界である。

そう、ファンタジーなのだ。本書は、庶民からするとファンタジーになってしまうような富裕層の生活において「相続」などの手続きがどのようになされているか、用語ごとに解説しつつ、彼らの生活や生き方を伝える本となっている。もはや富裕層の相続をエンターテイメントにしてしまおうという、ちょっとしたミーハーな欲求を満たしてくれる本なのである。

100億円クラスになると財産を引き継ぐだけでなく、どのように維持・拡大するかを具体例とともに紹介している。正直役に立つかといわれると縁遠い世界なのだが、読んでいて知らない世界を垣間見る面白さはたしかにある。こんな話、本でしか知ることができない、と思える一冊である。

相続とは何か?

相続という言葉を聞くと、「自分には関係ない」と思う人も多いかもしれない。しかし、本書を読むと、相続が「誰にでも関わる問題」だと気づかされる。

本書では、100億円クラスの相続における課題や戦略だけでなく、相続の基本的な仕組みも解説されている。

例えば、富裕層の間では「いかに資産を分散させながら、子どもや孫に引き継ぐか」が大きなテーマになる。資産が大きくなるほど相続税の負担も増し、不適切な分配を行うと資産が短期間で減少してしまう可能性がある。そのため、多くの超富裕層は生前贈与や信託などを活用し、計画的に資産を移転するのだ。

一方、1億円規模の相続では、「争族」と呼ばれる相続トラブルが発生しやすい点が指摘されている。

正直、庶民にとってはもしかするとこちら側の方が役に立つ知識かもしれない。万が一将来親族に何かあった時、無用なトラブルを避けるためにも、相続の仕組みを若いうちから知っておくことは案外重要である。

本書では、実際の事例を交えながら、相続の問題点と対策を解説する。それは縁遠いようでいて、案外自分たちの身近な問題でもある。

忙しいなかで、いかにお金と向き合うのか

本書の最大の特徴は、資産100億円と1億円の違いを明確に示しながら、さまざまな財産管理の具体例を挙げていることである。

ここからよくわかるのが、みんな忙しいなかで、自分の資産や健康をコントロールしつつ生きているのだ、という当たり前の事実である。

富裕層というとどんな優雅な暮らしをしているのか、と私などは思ってしまう。時間がありあまっているのではないか、と。しかし実はそうではないらしい。彼らには彼らの忙しさがある。だからこそ専門家に依頼しながら、資産管理もしているし、次世代への相続もさまざまな要素を検討しつつおこなっている。富裕層だって忙しい、らしい。本当のところはどうかわからないけれど。

「時間が最も貴重な資産」と考える人は、やはり多い。それはきっと今生きているどんな人にとっても同じなのだろう。――忙しいなかで、皆、お金と向き合っている。そんな普遍的な事実も理解できる本となっている。

人生は長いが、時間は有限だ。いくらお金があっても、人間関係の揉め事があったりしては、幸福度が下がる。何に時間を使い、お金を使うのか、日々その選択をしているという事実は富裕層も私たちも変わらないのか、と本書を読んで思う。

実際にどこまで役に立つかどうかはわからないが、それでも覗き見の気持ちで読むと案外面白い、相続の世界を教えてくれる一冊である。

著者/ライター
三宅 香帆
京都大学大学院人間・環境学研究科卒。会社員生活を経て、現在は文筆家・書評家として活動中。 著書に『人生を狂わす名著50』『文芸オタクの私が教える バズる文章教室』『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』などがある。フリーランスになったことをきっかけに、お金の勉強を始めている。

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