リーダーを見て会社の今後を予測する
「経営者」の分析によって未来の大型株を探す、野村アセット・田中啓章氏が実践する成長銘柄の発掘法
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米国株や全世界株への投資が話題になる中、「日本株の魅力」はどこにあるのか。これから期待できる国内の産業や投資テーマはあるのか。こうした質問を“日本株のスペシャリスト”にぶつける連載「ニッポン、新時代」。今回お話を聞いたのは、日本株の“成長銘柄”発掘を得意とする野村アセットマネジメント シニア・ポートフォリオマネージャーの田中啓章氏だ。
株式投資の銘柄選びでは何を重視すべきか――。これは投資における永遠のテーマだ。業績、事業内容、PBR(株価収益率)などの指標……。その答えは人により異なるだろう。田中氏は1つの視点として「経営者」を見るという。同氏が運用する投資信託「日本次世代経営者ファンド」はその代表例。これからの日本を担う若き経営者が率いる企業に着目したファンドである。実はデータを見ても、経営層の年代によって株価や業績のパフォーマンスに差があるという。詳しい話を聞いた。
中小型株が出遅れた理由、潮目は変わる可能性も
田中氏は10年以上、日本の中小型株を見てきた。歴史があって企業規模が大きい大型株ではなく、まだ上場からそれほど年数が経っていない銘柄、これからの成長が期待できるグロース銘柄が主戦場といえる。
ここ数年、日本の大型株の株価が上昇する一方、中小型株は動きが鈍かった。しかしその潮流は「徐々に変わる可能性がある」と田中氏は言う。理由を説明する。
「大型株には、この何年間でさまざまな“追い風”が発生しました。たとえば急激に進んだ円安です。大型株の多くは製造業で、海外輸出が中心のため、円安分はそのまま業績に上乗せされました。同時に起きた強いインフレも、大型株の強さを際立たせた要因の1つです。なぜなら商品の値上げや従業員の賃上げといった“インフレへの対応”は、大企業の方が素早く実行できるためです。しかしこれらは一段落ついた印象で、潮目が変わることは十分に考えられます」
円安進行は一服し、また、中小型株におけるインフレ対応の遅れも時間が経つ中で解消されれば、大型株との格差は縮小してくるかもしれない。「大型株が伸びた要因はほかにもあるものの、少なくとも円安進行が止まれば、中小型株への資金流入も増加するかもしれません」と伝える。
ただし東証に上場されている約4000銘柄のうち、時価総額が1兆円を超える大型株は100〜200銘柄程度。残りは中小型株といえる。当然、市場のトレンドが変わってもすべての中小型株が上がるわけではない。「多数ある中小型株の中から優良銘柄を探すことが大切です」と話す。
経営者を調べ続け、中小型株の成長を予測する
中小型株の魅力は、発掘する楽しさだ。「ほとんどの大型株がかつては中小型株だったように、今はまだ規模が小さくても、これから中長期で成長していく銘柄がどこかに存在します。それらを見つける楽しさはありますね。もちろん簡単ではありませんが」。
特に中小型株の場合、1つの事業のみを展開する「単一事業」の銘柄が多く、その事業が世の中のトレンドと噛み合えば業績が大きく伸びやすい。「大型株は複数の事業を持つことが珍しくなく、一事業が好調でも他の事業に相殺される可能性もあります。業績の読みやすさは中小型株の特徴でしょう」。
加えて、中小型株の特徴のひとつとして田中氏が強く推すのは「経営者次第で業績が大きく変わること」だ。規模が大きく、組織も成熟している企業は、経営者1人の力量で状況をがらっと変えるのは難しい。しかし中小型株の場合、経営者の影響力が社内の隅々に行き渡るため、その人物が取る戦略、開発する技術、発する言葉によって企業のポテンシャルが転換する可能性がある。「だからこそ経営者の資質や言動をきちんと分析することが、成長銘柄の発掘につながるのです」。