日本に必要とされる「いい会社」を応援する
「株式投資で社会を良くすることは可能」と言い切る理由、鎌倉投信・五十嵐和人氏は100年先を見据えて運用する
- TAGS.
売りたい誘惑に負けたら、理想にたどり着けない
株式投資を通じて世の中をより良くする――。それは鎌倉投信の大切な根幹であり、五十嵐氏個人にとっても、追いかけ続けているテーマだ。「どうしても売買利益の部分に注目が集まってしまいますが、株式投資の本来的な機能は、世の中に求められる企業に資金を提供し、成長を支援していくことです。つねにその視点で考え、どういった投資をすればよいか考えていますね」。
この姿勢に至ったきっかけがある。五十嵐氏が鎌倉投信に入社したのは2020年のことだが、それ以前も、20年以上にわたり、さまざまな会社で日本株のファンドマネージャーを務めてきた。この中で、投資との向き合い方を見直す機会になったのは2008年。リーマン・ショックにより、自身の担当するファンドの運用成績がマイナスリターンになった時だった。「それでも給料をいただくことに居心地の悪さを感じ、自分の仕事がどうあるべきか、しばらく悩んでいました」。
ちょうどその折、ある人からかけられた言葉が転機になった。「厳しい今の日本を、株式市場からより良くしていきませんか」。このフレーズが心を捉え、以来、どうすればそれが実現できるのか、考え続けたという。
「方法として1つ浮かんだのは、成長企業に投資し、その企業が世の中の仕組みを変えることで社会が良くなっていく道筋でした。しかしこれには、同じ企業に長く投資し続ける必要があります。一般的なファンドマネージャーは四半期(3カ月)ごとに成果が求められ、長期で投資し続けるのは難しい。一時的でもパフォーマンスが悪い銘柄は入れ替えるケースも珍しくありません。長期投資を実行するのは簡単ではなかったんです」
こうした中で知ったのが鎌倉投信だった。投資先がいい会社である限り、長期で保有し続ける。その理念はまさに五十嵐氏が実現したいことだった。
現在は、「結い 2101」の運用を手掛ける同氏。本当に株式投資で社会を良くすることができるのか。そう思う人もいるだろうが、「私は可能だと信じています」と五十嵐氏は言い切る。「株式会社のルーツは東インド会社にあると言われますよね。世界各地に航海する上で莫大なリスクがあり、費用もかかります。そこで株式という形で資金調達を行い、成長につなげていきました。それはきっと社会の発展に寄与したはずです」。こうした“株式の本質”があるからこそ、世の中に貢献するいい会社に長期で投資していく。
その姿勢はどこまでもぶれない。取材の終わり、五十嵐氏にとって「投資をひと言で表すなら」と聞いた際も、「我慢」と答えた。「特に長期投資は、結果が出るまでに時間がかかりますし、その間に訪れる“売りたい誘惑”にも勝たなければなりません」。もし誘惑に負けてしまえば、自分たちが望む姿にはたどり着けない。追い求めるのは、あくまで社会のための長期投資。古都・鎌倉から100年先の日本を見つめて、投資で未来を作っていく。
(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)
※記事の内容は2025年5月現在の情報です