米国が「普通の国」になる

提供元:日興アセットマネジメント

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世界の姿は米国中心から国・地域別に変わる

全体として主要国は、これまで以上に自国の防衛負担の拡大が求められる。財政規律は当面緩みがちになり、関連産業への資金供給は拡大するだろう。各国・地域では、米国輸出の依存度を下げ、自国産業の強みを磨き、国内消費を強化する政策が打たれるだろう。

主要先進国:米国の最終需要に依存する企業は、これまで以上に米国での製造に注力することになる。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)のような関税を撤廃する多国間協定では、最終需要地が日本や英国であれば問題ないが、米国の場合、誰が関税に関わる価格調整を負担するかが問題になってしまう。米国の製造業復活までは、米国とそれ以外にバリューチェーンを分ける必要があるだろう。日本や欧州主要国は、米国への輸出分について、自ら需要を生み出す仕組みを持つ必要がある。例えば、ドイツが直面する労働問題を含む産業構造改革の必要性は高まるだろう。

日本:自らの生産物を消費する力と筋肉質の経済を持つということは、日本においては経済変動の調整能力を強化することだと考える。岸田政権時代から着手されているが、労働市場の流動性を高めつつ社会的なセーフティネットを強化することが一つの例である。企業活動の落ち込みを米国の需要拡大を待つことでかわすことは難しくなる。これまで企業に社会保障を背負わせてきた面がある(例えばコロナ禍の際の雇用調整金)が、今後は企業活動がフレキシブルになり、政府や公的機関がセーフティネットとしての信頼感を獲得する必要がある。一方、日本や欧州主要国における製造業の空洞化が米国ほどではないとすれば、米国が製造国になるまでの間、自由貿易を維持拡大することは適切である。

中国:米国は中国について、権威主義的政策により景気悪化時に過剰生産で経済を支えたことが、米国の空洞化の原因になったと指摘している。対する中国は、政治体制批判が含まれるため、全面的に交渉に立つことが難しい。ただし、トランプ政権は中国への鎖国的高関税率を引き下げたいと述べており、例えば中国側がすでに放棄した鉄鋼やアルミの過剰生産を改めてしないと覚書を交わすなどすれば、かなり緊張が緩和するだろう。中国が保有する米国債の売却が懸念されているが、実利はなく可能性は低いとみている。

ただし、中国の輸出額縮小で米国債購入は次第に減少することになろう。中国自身は、今後自国の消費を拡大して自律的な経済を作る必要性が高まる。消費を持続的に成長させ一人当たりの所得を高めて先進国になるために、社会保障の強化で安心して消費できる社会を作り、企業活動の予測可能性を高めて民間企業の成長を促す必要がある。

投資判断は政治の評価がより重要になる

米国が超大国の座を降りる世界では、各国・地域の独自性が強まり、投資リターンの相関性が低くなり、ポートフォリオのリスクは低下傾向になると期待される。米国経済だけ分析していれば良いのではなくなり、国・地域別の経済サイクルを知る必要が強まる。さらに、投資判断のため米国を含む各国・地域の政治への評価がこれまで以上に重要となる。

投資のシナリオは、経済事象ではなく政治事象をそのスタートラインにするよう考慮する必要がある。例えば、トランプ政権の中間層底上げや保護主義などの考え方は民主党の考え方と共通点も多く、今後の米国の基本観になるとみているが、方法や変化のスピード、国際協調などについては選挙民の選択がますます重要になる。選挙結果別の政策シナリオから経済や企業活動をケースごとに予想し、投資判断を行うことが考えられる。また、固定為替相場への回帰など大きな変化を考える必要もある。今後、地政学や政策のアナリストの重要性が増すことになるだろう。

(日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト 神山直樹)

当資料は、日興アセットマネジメントが情報提供を目的として作成したものであり、特定ファンドの勧誘資料ではありません。また、弊社ファンドの運用に何等影響を与えるものではありません。なお、掲載されている見解および図表等は当資料作成時点(2025年5月13日)のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。投資信託は、値動きのある資産(外貨建資産には為替変動リスクもあります。)を投資対象としているため、基準価額は変動します。したがって、元金を割り込むことがあります。投資信託の申込み・保有・換金時には、費用をご負担いただく場合があります。詳しくは、投資信託説明書(交付目論見書)をご覧ください。

著者/ライター
神山 直樹
2015 年 1 月に日興アセットマネジメントに入社、現職に就任。1985 年、現 SMBC 日興証券株式会社にてそのキャリアをスタート。日興ヨーロッパ、日興国際投資顧問株式会社を経て、1999 年に日興アセットマネジメントの運用技術開発部長および投資戦略部長に就任。その後、ゴールドマン・サックス証券株式会社やモルガン・スタンレー証券株式会社、ドイツ証券株式会社、メリルリンチ日本証券株式会社において、チーフ・ストラテジストなどとして主に日本株式の調査分析業務に従事。
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