【三宅香帆の本から開く金融入門】
経済のプロが、これから20歳を迎える若い世代への手紙を書いた 『経済評論家の父から息子への手紙』
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自分は何を幸福だと思うか言語化せよ
また、お金の問題だけでなく、将来的にどうやって幸福を得るか、というところまで著者は説く。
著者いわく、自由とお金はトレードオフになりやすい。そのなかでいかに自分のバランスを得ていくかが重要なのだという。
さらに「仲間に承認されること」は幸福感に寄与しやすいが、劇薬でもあることが強調される。認められたり褒められたりするともちろん嬉しいが、そこにとらわれすぎると人は不自由になってしまうという。
自己承認感には、他人との比較に陥りやすいという、回避の難しい問題がある。なかなか、「そこそこ」では、安心と満足を同時にもたらしてはくれない。対策は、何らかの比較から意図的に「降りる」ことだ。父は、主として所有不動産の比較から意図的に降りた。
(山崎元『経済評論家の父から息子への手紙 お金と人生と幸せについて』/Gakken)
たしかに他人と比較し始めると、どこまで行っても終わりのない、満足の得られない状態になってしまう。――ではどうすればいいのか。著者は他人との比較にとらわれすぎないためにも、「自分にとって、どのようなことが嬉しくて幸福に感じるのかに気づく」ことが重要であると説く。さらに、自分にとって何が幸福か考えたら「それを言語化しておこう」と言うのである。
一人一人、幸福な瞬間は違う。嬉しさを感じるタイミングは異なる。だからこそ、それを言語化し、そこに合わせて自分のキャリアや時間の使い方を調整していくことが重要だと本書は語る。
本書の構成は、著者が息子に宛てた手紙という形をとっているため、基本的に親しみやすい語り口だ。しかし読みやすいながら、伝えようとしていることは、タフでシビアな資本主義の原理原則であったり、幸福になることを怠けてはいけないという厳しいメッセージであったりする。そこには、若い世代にこそ本当のことを伝えたい、手加減せずに伝えるべきことを書く、という著者の姿勢が垣間見える。
本書を通して、経済の仕組みに興味をもったり、自分のキャリアや時間の使い方について考えたりする人が若い世代に一人でも増えることを祈りたくなる、そんな一冊である。