「投資INSIDE‐OUT」

感性が鈍くなったのではないか

提供元:三井住友トラスト・アセットマネジメント

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◆発言の背景は?

5月12日(月)の衆院予算委員会での石破首相の一言が注目されています。首相は赤字国債による経済対策を主張する財政積極派に対し、『金利のある世界がいかに恐ろしいものかを甘く見ていないか。低金利やゼロ金利の時代が続いたので、感性が鈍くなってしまったのではないか』と発言しました。

誠実で理知的な語り口を持ち味とする石破首相にしては、珍しく強い表現になったのは2つの背景があると考えられます。1つは、野党や一部の与党議員から依然として現金給付や大型財政出動を求める声が強いことです。「財源なき財政拡大論」に歯止めが利かなくなりつつあるなか、石破首相率いる自民党は消費税減税を参院選の公約に据えない方針を固めました。安易な財政拡大論に距離を置き、責任政党の立場をアピールしたかったのでしょう。

2つ目の背景は、金利環境の急変です。残存期間が10年を超える国内の超長期金利が、3月以降に水準を切り上げています。新発40年国債利回りが3%台半ばと発行開始後の最高水準を更新しているほか、新発30年国債利回りも3%の大台が目前です。前述したような財政規律の弛緩に対する懸念が反映されているとみられ、首相は一定の危機感を示そうとした可能性があります。

◆言葉の強さゆえに発言の真意が伝わらず?

この発言には様々な受け止めがありました。債券市場では、概ね肯定的な評価が見られました。超長期国債市場の変調に日々直面し、2022年秋の英トラス・ショックを彷彿させるとの見方が広がっているなか、首相の強い言葉にそれほど違和感が無かったのかもしれません。

他方、一部のSNS空間等では厳しめの評価が見受けられました。「感性が鈍くなった」は、聞き手によっては人格や知性への攻撃と受け取られかねない表現でもあります。実際、発言直後から「上から目線だ」「感性が鈍いのはどっちだ。今こそ消費税減税だ」といった厳しい表現での批判が出ました。言葉の強さゆえにやや歪んだ形で拡散してしまい、発言の真意や背景を巡る考察が深まらなかった印象です。

「どう言っているか」ではなく「何を言っているか」に

では、より適切な表現はなかったのでしょうか。例えば「長く続いた低金利の時代が、私たちの感覚を少し甘くさせてしまった面があるのではないか」や「私自身は、金利上昇が始まっている中で、赤字国債の発行には慎重であるべきだと考えている。ただ、さまざまな立場があるのは承知しており、だからこそ丁寧な議論を重ねたい」といった言い方であれば、反対派にも聞く耳を持ってもらえ、議論が深まったかもしれません。

物の本によれば、「過度に派手な言葉を使わない」姿勢は、「聞き手の判断力を信じている」というサインになり、心地良い信頼関係のもとで議論を深められるという考え方があるようです。「どう言っているか」ではなく「何を言っているか」を冷静に議論できる環境づくりは、意外と重要な論点と言えるのかもしれません。

国民に歓迎されないような話でも、リーダーが適切な言葉で説明し、建設的な議論を促していくことは大切です。
今回の首相発言は、そのことを改めて印象付けたように思います。

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(提供元:三井住友トラスト・アセットマネジメント)

著者/ライター
稲留 克俊
シニアストラテジスト
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