政府が国土強靭化の中期計画を決定
世界一の「防災大国」へ、鍵を握る先端技術
提供元:ちばぎん証券
2025年6月、政府は2026年度から始まる国土強靱化の中期計画を閣議決定しました。
今回の中期計画は2023年6月に成立した改正国土強靭化基本法を受けて作られたもので、現在政府が推進している「国土強靭化5カ年加速化対策」の後継となるものです。
加速化対策で取り組んできた主要施策、
・激甚化する風水害や切迫する大規模地震等への対策
・予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた老朽化対策
・デジタル等新技術の活用による関連施策の効率的な推進と高度化
などをさらに強力に推進するため、事業規模は現行計画より5兆円以上大きい「20兆円超」に拡大されました。
大地震対策が国民的最重要課題であることは言うまでもないことだろうと思われますが、近年は頻発する豪雨災害への対応も高い関心を集めています。
また、今年1月に埼玉県で発生した道路陥没事故は、古くなった下水道管の破損が原因とみられますが、県が2週間にわたって120万人に対し下水道の利用自粛を求める事態を引き起こしました。ひとたび都市インフラが重大な事故に見舞われれば周辺住民の生活におよぼす影響がいかに大きいか、予防保全型の老朽化対策が求められる所以でもあります。
日本のインフラ設備は多くが高度経済成長期前後に整備されており、今後建設から50 年以上経過する設備の割合が急速に高まります。国土交通省によると、たとえば道路橋は5年後の2030年に約 54%、さらに15 年後には約 75%に達する見通しです。同様に水道管路は5年後に約21%、15年後に約41%、下水道管は5年後に約16%、15年後に約34%になると見込まれています。
予防保全のためにはインフラの老朽化を早期に把握し、適切に対処することが重要です。ただ対象は膨大で全国津々浦々、深刻な人手不足も重くのしかかります。そこで期待されるのがAI、ドローン、人工衛星など先端技術の活用です。
鋳鉄管で国内首位のクボタ(6326)は産業技術総合研究所と共同で地面に電気を流して土壌の電気抵抗を調べ、塩分濃度を測ることで水道管の腐食具合を推定する技術を開発しています。
同社はすでにAIを活用して水道管の老朽度を推定するサービスを提供していますが、新たに産総研との開発の成果を活かし、漏水リスクの高い水道管を絞り込む考えです。従来の道路を掘り返して直接確認する方法では1日に10メートル程度しか検査できなかったところ、この技術を用いれば1日に5000メートルの検査が可能、費用は30分の1になるとのことです。
インフラ点検の分野ではドローンの積極活用も期待されます。
産業用ドローンを展開するACSL(6232、東証グロース)は3月、茨城県境町で下水道の点検を実施しました。上下水道のコンサルティングなどを手掛けるNJS(2325)と共同開発したドローンを投入、搭載したカメラで下水管内部のひび割れなどを撮影しました。町によると今回の点検委託料は1メートルあたり1万円。コスト面に加え、有毒ガスの発生や急な出水などによる作業員の危険を回避できるメリットも大きいとのことです。
地球温暖化の影響で近年の日本では大雨特別警報、緊急安全確保など、本来ならば数十年に一度しか経験することがない災害に対する警戒情報を頻繁に耳にするようになりました。水害や土砂災害も激甚化の一途を辿っているように感じられます。ただ、大地震と違い水害や土砂災害は予測が可能な災害でもあります。予測精度を高め、周知を工夫、徹底することで被害を最小限に食い止めることができるはずです。
防災コンサルティングなどを手掛ける構造計画研究所HD(208A、東証スタンダード)はリアルタイム洪水予測システム「RiverCast」を提供。河川水位予測情報を15時間先まで予測するクラウドシステムで、メールでのアラート通知機能も備えています。
建設コンサルティングの建設技術研究所(9621)は集中豪雨などによる水害の発生リスク情報をリアルタイムに地図上に表示するサービス「RisKma」を展開。昨年11月には気象庁から民間企業として初となる「洪水予報業務」の許可を取得しました。
防災分野のクラウドサービスを提供するドーン(2303、東証スタンダード)は、自治体からの委託を受けて構築する住民向け「防災アプリ」を手掛けています。平時は防災学習やハザードマップの確認、切迫時には避難情報、災害情報の有無を通知します。
通信工事大手のミライト・ワン(1417)は洪水や河川の氾濫の発生を検知しリアルタイムで通知する「冠水センサー」を提供。商用電源不要、無線通信利用のため簡単に設置でき、関係者への広範囲かつ安定的なメール一斉送信を実現します。
われわれが日本という国で生きていくために避けて通ることができない災害への備え。そこに貢献しようと多くの企業が奮闘しています。そうした企業を「株式投資で応援する」。銘柄選択の切り口として、「あり」ではないでしょうか。
(提供元:ちばぎん証券)