ボトムアップ型の投資で積み上げた成果
1.3兆円の「日本株」運用を世界から託された人間の真髄、ゴールドマン・サックスAM・小菅一郎氏の流儀
この乱高下で投資家は何をすべきか
日本株を投資対象とした投資信託のポートフォリオ・マネジャーを務める小菅氏。その1つである「GS ・日本株ファンド(自動けいぞく)」では、成長性、経営陣の質、株価水準という、主に3つの視点から銘柄選定を行っている。
2020年末に1万9668円だった同ファンドの基準価額は、2024年末に3万1563円へと上昇。日本市場自体が伸びていたという前提はあるが、堅調な成績を残している。
先述したように、このファンドの特徴は成長性のある銘柄を見つけることだ。どのように探すのか。まず前提として、企業には短期的成長と長期的成長があり、「株式投資の観点では長期的成長を重視しなければなりません」と話す。
「株価とは、簡潔に言えばEPS(1株あたり純利益)とPER(株価収益率)の掛け合わせで形成されると考えています。このうち、EPSは企業の短期間の利益で上昇しますが、PERの向上には長期的な業績の成長が必要です。だからこそ、企業の業績が何%上がるかだけでなく、その成長が“何年続くか”という視点が重要になります」
企業のROE(自己資本利益率)に目を配ることも大切だ。「利益を上げただけでは株価につながらないケースも珍しくありません。少ない自己資本でどれだけ効率的に利益を上げられたか、それを示すROEが上がると株価につながりやすいのです」。
もう1つ、企業の成長性を見極めるためには「経営陣」もポイントになるという。「経営陣が成長への意欲を持ち、そのためのアクションを取っているか。ここがなければ、もちろん企業が伸びることはできません。M&Aや設備投資、人材投資、研究開発への注力など、実際の行動に表れているかが大切です」。
こうした情報は、各社の中期経営計画からも得られるという。数年後までにどのような数字を目指し、そのために何をするか、企業の戦略が事細かに書かれている。その内容をもとに、経営陣の成長意欲と、それに対する具体的なアクションを精査するのが1つの方法だと話す。
なお、トランプ政権になってから、関税をはじめ、市場の外部環境が日々大きく変化している。こうした状況下では企業の舵取りが難しく、それを担う経営陣の重要性が高まると小菅氏は付け加える。
舵取りが難しいのは投資家も同じだ。海の向こうから日々伝わるニュースによって、市場ではたびたび乱高下が起きた。「不測の事態が起きた時、心理的な変化が生まれるのは一般の投資家だけではありません。私たちプロも同様です」。では、その“波”にどう対応すれば良いのか。
小菅氏は、まず不測の事態に備えて「日頃から分散投資を徹底すること」と話す。「銘柄の分散はもちろん、投資タイミングを一時に集中させない、つまり時間的な分散も重要です。何より避けなければならないのは、こうした一時的な乱高下で投資自体をやめてしまうことです」。
その上で、小菅氏は乱高下が起きた際、状況を数字に落とし込むことで冷静な判断につなげるという。「関税政策であれば、実際にその政策が企業の業績にどれだけの影響を与えるか、専門家を交えて具体的な数値を計算します。そして、その数値と現在の株価を比較し、市場の反応が過剰なのか、あるいは妥当かを確認しますね」。数字に落とし込むことで、実態が少しずつ明らかになり、感情的な思考を避けられるという。
これはプロならではの対処法と言えそうだが、もう1つ、小菅氏が乱高下の際に実践する行動がある。「多様な意見に触れる」ことだ。
「予期せぬ事態が起きると、どうしても自分が望む内容のニュースばかり見てしまいますよね。都合の悪い情報に蓋をするのではなく、そういう時こそ、あえて自分の頭にない意見を吸収しています。いろいろなシナリオを想定できるからです」