ニッポン、新時代

ボトムアップ型の投資で積み上げた成果

1.3兆円の「日本株」運用を世界から託された人間の真髄、ゴールドマン・サックスAM・小菅一郎氏の流儀

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チームづくりの秘訣は「徹底した議論」

総額1兆3000億円以上の資産運用に関わる小菅氏(※投資信託以外も含む)。ポートフォリオ・マネジャーとしての強みを尋ねると、「私個人ではなく、当社の日本株運用チームそのものが強みです」と笑顔で伝える。

小菅氏が率いる日本株運用チームは、10名弱のメンバーが所属し、それぞれが企業リサーチを重ねて投資候補をピックアップする。そうしてチームで毎日議論を行い、最終的な投資判断を決定する。「こうしたボトムアップ型の運用が特徴です」と話す。

チーム作りにもコツがある。各メンバーは特定のセクター(業種や分野)を専門としているが、チーム全体で異なるセクターを担当するメンバーが集まり、議論を重ねることを重視している。多様な意見を取り入れることで、投資家の視点を養い、幅広いセクターに対する視野を広げることができ、投資判断に活かすことができる。

「私たちは、それぞれが担当セクターを持ちながら、それ以外の領域もアクティブに議論できる体制を整えてきました。全員参加で意見を述べられるのが強みです。会社の人事評価でも、議論への参加を重視していますね」

なぜ議論を大切にするのか。そう聞くと、小菅氏のやさしい表情に少しだけ力が加わった。

「投資において、絶対的に正しい一人の意見は存在しないからです。おおむね正しいことを言っている人がいたとしても、何から何まで100%正解ということはあり得ません。どこかに間違いが存在します。だからこそ、いろいろな人と議論して、自分とは違う考え方を知る。その積み重ねにより、チーム全体で間違いを減らしていくことが大切なのです」

小菅氏も、他のメンバーの考えや、自分と異なる意見を積極的に聞いていくという。その会話こそが「何より楽しいんです」と漏らす。

同社の海外メンバーとのコミュニケーションも欠かさない。アメリカの関税政策やそれに対する他国の動きはどうなのか。同じセクターでも、国が変わるとどのような実情なのか。現地目線の情報を得るという。

「国内にいると、つい日本企業のネガティブな面ばかり目につくことが多いのではないでしょうか。しかし、海外で話をすると、外国人から日本企業の魅力や可能性を力説されることも少なくありません。ぜひ国内からも、頑張っている日本企業にもっと目を向けてもらえたらうれしいですね」

取材を通して印象に残ったのは、「自分の考えがすべてではない」という小菅氏の強い思考だ。だからこそ、あえて異なる意見に触れる――。言葉にすればシンプルだが、実践するのは簡単ではない。それを厭わずやり続ける姿に、世界の投資家から日本株運用を託された人間の真髄が詰まっている。

(取材・文/有井太郎 撮影/森カズシゲ)

※記事の内容は2025年6月現在の情報です

著者/ライター
有井 太郎
ビジネストレンドや経済・金融系の記事を中心に、さまざまな媒体に寄稿している。企業のオウンドメディアやブランディング記事も多い。読者の抱える疑問に手が届く、地に足のついた記事を目指す。

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