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【格言かぶオプコラム】第3回:売り損ないの後悔は苦痛
提供元:株式会社シンプレクス・インスティテュート
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【格言かぶオプコラム】第2回:売るべし、買うべし、休むべし | 東証マネ部!
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「投資は難しい」――そう感じている方は少なくありません。その理由は何でしょうか。銘柄選びの目利きが難しいからでしょうか。それとも、決算書やチャートを読み解く知識が必要だからでしょうか。もちろん、そうした分析力は重要です。しかし、投資家が本当に悩んでいるのは、もう少し別のところにあります。
多くの個人投資家はとても勉強熱心です。PERやROEといった指標を学び、企業のIR情報に目を通し、経済ニュースも常にチェックしています。この記事を読んでくださっているあなたも、きっとそのお一人でしょう。そして、将来性のある銘柄を見極めて購入するところまでは、多くの人が理性的かつ冷静に判断できています。むしろ難しいのはその後です。株を買ったあと、どのタイミングで売るか――そこから先にこそ、投資の悩みと後悔が潜んでいます。
たとえば、値上がりを見込んで1,000円で買った株が1,300円まで上昇してきたとしましょう。そこで売って利益を確定しておけばよかったのですが、つい「この勢いなら1,500円くらいまで行くかもしれない」と欲を出して持ち続けた結果、株価が1,200円に下がってしまい、「1,300円で売っておくべきだった」と反省する。こうした経験は多くの投資家にとって身に覚えのあるものではないでしょうか。一度はそれなりの含み益を目にしていただけに、自分の判断の悪さを深く反省する羽目になるのです。
こうした投資家心理を、江戸時代の相場師・本間宗久は「売り損ないの後悔は苦痛」と言い表しました。200年以上前の格言でありながら、現代に生きる私たちの胸にもずしりと響きます。
では、どうすれば「売り損ないの後悔」から解放されるのでしょうか。「利食い千人力」という格言もある通り、ほどほどの利益で確定すればよいと言われればその通りですが、言うは易く、行うは難し。「できるだけ高く売りたい」という気持ちが判断を鈍らせ、売り時を逃してしまうのです。そこでご紹介したいのが、ITM(イン・ザ・マネー)のコールを売るカバード・コール戦略です。
カバード・コールとは、保有株に対してコールを売ることで株を売却する義務を負いつつ、その見返りとしてプレミアム(オプション料)を受け取る戦略です。通常は、今よりも高い価格で株を売りたいという気持ちから、OTM(アウト・オブ・ザ・マネー)のコールを売ることが多いのですが、ここで紹介するのは、あえて現時点の株価よりも低い行使価格、つまりITMのコールを売るという方法です。
ITMのコールを売ると、その後高い確率でオプションが行使され、株は行使価格で売却されます。一見すると「今の株価より安く売るのは損では?」と思われるかもしれませんが、その代わりに受け取るプレミアムが大きくなるのが特徴です。行使価格と現在の株価の差額以上のプレミアムが得られる場合、今すぐ株を売るよりも利益が大きくなるのです。これは、コールに「時間価値」が含まれているため、その分だけ利益の“上乗せ”があるからです。また、仮に最終日の終値が行使価格を下回り、株が売却されなかったとしても、プレミアムはそのまま手元に残ります。何もせずに値下がりを見送るよりも、ずっと建設的な対応になるでしょう。
たとえば2025年4月に任天堂(7974)の株を10,000円で購入したとしましょう。5月には12,000円を超える水準まで上昇していました。そこで、「今売るべきか、それともまだ持つべきか」と迷ったときに、行使価格11,000円のコールを売るのです。株価が12,000円前後であれば、このコールには1,000円以上の値がつくことが期待できます。
実際、5月8日の任天堂株の終値は12,020円で、このとき6月限行使価格11,000円のコールは1,342円で取引されていました。すぐに株を売却した場合、利益は2,020円で確定しますが、その代わりにコールを売ることで1,342円のプレミアムを確実に得ることができます。その後、仮に最終日の終値が11,000円を上回っていれば、保有株は11,000円で売却されます。この場合、株の値上がり益1,000円+プレミアム1,342円=2,342円の利益となります。結局、6月限最終日である6月12日の任天堂株の終値は11,795円で、狙い通りの結果となりました。
もしこのとき、株もコールも売らずに様子を見ていた場合、6月12日時点での評価益は1,795円に減っています。「もっと早く売っておけばよかった」と、決断の遅さを反省する結果となっていたことでしょう。
このように、「そろそろ売り時かもしれないが、もう少し利益を伸ばしたい気持ちも捨てられない」というときに、ITMのカバード・コールを活用してみましょう。株価が行使価格以上で推移すれば株は売却され、加えてプレミアムも手に入ります。もちろん、コールを売った後に株価が大きく上昇してしまえば、売り時が早すぎたと感じることは避けられません。しかし、少なくとも判断が遅れたことによる後悔を避けられるという意味では、十分に価値ある戦略だと言えるでしょう。
投資の悩みの多くは、感情の揺れから生じます。残念ながら、どこが天井かを事前に知ることは誰にもできません。だからこそ、あらかじめ冷静な判断を支える「仕組み」を用意しておくことが大切なのです。
ITMのカバード・コールは、「控えめな売値」と「確かなプレミアム」を組み合わせることで、後悔しにくい出口戦略を設計できる手法です。やや上級者向けの戦略ではありますが、保有株に利益が乗ってきたときには、ぜひ思い出して試してみてください。
(株式会社シンプレクス・インスティテュート)
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